第157話 ブレインの説明
誤字報告ありがとうございます。
で、目の前ではバトルロワイヤルが繰り広げられてる訳だけど、なんでシルビアも入ってんの?
ライリィはまだ分かる。獣人だからね。
シルビアはヒューマンじゃん! お前も獣王になりたかったの?
うちのメンバーからの参戦はシルビア、ライリィ、セン、パル、ナナの五人。
うん、関係ないのが四人混じってるね。
「一郎? ちょーっと一回止めないか?」
「は? なぜでしょうか」
「なんでうちの連中が入ってんの?」
「はい、シルビア様、ライリィ様、セン様は実力が伴わない者をふるいにかけるためだそうです。パル様は森の王者になるとおっしゃってました」
森の王って……何考えてんだ? ここで勝ったらなれるのか? これは獣王を決める戦いなんだぞ?
「じゃあ、ナナは?」
「は? ナナとは」
「ナナも入ってるよ。あいつも獣王になりたいのか?」
「なっ! 直ちに排除いたします。ローリィ、ハーティ、ナナを連れ出しなさい」
ナナが参戦してる事は、一郎も気付いて無かったみたいだ。オレに言われて気付いた一郎が、ナナを退場させるために、直ぐに指示を出した。
ただ、もう何人かはナナの餌食になっていて、バトル・ロワイアルから脱落している者もいた。
それ以上にセンの餌食になってる者が多そうだけど。
獣人は皆悲壮な顔をしてるけど、うちの連中だけ嬉しそうだね。
弱い者の排除っていうけど、今センが相手してるのって結構強そうじゃん『大猩々人族』って出てるし、攻撃力だけなら3000近くあるよ。頭は悪そうだけど、強いんだろ? それを排除対象はないんじゃない?
あ、一応、武器は鉄棒のような物を持ってるんだ。斬らないように配慮してるのか。でも、腕を叩けば骨は折れるだろうし、頭なんかを叩いたら死んじゃうと思うな。
シルビアも同じく鉄棒か。ライリィは拳闘だからボクシンググローブみたいな大きな物を付けてるんだ。
一応は手加減をしてるわけね。
パルはーっと、おー、一応剣は抜いてるね。
で? その剣を振りかざして、突撃する訳ね。魔法を使わないあたり、潔しだね。で? ふむふむ。突っ込んで行った先で猫人族の娘に剣を掴まれて、ほー、森の方へ放り投げられて退場っと。
はい、ごくろうさん。パル、お前がいつも言ってる『森の王者』への道は遠そうだな。がんばれよー。
ハッキリ言ってこのバトルロワイヤルには全く興味がわかない。
だって、なんでオレがここにいるのかも分からないし、なんでこんなに祭り上げられているのかも分からないのに、誰が勝つとか興味がある訳が無い。オレからしたら誰が勝ってもいいんだよ。
バトルマニアでも無いから、戦い自体に興味がある訳でもない。
対魔物なら戦わないといけないし、負けるわけにはいかないから仲間の戦いには興味があるし、勝つために何をすればいいか、何かアドバイスやサポートができないか考えるけど、今日のは違う。
例えが悪いかもしれないけど、誰が対戦しているか分からない興味の無い対戦ゲームを無理やり見せられているような感じ。
仲間がお膳立てしてくれた事はもう分かってるけど、このバトルロワイヤルがオレのためになるとは思えないから、どうにも気が入って行かない。
でも、ここにいる限り、俺の視界には全部入って来る。
他にする事も無いし、シルビア、ライリィ、センの動きを特に集中して追いかける。
何かおかしい。
意図的に中央に行かずに、周りの参加者を排除して行ってるみたいだ。
中央には大型獣の獣人が何組かタイマンを張ってるのに、周囲の中型から小型の獣人を排除している。
思惑としては ”力不足の者を排除する” だから、やってる事は合ってるんだけど、何か違和感を感じる。
結局、中央で戦っていた『獅子人族』『羆人族』『角鷹人族』『黒豹人族』『鼯鼠人族』『馬人族』『鼠人族』『猫人族』が残っていた。あ、かなり傷ついているけど、かろうじて『狼人族』もまだ立ってるな。
あれ? 『虎人族』もいたと思ったけど……あ、ライリィに挑んで一蹴されてしまってたか。
『虎人族』代表は運が無かったな。同じ虎の獣人でもライリィとは、かなりの差があったみたいだからな。
ここで一郎から「待て!」の声が掛かった。
「今、中央に立っている者から獣王を決める訳ですが、最後まで戦い抜くという覚悟の者はそのまま立っていてください。ここまでで十分だという方は退場をお願いします。退場した方も十分主様にはアピールできたと思いますよ」
一郎の声で、『鼯鼠人族』『馬人族』『鼠人族』『猫人族』『狼人族』が退場し、『獅子人族』『羆人族』『角鷹人族』『黒豹人族』が残った。
もうオレには出来レースの茶番を見せられているとしか思えない。
ただ、ここからは、うちの連中もまったく手を出さないガチバトルを行なった。
退場していた者達も怪我から復帰し、そのバトルを見守った。
怪我をしていた者達は、ルシエルとキューちゃんとメイビーから入れ替わったクレオが回復魔法で怪我を治していた。
獣人の中にも回復を得意とする種族もいるみたいだけど、今回はこの三人で回復を担当したようだ。
リタイヤの者はボルトの影で落とし穴に落ちるように回収し、安全な場所に移動させて表に出す。
それを三人が待ち構えて回復魔法をかけている。
これだけのバトルロワイヤルをやって死者は出なかったのは、うちの連中のお陰だね。嗾けたのもうちの連中なんだけどさ。
『獅子人族』『羆人族』『角鷹人族』『黒豹人族』の四つ巴戦では『獅子人族』VS『黒豹人族』、『羆人族』VS『角鷹人族』の二対二になり、『獅子人族』VS『羆人族』の一対一になって『獅子人族』が優勝の雄たけびを上げた。
さすがに、これだけの数の獣人を代表する四人だけあって、白熱のバトルを繰り広げてくれた。
これにはオレも魅入ってしまった。
獣人の最終奥義は獣化らしいが、獣化する事無く技やスキルを酷使し、全力で戦っていた。
最終的には『獅子人族』が勝ったが、平地では無く森の中とか山岳地帯とか、雪のある所とか条件が違えば結果も変わっていたかもしれない。
優勝が決まり、宴が始まった。
うちのメイド達が一万人分の食事を用意する。宴というより、決起大会みたいになっている。
もう怪我をしている者はいないが、これから酒も入るだろうし、喧嘩でもして怪我をした場合は治療はしないと一郎が念を押していた。
宴が始まると、ブレインがようやくオレの前にやって来た。
オレがここに現れてから近づいた者は一郎だけ。他のメンバーは、オレから見える範囲にいるにも関わらず、一度もオレに近づかなかった。一郎以外ではここに来てから初めての会話になる。
「我が主、如何でしたか?」
まぁ、よくもぬけぬけと言えるもんだ。全部、こいつが絵を書いたんだろうな。うちの連中がこんな事をやるとは思えないからな。
「なんなんだ、この茶番は。初めから勝つ奴が決まってたんじゃないのか」
「ええ、大体決まってたよ。最後の四人の内なら誰でも良かったんだけど、一番いいのに決まったね」
「だったら、初めから四人で戦わせればよかったんじゃないのか?」
「それじゃダメなんだよ。こいつら獣人は脳筋すぎてさ、頭の悪い奴が多いんだ。だから力を見せないといけないんだよね。奴らの中では決まり事があって、『強い者には従う』というのは全獣人に共通するものなんだ。だから茶番をしてでも力を見せて序列を作ってやらないといけないんだよ。ま、奴らの中でこれが茶番だと分かってる奴が何人いるかは知らないけどね」
やっぱりこいつが首謀者か。で? ネタバラシをするって事は話の続きがあるんだろうな。
「じゃあ、獣王が決まったという事は、これからどうするんだ?」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。これで主の要望がほぼ叶うんだからさ」
「オレの要望?」
オレの要望って言ったら、あまり目立たずにある程度お金を稼いで、それで転生関係の情報を得る。できれば、それに付け加えてルシエルやライリィの嫁ぎ先を見つけるって事だけど、こんな茶番でそれが叶うのか?
「いいかい主、よく聞いてよ。まずは国を興す、これは前にも少し言ったよね。それで僕は獣人の国を作る事にしたんだ。国を興すには纏まった人数が必要だからね、獣人国ってのはこの大陸に無かったし、人間達より強いのに下に見られてるから僕としては都合がよかったんだ。そして国を興せば他の国と貿易をする事で利益を得る事ができる。税収を取ってお金を得る事ができる。この辺りの事は僕がするから主は何もしなくていいよ」
当たり前だ。オレにそんな事が出来る訳無いからな。
「国を隠れ蓑にすれば、主も目立たずに済む。国で一番目立つのは王様だからね。もちろん大臣など要職も必要になるけど、さすがに全員がバカだと国は成り立たないから、頭はいいけど弱い奴らをこのバトルロワイヤルをやって最後の方まで残らせたんだ」
ベストエイトで降りた奴らの事だな。確かに最後の四人に比べたら瞬殺されそうな奴らがよく残ってると思ったよ。
「国を興した新興国で、獣人の国となると、人間達から目の敵にされるからね。初めは僕が全面的に協力しないとダメだろうけど、流れに乗せてしまえば、後を任せられる者がいるからね。表の軍事面は最後に残った四人に任せる。『獅子人族』が獣王に決まったから『羆人族』『角鷹人族』『黒豹人族』が三将軍になって軍を作る。『馬人族』『鼠人族』『猫人族』が内政や外交の中心を担当する事にして、『鼯鼠人族』に暗部を『狼人族』に各国の情報収集を任せる事になるね。ま、各長はそれが理想だけど、中身は混成チームになるだろうけどね」
ふーん、そこまで考えてたのか。『鼯鼠人族』『馬人族』『鼠人族』『猫人族』は強そうには見えなかったからね。獣人達の間では弱い者が意見しても聞いてくれない風潮でもあるのか? だから実績を作って認めさせたとか? バトルロワイヤルで残っていれば実力を示した事にはなるからシルビア、ルシエル、センを入れて、操作したってとこかな。
「各国の情報収集をするって事は、主の知りたい情報も集まるだろうし、主の側近ともなればルシエルもライリィも男が放っておかないと思うな。今回のバトルロワイヤルで、もうライリィなんか『虎人族』の長として請われてるみたいだしね」
長と求婚では全然違うと思うけど、仲間になる話は良いと思うよ。それに各国の情報か、確かにそれは助かるな。組織立って情報を収集するんなら個人で収集するより遥かに多くの情報が得られるだろうな。しかも、情報収集に長けた者が担当するんだろうから、良い情報も入って来そうだ。
「それで主にお願いしたいのは、一郎から話があったと思うけどダンジョンを四つ作ってほしいんだよ。首都になる本拠地と居住区となる広いダンジョンと狩猟区となるダンジョンと移動用に転送魔法陣を置けるダンジョンだね。取り急ぎ作ってほしいのは首都ダンジョンかな」
いや、そこは居住区でしょ!
「まずは居住区はないの?」
「こいつらはどこでも寝れるしさ。この場所も既に結界を全体に幾重にも張り巡らせてるんだ、雨も入って来ないから後でもいいんだよ。食料は今の所手持ちがあるし、足りなければ別の場所でも獲って来れるしさ。やっぱり国を興すとなれば首都が無いと格好つかないでしょ」
なんか優先順位が違うと思うけど、ブレインなりの段取りがあるのかもね。
「わかったよ。獣人達をこのまま放っておくわけにも行かないし、ダンジョンが作れるのはオレだけだしね。何かリクエストはあるの?」
「ありがとう、さすがは我が主。それは主に任せるよ。主の方が知識が豊富だしね」
そこは丸投げかい! でも、その方が自由にやれていいかもね。
面倒な演説をさせられるよりダンジョンを作ってる方が気が楽だし、このままダンジョン作成に取り掛からせてもらおうかな。
更新が遅れ気味です。
体調不良も少しありますが、公私の私の方が忙しくて思うように捗りません。
もう少ししたら落ち着きますのでご容赦ください。
申し訳ありません。




