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第190話 正夢?

誤字報告ありがとうございます。



「……様」

「……人様」

「ご主人様」


 ……


「ご主人様! 気付かれましたか!? 私が分かりますか?」


 ……ルシエルだよな? 何をそんなに悲壮感漂わせて必死に叫んでるんだ?

 あー、しかし変な夢だったなぁ。神に人間にされて、それがしかも【御者】だったなんて、ホント悪夢としか思えなかったよ。

 ん? 夢? オレは夢を見てたのか? オレって寝てたの? こんな事初めてじゃないか?

 そういや神様達はどうなったんだろ。ちょっと記憶が曖昧なんだけど。


「…ルシエル?」

「ご主人様ー!」

 ガバッとオレに抱きつくルシエル。そのまま顔をオレの身体に押し付け号泣していた。

 その後から横からオレの背中から、口々に「ご主人様!」と叫びながら抱き付いて来る従者達。泣いてる者も半数以上いるみたいだ。


 どうしたの? 大袈裟だなぁ。ちょっと寝てただけじゃないか。

 そりゃ馬車になって寝たのは初めてだけど、そんなに大袈裟に叫んで抱きつく事はないと思うよ?

 あ、もしかして、オレが神から攻撃を受けて気絶してたとかだったんだろうか。


 しばらくは全身を従者に囲まれ身動きができなかったが、従者達もようやく落ち着きを取り戻し、今くっついてるのはルシエルとライリィとオレの髪の毛を引っ張ってるパルだけとなった。


 うん、さっきからおかしいとは気付いてる。

 オレって人間になってるよな? もしかして【御者】が本体になって、荷台がサブ的なスキル扱いになったとか?

 それを神に無理やり変更されて、それで気を失ってたとか?

 実は正夢だった……にしちゃ、ちょっとシュチエーションが合わないな。夢だと森の中で一人だったし。夢にしちゃ現実感がありすぎた。

 何かあったんだろうな。ルシエルがこれじゃ説明もできないだろうし、誰か説明してくれないかな。


 視界は……うん、ちゃんと九つあるな。時間も表示されてるし、ハイアングル視線ではルシエルとライリィが誰かに抱きついてるのが分かる。これがオレなんだろうか。

 場所は同じく浴槽の横。神も精霊女王も海神様も龍神様もいるな。ちょっともめてるみたいだけど、今はちょっと放置させてもらおう。こっちの確認が先だ。

 はっきりと時間を見てたわけじゃないけど、時計の感じだと十分も経ってないんじゃないだろうか。


 ようやく落ち着きを取り戻し、オレから離れた従者一同。その中央に立つ一郎を確認した。そうだな、一郎なら状況報告にはもってこいだ。そう思って一郎に話そうとしたら、また違和感があった。


 視線が変だ。

 今までは九つの視線画面が均等に配置されてたのに、一郎に集中した途端、一郎が映ってる正面画面が大きくなった。

 他の画面が小さくなって大画面の周囲に小さく配列されてしまった。

 それでも小さくなった視線画面が分からないわけではない。確認できるけど、ちょっと意識から薄れる程度。誰がいて、何をしているのかは今まで通り分かるんだけど、大きくなった画面では更に意識が集中するという感じ。

 もちろん鑑定の文字はどの画面でも出ている。もう慣れたけど鬱陶しいのは変わらない。


「主様、如何いたしましたか?」

 オレが何か言いかけたのが分かったんだろう。気を使って声を掛けてくれたみたいだ。相変わらず気が利く執事だな。


「あ、いや、オレって倒れてたの?」

「! ご自覚がございませんでしたか。あの神と申す女性に何かをされたようでした。あの女性が何かを念じると、急に荷台が消え、今の姿の主様が現れました。しかし、意識が失っておられましたので、回復薬を施しましたが効果が無いようでしたので、ずっと皆で呼びかけておりました」


 今の姿って……姿が変わってもオレって分かってたの?

「よくオレって分かったね。どのぐらい意識が無かったのかな」

「はい、私共が主様を見紛みまごうはずがございません。あの女性からは悪意も感じられましたので捕らえようと動いた者もいましたが、精霊女王様、海神様、龍神様に止められまして、今は精霊女王様があの女性を諌めておられるところです」


 見間違うはずが無いって…どういう理屈か分かんないけど、そうなんだね。

 で、精霊女王に神が叱られてるというのが現状か。神は正座させられてるね。精霊女王が前に立ってずっと小言を言ってるようだけど、他の海神様と龍神様はさっきまでと変わってないようだね。龍神様は湯船に浸かってるし、海神様はまだ食べている。でも、止めには入ってくれたのか。良かったよ、神々の敵にはならずに済んだみたいだ。

 あー、あれがそうか。ベンケイなど何人か伸びてるよ。大丈夫か?


 ルシエルとライリィが、まだオレから離れようとしないので、この場から回復魔法を試してみた。

 いや、何となくできるような気がしたんで『回復地帯ヒーリングゾーン』を実行したんだ。

 荷台はどこに行ったか知らないが、周りを見ても無いので、そのまま実行した。

 対象者は視線画面でロックしている。

 効果は絶大。気絶してる奴らを回復の光が包み、『回復地帯ヒーリングゾーン』が実行された事が見て分かった。


 あれ? なんでこんな事ができるんだ?


「ふっ、折角さっき超進化と教えてあげたのに」

 ボソっと神が呟いたが、精霊女王の小言の連打にかき消されてしまった。

「あんた何笑っとんねん! ホンマに反省しとんのか!? あんたは大変な事をしたんやで! この世界だけちゃう、他の世界にも危険があったんや! 現にあんた失敗しとるやないか!」


 なに!? 失敗? だったらオレの今の姿は神が失敗したから人間になれたのか? 成功してたら馬車のままだった?

 神の奴は懲りずにまたオレの思考を読んだんだな。何かオレに言ったみたいだけど、それで怒られてりゃ世話ないね。

 声が小さくて聞こえなかったけど何て言ったんだろ。


「超進化よ」

 今度はあえてオレにも聞こえるような嫌らしい言い方で神が言った。

 どうあってもオレの思考は読むつもりらしい。

 そんな神の言葉で精霊女王が更に勢いを増す。


「なにが超進化や! そんなんもう知っとんねん! 操縦者として人間風にしたったんやろ? ネタはバレとんねん! そやけどな、がわ・・はどこ行っとんや。あんたぁ、がわ・・はどこへやったんや!」


 がわ・・? 外側って事かな? オレの外側といえば馬車の荷台だよな。

 確かにさっきから見当たらないからおかしいとは思ってたけど、失敗してどこかへ消してしまったって事?

 それっていいのか?


 まぁ、荷台だけ異世界に渡ったとしても何もできないだろうから問題は無さそうなんだけど……ありそうだよな。

 さっきの夢……未だにちゃんと覚えてるって事は、あれは夢じゃないとか……

 ヤバいじゃん。あれってオレだよな。


「そんなの失敗なのに分かるわけないでしょ。あなたは失敗してもちゃんと把握する事ができるのですか?」

「ぐっ、そ、それは……ちゃうやろ! なに逆切れしとんねん、今はうちの話なんかしてへんわ! あんたの失態の話をしとんねん!」


 丸め込まれそうな所を耐えたな。でも、時間の問題で丸め込まれるんだろうな。精霊女王の小言も、神には全然堪えてないみたいだしな。

 別に丸め込まれてもいいけど、今後はオレには関わらないでほしいな。それと荷台の行方も…だけど、荷台の行方は……


「どこ! どこなの! あなた何か知ってるのでしょ!」

 神が俺に向かって怒鳴る。

 また読んだのか。もうどっか行ってくれないかな。


「ちょい待ちぃ! まだ話は終わってへんで!」

 精霊女王の制止を振り切りオレの元までやってくる神。

 しかし、オレと神との間には、今までしがみついて離さなかったルシエルとライリィが立ちはだかる。


「もう、あなたの好きにはさせません!」

「そうなのニャ! 排除するのニャ!」

「うちがおる事も忘れたらアカンで!」

 オレの頭に乗ってたパルまで参戦した。

 すまん、パル。オレもお前の事を忘れてた…とは言えないな。


 オレを守るために立ちはだかる三人の前でたじろぎ後ずさる神。

 確か、神は弱いって精霊女王が言ってたな。だったらこの三人で十分だな。もうルシエル達がやっつけてしまうようならそれでもいいだろ。

 神々の敵、神敵認定されてもいいさ。オレのためにやってくれるんだから。

 そうさ、オレ達は主従関係にはなってるけど仲間なんだよ。家族なんだよ。

 だから何があってもオレはこいつらの味方だし、こいつらもオレの味方なんだ。


「そこまでや! 今日の所はあんたが悪い。だいたい馬車に転生させた事自体、うちら全員認めてないからな。だからこの子が転生するのには誰も反対してへんのや。そやのに先走って実行してまうやなんて、ホンマあんた何考えとんのや」

「だって……」

「だってやないわ! まずはどこの世界に行ってもうたか探さなアカンやろ。今日はこの子は疲れとるやろうから、そっとしといたり。姿も変わったから確かめる事もあるやろうしな。全員うちのとこに来たらええわ」


 なんか精霊女王が真面まともに見えるのはオレだけだろうか。

 別人? じゃないよな。天変地異が起きたりしないだろうな。


 それから、精霊女王は神と龍神と海神を連れて、どこかへ消えて行った。

 落ち着いた頃にまた来ると言っていたけど、もう来なくていいんだけど。

 自分の所って言ってたから、あの大きな樹のある異空間にでも行ったのかもしれないな。

 行く前に、食事と酒とデザートは要求されたから出してやったけどね。

 人の姿になっても『料理』や『収納』は使えたよ。


 ホント、あの夢って正夢だったのかな……


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