第141話 屋敷問題
市長のセクハラエロジジィに大勝利を治め、意気揚々と引き上げたオレ。
もちろん、帰ろうとしたらお約束の邪魔は入ったが、センが一蹴。いつもの「峰打ちでゴザル」ってやつで雑魚を退けた。
雑魚と言っても、さっきの元勇者達のお供だから、冒険者だとB~Aぐらいの強さはあった。
市長と市長の横に座ってた二人の元勇者は動かなかった。
さすがに自分からイカサマを仕掛けて、それを逆手に取られての大敗だ。自尊心は持ってたんだろう。
自尊心か、そんなのがあるんなら、あんな賭けやその勝利に女に抱きつくなんてしないだろうけどね。
戦利品の屋敷は四軒とも隣同士。先日のシルビアの頂いた屋敷と合わせると、相当な広さの敷地面積だ。
他にも戦利品はあるが、特に必要ない物だと思う。うちの連中は重い鎧は着ないし、武器もオレが造ったものの方が攻撃力が高かった。一つだけ光の剣っていうのがあったので、これだけは頂いておこう。残りの武器はオレの収納の肥やしになるんだろうな。
あとは、この酒場での一年分の無料券だとか、議会での投票権だの、オレにはいらないものだったけど、向こうは熱くなってるから何とか勝負をしてほしかったみたいだし、オレの目的もギャフンと言わせる事だったから全部受けてやったよ。
この五軒の屋敷だけど……うん、とりあえず全部ぶっ潰そう。
あのエロジジィが寄こした屋敷だろ? 怪しすぎてこのままじゃ住めないって。
周りは、貴族の屋敷だと思われる大きな屋敷が多いし、あまり人通りも無いので少々派手にやっても大丈夫だろう。
まずは、キューちゃんに五軒の並んだ屋敷の中央に大穴を掘ってもらった。それで一軒が穴の中に落ちた形になっちゃったけど、どうせぶち壊すんだから問題無い。
その穴を中心にライリィとルシエルに先日の怒りをぶつけるように隣接する屋敷を壊してキューちゃんが掘った穴に廃材を放り込んでもらった。
穴に溜まった廃材はキューちゃんに火魔法で燃やしてもらった。
最後に穴もキューちゃんに埋めてもらって、屋敷跡地は綺麗な更地になった。
さて、オレもオレの仲間も家を造る事は出来ないんだよな。だったらどうする? 土を盛って中を繰り抜いて洞穴式にでもする?
それじゃぁ芸が無さすぎるなぁ。
市長の家がどこにあるのか知らないけど、どうせこの近くなんだろ? あの感じじゃ覗きとかもやりそうだし、自分の屋敷の近くに住まわせるつもりだったんじゃない? 周りから覗かれないっていうのなら洞穴式がいいんだけど、地味すぎるよな。地味すぎて逆に目立っちゃうよ。
どうせこの町に住む訳じゃ無いから目立つのは構わないんだけど、転送魔法陣を描ける場所がほしいと思ってるんだよね。来るか来ないかで言うと、また来ると思うんだ。
この町には用は無いんだけど、この町の場所がね。
どこに行くにも都合のいい場所にある町だから、また来ることになると思うんだ。
もう面倒だからガンちゃんを連れて来て擬態で山になっててもらおうかと考えたぐらい、何も思いつかなかった。
家を作る……ね。敷地がこれだけ広いんだから、家もそれなりの物を作らないといけないよな。周りも大きな家が多いし、ここだけ小さな家にすると周りとのギャップがあり過ぎて景観がおかしくなるよな。
この町に知り合いもいないし、この町の建築業の人って市長の息がかかってるかもしれないから信用ができないしな。
折角更地にしたけど、ここは一旦保留だな。
「お困りでしょうか」
あ、そう言えば今回は七郎が付いて来てたんだった。
なんでも、折角『伝説の鍋』があるんだから、皆の食事を担当したいと申し出てくれたんだ。
オレが作っても一分だからいいんだけど、「いつまでも宗主様に作らせるわけには参りません」って一郎が後押しして、ナナが付いて来る事になったんだ。
でも、今回だけだろうと思うけどね。
「うん、実は屋敷を建てたいんだけど、うちの連中で家を建てられる奴っていないだろ? それで、どうしようかと考えてたんだ。今回は保留にしようと思ってたんだけどね」
「畏まりました。お任せください」
「え? 家を建てれるの?」
「はい、お任せください」
うっそー⁉ メイドが家を建てるって聞いた事無いんだけど。
「それってスキルか何か?」
実はさっきから気になってるスキルが付いてるんだよ。一郎の『執事の嗜み』みたく、こいつにも『メイドのお仕事』ってユニークスキルが付いてるんだ。
なんなんだよ! 『メイドのお仕事』って!
「はい! 『メイドのお仕事』で屋敷ぐらい簡単に作ってみせます」
メイドのお仕事の中に建築業は入って無いからね。
「簡単にって言うけど、家なんて建てたこと無いだろ」
「はい、でも部屋の手入れや模様替えなどをいつでもできるように営繕まではマスターしています」
営繕まではって……軽く言うけど、それって大工さんの仕事だよ?
「でも、基礎なんかもあるんだよ?」
「はい、造園の為に地山掘削・土留め支保工までマスターしています。因みに玉掛けもできます」
……なに、その土木系の無駄な能力は。でも、それって営繕もそうだけど、この世界に無い能力じゃないのか? なんでそんな能力を持っての?
《ダンジョン核に馬車のSPを注入したために、馬車の知識の影響を受けている為だと思われます》
あ、こいつらってダンジョン産だもんな。
《そうでなくては、ゴブリンが執事やメイドになる理由がつきません》
そうであっても理由なんてつかねーよ!
「では、他のメイド達も呼びたいので、転送魔法陣を描いて頂けますか」
……他の連中にも『メイドのお仕事』って付いたのね。
でも、メイドのお仕事に建築業は無いからね。
言われた通りに、今更地にした所に転送魔法陣を描いた。
一度、ナナが転送で向こうに行き、七人のメイドと共に帰って来た。
誰もいなくなったら不用心だというので一郎が残り、ガンちゃんのお世話もあるからとミーナが残ったそうだ。……三郎ね。
八人のゴブリンメイド達が基礎工事から取り掛かる。
半分ずつに分かれ、四人は測量&掘削作業。残りの四人は材料集めに転送で戻って行った。たぶん、馬車ダンジョンのある、山から下りた所の土や木や石を取ってくるんだろうな。
後は任せてオレ達は町を出てガンちゃんの縄張りである北を目指す事にした。
市長問題? そんなのあとあと。屋敷は賭けで勝ったんだからもう俺のもんだし、返せって言われてももうぶっ壊しちゃったしね。
元勇者ってのが少し気になるけど、もう少し時間が経ってから調べようかと思うんだ。
ギャフンと言わせてやったけど、ルシエルやライリィにあのエロジジィが抱きついてたかと思うと、まだ冷静にあのエロジジィを話せそうにない。
まったくなんて羨ましい…じゃなくて怪しからんジジィだ! オレだって見るしかした事無いのに抱きつくなんて。
「そう言えば、この町の元勇者ってシルビアと関係あるの?」
勇者関係の事だから、シルビアだったら何か知ってるかと思って聞いてみた。
「うん、元は同じ人はいるみたい」
「元は同じって、血縁関係って事?」
「うん、会った事は無い人ばかりだけどね。別の勇者の子孫もいるし、同じ勇者の子孫もいるみたい」
「まさか市長も……」
「あの人は別の勇者の子孫だと言ってた。でも、元勇者は本当みたいね」
確かに称号には元勇者ってあったな。
「元勇者って事は、魔王を倒したって事?」
魔王があの程度の力で倒せるとは思わないけどな。
「勇者って言っても色々ね。魔王がいない時もあるから」
さすが、その辺の事はよく知ってるな。
「じゃあ、シルビアも最後はこの町に来るの?」
「来ないよ。私にはエンダーク王国があるから。それに、あの人達、楽しそうじゃ無いもの」
「いや、オレには凄く楽しんでたように見えたけど?」
センに抱きついたエロジジィは楽しそうだったよな。
「あれは態とそう振舞ってるだけ。私には凄く寂しそうに見えた」
「オレにはそうは見えなかったけど」
「ううん、あの人達は寂しそうだったよ。お父様とは全然違った、お父様の目はもっと輝いてたもの。ここの人達は寂しそうな目をしてたよ」
シルビアにはそう見えるのか。本物の勇者を知ってるから分かるんだな。
精霊女王の話を思い出した。
転生や召喚された物は、もうこの世界にいないんだったよな。それなら召喚されたこの町にいる元勇者って、勇者達の残した子孫達って事なのかもな。
一度ガンちゃんの縄張りまで行って、戻って来たころにはオレの怒りも大分治まってるだろうから、その時に話す機会があれば聞いてみようかな。
向こうも今は冷静には話せないだろうしね。
さて、北に向かったオレ達は、森の中をいつもの様に突き進む。
先頭はボルト、オレが通れるように木を薙ぎ倒して行ってくれる。そこをハヤテに曳かれたオレが進んで行く。
荷台に乗るのはシルビア、ライリィ、ルシエル、パル、キューちゃん、メイビー、セン。
時折パルが、珍しい薬草や野菜や木の実を見つけると、センとキューちゃんが素早く回収して来る。
魔物はボルトの気配を感じただけで逃げて行くようで、ほとんど見る事も無い。ボルトもかなり風格が出て来たな。
ガンちゃんの縄張りまで、出会いの町から四日掛かった。
なんで縄張りと分かったかって? そりゃガンちゃんが先に来てたからだよ。
ビックリしたよ。オレが呼んでないのに来てんだもん。
ジョンボルバードに命令して先行させて、ガンちゃんのユニークスキル【瞬間移動】でやって来たと言われた。
なんだよ、いつでも自分で来れるんじゃないか。
帰りは? って聞いたら、一郎に『長寿の水』を持ってもらってるから大丈夫なんだって。
せっかく「来い! ガンキ!」ってやってやろうかと思ってたんだけど残念だなぁ。
いや、ホント。ポーズまで考えてたんだから。
これは絶対失敗しないって分かってるから、オレもちょっとやってみたかったんだよ。
ちょっとはさ、オレもできるんだぜ! ってとこを見せとこうと思ってね。あー、詠唱やりてぇ。
オレには絶対誰かが近くにいるからさ、脳内でしか出来ないんだよ。
まずはボルトが離れないだろ? こういう移動なんかだと全員いるわけだし、馬車ダンジョンでは一郎達の誰かが絶対傍にいるし。
一人になれたのって……無いね。
「ガンちゃん、来てたんだね」
「そろそろ着く頃だと思いましてのぅ、先に来て待っておりましたわい。驚いたかの」
うん、驚いたよ。
「ここがガンちゃんの縄張り?」
「そうじゃ、儂が生まれ育った所じゃ。殿は気に入ったかの」
気に入るも気に入らないも無いけどね。何にも無いんだから。
「何にも無い所なんだね」
「そんな事は無いぞ、森は豊かじゃろ。魔素も豊富なんじゃ」
確かに北にあるわりには豊かな森だね。
「それにダンジョンがあるからのぅ」
[[ダンジョン!!]]
またいらない情報を……
皆して【御者】を見るんじゃない! 行きたい奴が勝手に行けばいいんだよ。
オレは行かないからねー




