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第172話 元王様のお願い

誤字報告ありがとうございます。



 王城の城門では要件を言い冒険者カードを見せるとすぐに通された。

 待合室に通されたのは、【御者】、シルビア、ライリィ、ルシエル、メイビー、パル、キューちゃん、セン。ハヤテは厩舎、オレは馬車王、ボルトはオレの影の中。ま、いつも通りだね。


 待合室で待っていると、すぐに兵士が呼びに来た。

 兵士の案内で到着したのは、大きなリビングとその奥にもう一部屋あるようなスイートルームのような部屋だった。

 ホテルだと一泊百万ぐらいしそうな部屋だった。たぶん、奥は寝室なのかもしれない。


「ようこそいらっしゃった。余……いや、儂はローレル・セイシャロン、今は一介の貴族なのだが今は城に幽閉されておって貴殿らにご足労いただいた。依頼を受けてくれた事に感謝する」

 腰の低い人なんだな。昨夜、ピピットから聞いた話で受けたイメージ通りいい人かもしれない。

 恰幅の良い、少し太り気味の金髪のおじさんだった。やっぱり最近まで王をしてただけあって、気品もある。歳は六十までは行ってないって感じだな。


「ご丁寧なあいさつありがとうございます。私はキャリッジ冒険団のリーダーです」

 他のメンバーもオレが紹介していくと頭を下げて挨拶をする。

 最後にシルビアを紹介した。


「最後にこのがシルビアです」

「おお! このが……ようやく会えた。リーダー殿、感謝する」

 凄く感動してるな。少し涙ぐんでもいるようだけど、ようやく会えた? 初めて会うのか?

 キャロライン姫のようにシルビアが小さい頃に会ってるとかじゃないの? シルビアに聞いても「知らない」って言うからそうだと思ってたんだけど。


「あの、今回の依頼ですが、なぜシルビアを探していたのか伺ってもよろしいですか?」

「うむ、それはだな……シルビア殿だけに話したいのだが……態々連れて来て頂いた貴公らには悪いのだが、席をはずしてくださらんか」

 言い難そうだし、危険や面倒事も無さそうだ。この部屋にはピピットもいるし、シルビアは収納スキルを持ってるから武具も収納してるだろうし、一旦待合室にでも戻ろうか。


みんな、一度出よ……」

「いいの、皆がいても問題無い」

 オレが皆に退出を促そうとしたら、シルビアに止められた。


「いいってシルビアが決める事じゃ無いだろ。オレ達はさっきの待合室で待ってるから王さ……公爵様がシルビアだけって言ってるんだから…」

「よい、シルビア殿がよいと言うのであれば構わぬ」

 シルビアを諫めようとしたら、元王様から了解が出た。


 それでも元王様が話し出した時はシルビアを置いて壁際まで下がった。

 それを確認した元王様からは軽く会釈を受けた。


「実はな、渡したい物があったのだ。説明をするより、まずは見てもらった方が早いな」

 そう言って元王様が出したのは二枚のカードだった。

 訝しげにカードを眺めるシルビアに元王様が説明を始めた。


「実は我が王家は勇者の信奉者が非常に多い。昔は勇者召喚もよく行われていたらしいが、今は最後に召喚された勇者から二度と勇者召喚をしないように誓いを立てさせられたので、もうこの国では勇者召喚は行われていない。それでも勇者神話が多く残っており、その神話を聞かされて育つ王家のものは勇者信奉者が多くなるのだ」

 そういう背景があったんだね、キャロライン姫も例に漏れず勇者信奉者に育ってたよ。

 それとカードがどう関係するんだろ? 今の説明には出て来なかったけど。


「このカードは、この国で召喚された勇者達に渡されていたもので、色んな特典があるのだ」

 そう言って元王からシルビアに手渡されたのはシルバーのカードだ。オレの視線にはプラチナカードとタグが付いている。


「こちらのカードは其方そなたの父君に渡した物と同じカードだ。こちらも先程のカードに負けぬほどの特典がある」

 次に手渡されたカードはゴールドのカードだ。ミスリルカードとタグで分かった。


 どっちも色が似てるからタグが出て無かったら間違えてたね。


 最近、全部では無いんだけど、オレが興味を持ったものにタグが付いて勝手に簡易鑑定する時があるんだ。

 前回の作成時のカウンター数が上がった事といい、この簡易鑑定タグといい、ステータスは変わって無いのに何が上がったんだろうな。


 元王様がミスリルカードに釘付けのシルビアに特典を説明している。

 其方そなたの父君に渡した物と同じカードと聞いたからだろう。シルビアはファザコンとまでは言わないけど、勇者であるお父様は大好きだからね。


 共通する特典としては、どんな高級宿にでも優先的に無料で泊まれる事、何を買っても無料である事、望めば王女の婚約者になれる事、シルビアの場合は王子でも構わないぞと言われてた。町の出入りが自由な事、城にも出入りが自由な事。他にもあったが、ミスリルカードは国内のみに特化していて、プラチナカードは国内外に適用しているカードだった。


 国外の勇者に渡したミスリルカードは国外での面倒までは見れないという事なのだろう。国内特化型だったが、国内であれば気に入った場所があればどこに何軒家を建てても構わないというものまであった。国外で召喚された勇者を懐柔するための策でもあったんだろう。

 

 ここまで話を聞く限り、秘密と言えば秘密だけど、シルビアを個人的に呼んでまでする事か? それこそ呼びたければ現国王が貴族や騎士を使って城に呼び出せばいい。元国王じゃなくてもいいと思う。

 しかも、オレ達を退席させるほどの内容じゃないと思うんだが。

 と、思ってたら、元国王がモジモジしだした。


「そ、それでの、シルビア殿。な、なんだ、その、あれだ。実は…の……」

 急に歯切れが悪くなった。しかもモジモジと身体をくねらせてるからキモい。

 クネクネモジモジしながらオレの方にも偶に視線を向ける。本当にキモいから辞めてくれ。


「実はサインが欲しくてな、この紙にサインをしてくれぬか」

 元王様が一枚の紙を出した。


 何かの契約か? あれ? いや、この世界にそんなものがというか、そんな風習があるの?

 シルビアが【御者】に目で指示を問いかける。サインしてもいいのかって事だろう。

 オレは【御者】に首肯させる。


 だって、あれってサイン色紙だもん。

 厚手の紙だし、薄っすらと柄が入ってるし正方形だし。しかも太めの文字が書けるマジックのような筆記用魔道具を出してるし。


 オレのオッケーをもらったシルビアはサイン色紙の下の方に小さく自分の名前を書いた。

 そりゃ、サインなんて書いた事は無いだろうから、真ん中にデカデカとは書かないよな。

 少しがっかり気味の元王様はもう一枚同じ紙を出して、真ん中に大きく書くようにシルビアにせがんだ。


 渋るシルビアに「シルビア殿の父君はこのように堂々とした文字を書いてくださいました」と元王様が一枚のサイン色紙を出して見せた。

 その大きな堂々としたサイン色紙を見たシルビアは、お父様に負けじと大きな文字でサインを書いた。

 シルビアの父ちゃんも書いてたんだ。ミスリルカードを渡したって言ってたからその時に書いてもらったのか。


 サインの横に空いたスペースには『親愛なるロータス・セイシャロンへ』と書き足すように言われていた。

 元国王様もノリノリだな。


 初めて会ったシルビアがあんたと親しいわけないじゃん。


 こういう目的があったんだな。これなら人払いしたい気持ちが分からなくもない。が、そのサイン一枚のために大事なカードをシルビアにあげてもいいのか? 勇者信奉にも程があると思うのはオレだけか?

 いやいや、シルビアはまだ勇者じゃ無いから。素質はあると思うけど青田買いすぎないか?


 今書いたシルビアのサイン色紙は二枚でワンセットのレアものとして大切に保管します。と上機嫌の元国王様が言っていた。

 一枚目の小さく下に書いたサイン色紙が、初めてサインを書いた証拠になるようで、勇者シルビアの一枚目のサインとして価値が上がるのだそうだ。


 誰に対しての価値か知らないけど、だいたいどこで見せるの。

 色々ツッコみたい気持ちを抑えて、そろそろ終わりのようだし帰れるのかな? って思ってたら、聞いた事がある声がノックも無しに部屋に入って来た。


「主様~、こんなとこにいたんだね。探してたんだよ~」

 声の主はブレインだった。

 それはオレの台詞だ! なんでブレインがこんな所にいるんだよ。


「これはこれはブレイン様、ようこそおいでくださいました」

 元国王様がブレインを歓待する。二人は顔見知りなんだね。獣王国の件でも反乱の件でも会ってると思うから、当たり前と言えば当たり前なんだけど、上下関係がおかしな気がする。


「やあロータス、今日は君に用があるわけじゃないんだ。主様に用があって寄っただけなんだよ。まさかとは思うけど、僕の主様に粗相はしてないだろうね?」

「ははっ、勿論でございますとも」

「その割には我が主が立たされてるように見えるんだけど?」

「あう……それは…その……」

 オレが立っている事を思い出したのか、それともそこまで気が回ってなかったのか、ブレインに指摘されても言い訳もできないようだ。

 シルビアのサインを貰いたいが為に一杯一杯だったんだろうね。サインの書き方の説明辺りから周りが見えなくなってたみたいだしね。


「ブレイン」

「はい、なんですか主様」

「その辺にしてあげれば?」

「ははっ」

 ブレインは大仰な一礼をすると元王様に向けチクリと芝居がかった台詞を放った。

「主様の寛大なお心に感謝するがいい。今後も分かってると思うが、主様の旅を邪魔をするでないぞ」

「ははっ! 心得ております。冒険者ギルドを始め、各ギルドや兵士達にもキャリッジ冒険団にこちらから干渉することは禁じております」

「うむ、よろしい」


 ……そんな背景があったのね。その事情を知っちゃたらこの国での旅は白けちゃって、もう出来ないよ。

 だいたい今のは絡むとこでもないだろ。【御者】の事はブレインも知ってるだろ? 出してるだけだから疲れないって。それにオレを探してるって言うんなら馬車置き場の方に来るだろ。話は念話でもできるんだし。

 こいつ態とだな、確信犯だよ。


「で? ブレインはなんでオレを探してたの?」

「そうだ、忘れてたよ。こいつの事なんだけど、名付けてやってくれない?」

 ブレインがこいつと差したのはベンケイ程では無いけど、大柄な赤髪の魔人だった。

 魔神で赤髪って珍しいな、目が魔人の特徴である白黒反転だから魔人で間違いないと思うんだけど、魔人は皆、黒髪なのにね。


「こいつは、処刑後にクレオさんに頼んで蘇生してもらったあと、魔人にしたんだけどね。政務にも詳しそうだしコウメイの補助に付けようかと思ってるんだ」

「……処刑?」

 処刑ってなに? 物騒な事をしてんじゃないよ!

 それに政務って……そのコウメイもあまり獣人国にいないって一郎から聞いてるけど、こいつは何をどうしたいんだよ。


「処刑……赤髪……」

 小さい声で呟く元国王様には何か思い当たる事があるみたいだ。ブレインに聞かない所を見ると、敢えて聞きたく無い事なんだろうな。


「僕のスキルで右腕役や護衛役も含めて、ぜーんぶこいつに集約したからね。人間の事なら凄く詳しいと思うんだ。でも、ガタイもまぁまぁ大きいし、そこそこ強いから力強い名前を付けてやってほしいんだよ」

 そこそこ強いってもんじゃないと思うよ。シルビアとそう変わらない強さをしてるよ。これで名付けたらシルビアを抜いてハヤテぐらいになっちゃうと思うんだけど。


「こいつらを蘇生するのに結構苦労したんだからさ、いい名前を付けてやってほしいんだ。だってクレオさんって『蟻と蜂の交響曲シンフォニー』ってお酒を十樽も要求するんだからさぁ、ホント苦労したよ」

 おい! それってこの前オレが作った酒じゃ無いか! 厳密には間接的なんだろうけど、獣人国の食糧倉庫にあった『蟻と蜂の交響曲シンフォニー』が無くなってると言うからオレが補充してやったけど、あれはお前が盗んでたのか!


 もう早く離れたいからサクっと名付けて退散する事にした。

 名前は『ベルギ』にした。赤い悪魔=ベルギーから取ってみた。

 ベルギは非常に感激してたみたいだけど、SPを全消費したから【御者】も消えちゃってオレにはその感激シーンを見る事はできなかった。


 名付けが終わるとブレイン達は、もう用は無いとばかりにさっさと消えた。

 帰り際に、「約束を破るとこうなるからね」ってベルギを指して元王様を脅していた。

 元王様もコクコクと何度も小刻みに頷いていたから効果のある脅しだったんだろう。


 仲間達も【御者】がいなくなったし、さっさとオレの所にやって来て皆で城を後にした。


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