第174話 海の依頼
誤字報告ありがとうございます。
「それで? ブレインが何て言ってたって?」
今朝がた再出現したボス部屋で朝食後、出発前にルシエルから言われた言葉に対する返事だった。
「はい、ここのダンジョン核を取って、新たなご主人様のダンジョンを作ってほしいと言ってました」
結局今回のサプライズの首謀者はブレインだった。モンスターキーが無いからダンジョンは作れないって断ったから今回のような強硬手段に出たのかもな。
でももういいだろ? なんでそんなにダンジョンがいるんだよ。
人間の管理外のダンジョンも沢山知ってるようだし、ブレインってダンジョンマニアなのか?
ブレインってオレが念話で連絡を取ろうとしても滅多に返事をしないからな。ルシエルに聞くしかないかな。
「目的は聞いて無い?」
「はい、大まかには聞いてますが詳しくは聞いてません。保護の為になるべく広く大きく作ってほしいと言ってましたが」
「保護? 何を保護するの? 獣人は獣人国でいいんだろ? これ以上手広くやっても大変なだけだと思うんだけど」
オレが管理するんじゃないから作るだけなら作ってやるけど、いいように使われてるよな。誰がご主人様何だか。
目的が分からなければ、どんなダンジョンにしたらいいかも分からないじゃないか。
狩り目的のダンジョンをこんな離れた場所に作るはずも無いし。転送で来れるとは言っても近くにある方が便利だからね。
住居なら尚更近い方がいいし、遠くに管理するダンジョンを置く目的が分からないよ。
でも、保護っていうぐらいだから住居系でいいんだろうな。収容人員はどれぐらいなんだろう。なるべく広くと言ってもなぁ。
しかも、ここって砂漠のど真ん中なんだけど、誰を保護するの?
広さだけならSP消費も無いし、天井の高ーい大きな大きなワンフロアを三階層作ってればいいか。
昨夜のうちに、今後ダンジョン探索のためにオレを誘うのはナシだと念を押しておいた。特に今回のようなサプライズをしたら、二度と料理を出さないって言ってやった。
ボルトが「こうでもしなければ主殿は付き合ってくださらんではないですか」と言われたが、なぜオレが付き合う必要がある! ダンジョンが好きな奴だけで行ってくれ。
気を取り直して砂漠の行軍を再開した。
出てくる魔物はさっきのダンジョンと同じ様なものばかり。
そうそう、作り直したダンジョンの魔物はキングヒュドラにしてやった。キングヒュドラを三体ずつ各階層に置き、一帯をボス部屋に置いておいた。
ちょっと意地悪かもしれないけど、悪意のある侵入者判定されない限り攻撃はして来ないから大丈夫だろ。ブレインへの嫌味のつもりで一番強い毒系魔物ににしたんだけどなぁ、あいつだったら嫌味と取らないかもな。「おお! さすがは我が主」とか言いそうだよ。
ランバルダル公国までは砂漠を突っ切るルートにしたため、魔物以外には何にも出会わなかった。
普通は砂漠越えなんて無茶はしないんだろうな。それも日中に行動するのは自殺行為だと言うしね。
◇ ◇ ◇
海龍討伐依頼、エインガナ討伐依頼、ケートス討伐依頼、セイレーンの巣排除依頼、ポセイドンの髪採取依頼、ビーナスの涙採取依頼、リヴァイアサンの鱗採取依頼、マーメイド捕獲依頼、オピーオーン捕獲依頼……
ランバルダル公国の冒険者ギルドの依頼ボードに並ぶAランクSランクの依頼を見ている。
海系の依頼ばっかりなんだよ。ここは砂漠だろ? と思ってたけど、大陸最南端で海に面してるから海系の依頼が多いようだ。
確かに砂漠には毒のある魔物が多かったし食材になるものも少なかったから海に食材を求めるのも当然か。
海ね、今まで大海に行った事が無いからどうすればいいか分からない。
内海は経験があるけど、内海は浅いしハヤテでひとっ飛びだったからね。
ボルトとセンが競い合って魔物を獲ってたけど、他のメンバーは海での戦闘経験なんて無いだろうしね。
渡るぐらいならいいんだけど、これって潜らないといけないよね。うちの連中で水中が得意なのっていないし、ここの依頼は諦めようか。
マーメイドなんてファンタジーっぽくて魅力的なんだけどな。一度見てみたいんだけどなぁ。
前から思ってたんだけどオレって潜れたりするのかな? 馬車が水に潜る? 普通じゃ考えられない。
でも、オレって息はしてないし、荷台にいれば結界で空間を保てそうな気はする。
でも引いてくれる者はいないし、空気も水の中じゃ制限があるだろうしな。荷台からだと攻撃も制限されるし、潜るのも無理だな。
自走……今ってどれぐらい自走できるんだろ。全速力でも今回通って来た砂漠を縦断できるんじゃないだろうか。
時速四キロで自走すると自動回復と同じぐらいだから結界と併用して概算でも二四時間以上行けそうだ。時間を十時間までと考えれば全速力の時速五二キロでも行けそうだ。上りでも下りでもSP消費は変わらないんだしね。ヤバくなったら転送魔法陣を描いて戻って来ればいい。
オレの転送魔法陣は地面にハーネスで描くか、墨をハーネスに付けてで石や木に描いた後にキューちゃんに魔法陣に沿って魔力を通してもらって安定させるんだけど、ルシエルや一郎は初めから魔力で描くから水の中でも描けると思う。
ただ、攻撃方法が無い。荷台に乗った仲間が魔法や弓などの飛び道具で攻撃はできるかもしれないけど、防御はどうするんだ? 仲間は荷台に乗ってるからオレの結界で守られてるけど、オレはダメージ受けまくりじゃん! 雷魔法なんか使われた日にゃ、絶対オレまでダメージ食らうよね。
水の中で有効な魔法って火と風は論外として、氷? 樹? 光? 闇? 一度試してみたい気はする。
だって世界初の海に潜る馬車だよ? ファンタジーじゃん!
◇ ◇ ◇
で……今、正に海底を走ってる馬車です。世界初の偉業を成し遂げたはずなんですが、かなりテンションは低いです。はい。
いや~、さっきまではアゲアゲだったんですけどねぇ。
砂浜でハヤテの【バング】をはずしてそのまま海に突進。荷台にはシルビア、ライリィ、ルシエル、パル、今はクレオみたいだけどメイビーとキューちゃんにセンを乗せて海に突撃したんだ。
皆、オレを信じてくれてるのか誰も不安など口にしない、逆に嬉しそうだ。そりゃ潜水艦など無い世界だ、海中を探索する事なんて誰もしないだろう。
オレの予想通りオレは海に潜れた。結界で荷台も問題無かった。後は酸素だけど、ナビゲーターのアドバイスで【クリーン】の魔法で解決した。二酸化炭素って汚れになるの? 念の為、三十分に一回ぐらいかけとけばいいだろ。
もう荷台では大歓声が上がったね、オレもドヤ顔だよ。ここはツッコむんじゃないよ。
荷台にいる面々はもう煩いぐらい騒いでいたよ。確かにきれいな海だし海中だと神秘的に見えるよな。
今日の所はお試し運転という事にしてるから、そんなに沖合に出ずに色々と試したんだ。
まずルシエルの弓。やはり水圧で威力が落ちるから、陸のようにそう遠くまでは届かない。もしサメが来たとして倒せるのは二〇メートルが限界だろう。
次にキューちゃんに魔法を試してもらった。この辺りからおかしくなって来た。
氷はダメだった、アイスランスの軌道上全部が凍ってしまう。オレも多少ダメージを受けた。
で、その氷を融かすためにキューちゃんが炎魔法を使ったんだけど、ここでキューちゃんが閃いちゃった。もう天才ってなんで凡才の努力を無駄にしてしまうんだろうね。
氷を融かすために放った炎魔法を氷の中だけを通すように放ったんだ。だいたい海の中で氷だからと言って炎魔法を使うって選択がおかしいんだけど、それでも氷は融けたよ。
するとキュキューと嬉しそうに樹魔法で枝を前方に生やし、その枝を炎魔法で焼き尽くしてしまった。
なんで海の中なのに樹が燃えるんだよ! というオレのツッコミにはルシエルが答えてくれた。
内部から燃やしてるからだそうだ。
そしたら魚だろうが魔物だろうが内部から魔法攻撃をすればいいんじゃね? みたいな流れになって、全員が近くの魔物に試し射ちを始めた。
これが出来たのはキューちゃんとシルビアだけだった。他のメンバーは自分が出した魔法を媒体とすれば出来たようだけど、直接魔物の内側から攻撃する事は出来なかった。
すると今度はルシエルが、魔力を矢の代わりに射ると地上と変わらぬ威力を示した。
それに便乗したのがライリィ。彼女は気弾だからね、海の中でも関係なかったよ。同じくパルの出すスピリット体も自由に動いてたよ。
クレオは元々回復要因だから少し試してたけどすぐに諦めて大人しくしてたよ。海中を散歩しながらの晩酌は最高じゃって言ってた。
で、最後にボルト。海の底でも影はあるんだね。
もう勝手にしてくれってぐらい自由自在に海の中を動き回ってたよ。
影の分体もいくつも作ってさ、海中で無双してたよ。ついでにオレを引っ張ってくれてさ、今は自走もしてないから。もう、誰もオレの偉業なんてなーんとも思って無い。もうテンションだだ下がり~ってのが今の状況だ。
これで海の依頼を受ける目処が付いたから喜ばしい事なんだけど、最近仲間内では目立たなかったオレに、ようやく見せ場が来たと思ってたんだよ。それがチートな仲間たちのせいで台無しだ。
誰がここまで育てたんだよ! オレはそんな子に育てた覚えはないぞ!
でも、オレの結界だって凄く役立ってるんだよ?
外からの攻撃は防いで内からの攻撃は通す。しかも酸素は逃がさないって凄い結界なんだけどなぁ。
自分からは言いたく無いし、今日の夜も一人で寂しく反省会だな。




