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第175話 マーメイドを求めて

誤字報告ありがとうございます。



 その日は情報収集も兼ねて、ここランバルダル公国の宿で一泊する事になった。今回は海に潜った興奮もあって、仲間も泊まる事に反対は無かった。情報収集をするためにも食事は町の食堂に何組かに分かれて行くと話していた。初の海とあって、皆テンションが高いみたいだ。


 オレも食堂や冒険者ギルドで情報収集するんだけど、オレの場合は帽子を被ってれば誰にも認識されなくて、色んな情報が聞き放題だからね。

 今も、【御者】を情報の為、食堂内をウロウロさせてるんだから、お前達には用は無いんだよ。


「ペペット?」


 ビクッ!


 お前も飛び上がるのかい!

 目の前でセイシャロン王国でピピットがしてたように、オレの前で拝んでる獣人が四人。

 【御者】をこちらに出し直して名前を呼んでみた。

 猫人族だし、名前が似てるからピピットの関係者かと思ってね。


「ハハーッ! ボクの名前を知ってるんですね! 感激ですぅ」

 お前もボクっかい! 知ってるんじゃなくて名前と種族とレベルのタグが出てるから分かるんだけどね。もうピピットの関係者決定でいいな。

 という事は?


「オレを呼ぶ時ってなんて言うのか覚えてる?」

「はい神様! 主様です!」

 お前もバカっだったか…


「ここにはなんでいるの? この国ってまだ獣人国を認めてないんだっけ?」

「はい主様! もちろんお参り……お役に立てる事があればと思いまして」

 お参りに来たんだね…オレは神様じゃないっての! でも、ピピットと違って主様だけは言えてるね。


「じゃあ、教えてほしい事があるんだけど」

「はい、なんなりと!」

 ランバルダル公国と獣王国の事はいいや。こいつらがいるって事はブレインも関係してるんだろうし、また聞いてしまって旅がつまらなくなっても嫌だからね。


「冒険者ギルドで海の依頼が多かったけど、海の魔物ってどうやって退治するか知ってる?」

「はい、大体は大型船を旗艦とし、何艘かの中型船で船団を組んで討伐に向かうと聞いてます」

「海中にいる魔物はどうするの?」

「出て来るまで待つか囮になる餌などを用意すると聞いてますが、魔物の場合は縄張りの海域に入ると自分から出て来ますから海上で戦うようです」

「ふ~ん、じゃあ、この魔物達がどの海域にいるとか分かる?」


 今日見て来た依頼書を画像として持ってたから紙に写して出した。

 ナビゲーターが一か月程度ならオレの見たものは全部映像や画像として出せるみたいだ。知識として持ってるものも出せるんだからそれぐらいは出せるか。

 チートなような機械のような…複雑だ。


「あ、君達は文字が読めたっけ?」

「はい、お気遣いなく。一郎様の地獄の勉強会…もとい、識字率アップキャンペーンに参加して80点以上の成績を収めなければ暗部には入れないのです」

 キャンペーンってなんなんだよ! ま、スパイなんだからね、書類の文字も読めないと務まらないんだろうけど、一郎がやってたんならこいつらも苦労したんだろうな。


 可哀相だと思ったから収納バッグを四つ渡してあげたよ。

 もう大騒ぎして喜んでたけど、一応遮音の魔法を使ってたみたいだから、周囲に聞かれる事は無かったみたいだ。


 それから知ってる限り、渡した依頼書のコピーの裏に場所や一般的な討伐方法などを書いてくれた。

 オレの情報収集はこれで終わりだな。これ以上は町で聞いても同じだろ。


 お前達を呼びたい時はどうしたらいいんだ? って聞いたら笛を一つ貰った。試しに【御者】に吹かせてみたら普通に吹けた。魔力は使う道具じゃ無いみたいだな。

 こんなのを吹いたらバレバレじゃないのかって聞いたら、人間には聞こえない音なんだそうだ。

 オレには普通に聞こえたって事は……もういいか。今更だけど、どうせ馬車ですよ。


 魔物や動物には聞こえるものもいるそうだから気を付けるように言われた。

 町中でしか使わないと思うから、有り難く頂いておく事にした。



 順々に宿に戻って来る仲間達。

 ボルトとハヤテは留守番だけど、キューちゃんもシルビアと行ってたから、『お腹いっぱいだ~』って言ってた。可愛いからね、きっと色々餌付けされてたんだろう。

 パルはその点まだ小食だし、妖精だと思われてるから人間と同じものを食べないと思われてたのかもしれない。センの道案内係として帰って来た途端「お腹空いたわ~」って言ってたから。


 帰って来たメンバーの話を纏めると、さっきのペペット達の方がよく知っていた。

 せっかく情報収集してくれた仲間達には伏せておこう。

 どうせ一緒に行くんだし、偶々知ってたって思わせておこう。いくつかは同じ情報もあるしね。



 翌日、昨日と同じ浜辺に来ていた。

 人気が無く、依頼の場所に一番近いのがこの浜辺だったんだ。

 依頼はもちろんマーメイド。当たり前じゃん! 絶対に見たいよね。捕獲依頼だけど、依頼書は取って来て無いし、まずは見てからね。話ができるんだったら友達になりたいし、捕まえて人間のオモチャにするなんて考えられない。


 それで岬の沖のマーメイドがいると噂されている岩礁地帯を目指しているんだけど、思ってたほど進捗状況が良くない。

 仲間は非常に喜んでいるんだ。マーメイドの岩礁地帯まで行くには一度沖合に出て大回りをしないといけなかったんだ。港が近いから少し遠回りをしようと思ったら、セイレーンの群れがいたんだ。


 セイレーンって女性の顔と胸を持った怪鳥なんだけど、【ハイアングル画像】の【ズーム】で見てた時は美しいなぁって思ってたんだけど、セイレーンが依頼の魔物だって分かってライリィが様子見の気弾を一発放って一体倒した途端、凄い形相に早変わりしたんだよ。

 もう恐ろしい魔物の顔になって群れで掛かって来たんだ。

 ホントに恐ろしい顔だったよ、あんなのギャップ萌えとは絶対に言わねーからね。


 群れで掛かって来るならうちのメンバーにとっては飛んで火にいる夏の虫、と思ってたら、セイレーンを餌として狙ってたケートスっていう長ーい龍がやって来たんだ。

 ステータス平均が3000だから相当強い龍だけど、うちのメンバーにしたらカモネギだったようで、セイレーンもケートスも根こそぎ討伐しちゃったんだ。


 しかもこのケートス。ポセイドンの従属だったようで、鱗の中にポセイドンの髪をいくつも絡ませてたんだ。これは収納してから分かったんだけど、一度の戦闘で三つの依頼を達成しちゃったんだよ。


 戦闘の時に最後の方は逃げるセイレーンを追いかけたせいもあって、更に沖合に出てしまったんだ。

 戻るかこのまま進むかを思案して進む事にしたら、少し沖合に虹が出てたんだ。

 その虹だと思ってた思ってたものが、ドンドン近づいて来て、最終的にはエインガナって魔物の正体だと分かった時にはもううちの連中の目が逃がさねーってなってたからね。

 途中まではオレにも分からなかったんだ『虹の魔物』って出てただけだったから。

 エインガナって虹の魔物って言われてたと思い出した時には後の祭り。

 うちの連中の殺気に反応して逃げるエインガナを追いかけるために更に沖合に行く事になってしまった。


 だってボルトが曳いてるんだからオレにはどうしようもないんだよ。

 エインガナを討ち取って、帰り道には海龍には出くわすし、マーメイドの岩礁地帯に着いた時にはもう夕暮れ時だったよ。


 マーメイドとは友達になれたってか? あんなのマーメイドって言わねーよ!

 確かに女性で足は尾ひれになっていて上半身は人間のような女性だったよ。なんで老婆ばっかりなんだよ! しかも太ってたし! ぜーんぶキューちゃんとパルの樹魔法で捕らえてやったよ。

 話? 話なんかできない奴らだったよ、話そうとする素振りも無かった。一応、試しに話し掛けたけど、睨んでシャー! って威嚇音を出すだけだったよ。


 なんかいい具合に時間が潰れて、港には人気ひとけが無くなったから、港の真ん中をショートカットして浜辺から上陸した。

 マーメイドはボルトの影の中で捕獲中だ。


 そのまま冒険者ギルドには行かず、町の道具屋で投網を大量に購入してからオレだけ冒険者ギルドに向かった。他の皆は小細工のために港に向かってもらった。


 受付にマーメイド捕獲依頼の依頼書を持って行き、冒険者カードを見せた。

 もう達成報酬とかポイントとか今更なんだけど、今回の目的はマーメイド見学ツアーだったわけで、凄く裏切られた感があったから全部売ってやろうと思ってるんだ。


 期待するオレが悪いってか? なんでだよ、マーメイドなんだぞ! 男の浪漫じゃねーかよー!

 他は素材が手に入ってラッキー程度に思ってたけど、この際だから達成条件になるものを聞いてみた。


 セイレーンは調査隊を出動させ、確認が取れれば依頼達成。ケートス、エインガナ、海龍は本体があれば一番いいが、討伐が出来た事が分かるものがあればいいという事だ。

 ならばと、思いついた事がある。が、まずはマーメイドだ。


 受付で説明を聞いてる間に、マーメイドの確認をすると解体職員と事務職員が出て来たので、【御者】で港まで案内した。

 仲間には港でマーメイドを投網で拘束しておくように指示しておいたから、もう完了しているだろう。

 ギルド職員には二六体のマーメイドの生け捕りを確認してもらった。確認では腰を抜かす職員が続出した。


 通常は一体で依頼達成だったそうなんだ。

 でも、腰を抜かしてるのは事務方の職員だと思っておきたい。実際、怖い顔してるしね。

 投網は進呈すると言って、後の事を任せると言ったが、それは拒否された。

 こんな網ぐらいすぐに食い破られるから今いるメンバーでは対処できないという事だった。


 確かに今はうちのメンバー、特にボルトの目が影の中から光ってるからマーメイド達も大人しくしてるけど、オレ達がいなくなったら暴れ出すかもしれない。

 いつまで待てばいいのか聞くと、朝冒険者ギルトで冒険者を募って、メンバーが揃ってからだと言う。


 それまでここで見張るのはこちらもキツイ。

 どこかに拘束しておける所が無いか尋ねたら、十体程度なら冒険者ギルドの地下牢があると言うが、そこまではオレ達で運ばなければならない。

 もうボルトの影の中でもいいかと思ってたら職員が見張りとして何人か残るって言うし、こっそり影に入れておくわけにも行かないようだ。


 なんでこんな面倒なものを獲って来たんだよ。

 自業自得ではあるけど、このマーメイド達がこんな風だったのが悪いんだよ! オレのファンタジーを返せって言いたいよ。


 いっそ殺しちゃってもいいの? って聞いたらそれもダメだって言うし。生きてるマーメイドは貴重だから絶対に殺すなだってさ。


 拘束具拘束具……強力なロープは無いし檻も作れないな。何か無かったかな……

 お! これなんか使えるかも。鞭だよ。鞭だったらロープ代わりにできるだろ。

 長さも最大十メートルまで設定できるから地龍の鞭を作って仲間に縛ってもらおう。


 地龍の鞭を百本作って仲間にマーメイドの拘束を頼んだ。余ったっていいから余分に作った。

 キューちゃんに深さ三メートル程度の縦穴を土魔法で掘ってもらい、拘束したマーメイド達を投げ入れて行った。

 地龍の皮で作られた鞭だからね、こいつらには嚙み切れないだろ。

 それを見ていた職員たちは驚いていたが、マーメイドを生かして大量に捕縛して来るパーティだからと納得していた。


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