第129話 シルビアの気持ち
感謝です。
前作にブックマークが並びました。
総合評価や評価は既に追い抜いていましたが、ブックマークが追いついた事は嬉しいです。
それだけの人に読んで頂いていると実感できる数字です。
本当にありがとうございます。
【訂正】
すみません、前作のブックマークが増えてました。
並んだというのは訂正させていただきますが、感謝の気持ちは変わりません。
今後ともよろしくお願いします。
その日の夕食は歓迎ムードもあり、豪華な食事が出された。
執事の話では、今日は招待客はいないが、明日、王様への報告が終わり、三日後のパレードが終わると貴族たちも毎晩のように訪れるから、毎晩晩餐会が開かれる予定になっていると言う。
スケジュール調整はバッチリです。と執事が自慢気に話してくれた。
ここもキュジャリング王国の時のような長ーいテーブルが用意されていた。
一番上座にシルビア。オレ達は一番下座。間には誰も座っていない。
遠い所にポツンとシルビアだけが座っていて、とても寂しそうに見える。
『シルビア? 大丈夫?』
シルビアの位置が遠い事と、執事やメイド達に聞かれたく無いから念話でシルビアに話しかけた。
『大丈夫じゃない』
念話だけど不機嫌そうな口調が分かる。相当参っているみたいだな。
『大丈夫じゃないって……シルビアは、これからどうするんだ? ここに残るのか? オレから見て、ここの警備はとてもじゃないが安全だとは思えない。ミランダリィさんの一件で分かってると思うけど、町の中だから安全ってわけでも無い。でも、シルビアが残りたいって言うんなら止めないけど、その時は何か考えてみるよ』
『馬車さんっていつも意地悪だよね。私は馬車さんといたいっていつも言ってるよ。私を守ってくれるって言ったじゃない』
それっていつの話だよ。出会った頃の話じゃないのか? その言葉ってまだ有効なの?
『確かに言ったけど、ここがシルビアの家なんだよ? 先延ばしにしても、シルビアがこの国の住民で、皆から敬われていて、王様や貴族達の相手をするのは決まってる事だと思うんだ。でも、オレがシルビアを守るって確かに言ったし、シルビアが残るって言ったら、何か考えるよ』
『残らない』
『わかった。じゃあ、どうやって出て行くか考えてる? 執事さんを説得できるの?』
『うん、馬車さんが何とかしてくれると思ってる』
はい? また丸投げ? ここはシルビアの地元だし、執事さんの事もオレより知ってるだろ? 何か考えておけよ。
そうは言っても八歳までしかいなかったし、よく分からないかな? でも、オレよりはマシだろ。
『そうだ、あの太…デ…丸い膨よかな女の人って、協力してくれそうじゃない?』
『ププの事?』
なんかそう呼んでたね。
『名前は知らないけど、その人かな。門の所で泣いてた女の人だよ』
『うん、じゃあププで間違いないわ。ププは優秀な魔法使いでね、私の魔法の先生なの』
なぬ! 魔法使い⁉ 前衛じゃ無いの?
『そ、そう。魔法の先生だったんだ。そのププさんは、元冒険者って言ってたし、シルビアの事も理解してくれるんじゃないの?』
『馬車さん? ププが魔法使いなのがおかしい?』
席は遠いが、シルビアがジト目なのは十分に見えるね。
おーっと、ルシエルもか。
仕方ないじゃないか、あの見た目で魔法使いって方が反則だろ。
『お、おかしくは無いかな……それより、部屋に戻る時、【使い】のネコを出すから一緒に連れて行ってくれない? シルビアの部屋の場所が分からないから、知っておきたいんだ』
『わかった』
オレは厩舎に隣接された馬車置き場にいるけど、【御者】を出せる範囲は十キロだし、【使い】は命令が遂行されるまで消えないから、【使い】で場所さえ分かれば【御者】をシルビアの所に出せるからね。
ププさんの事は何とか誤魔化せそうだし、今後の対策を考えよう。
シルビアが出て行く事はこの屋敷の人も含め、国の人達も納得してくれないだろう。特にこの屋敷の使用人達は大反対するだろうな。
黙って出て行ってもいいんだけど、シルビアがまた帰って来やすいように考えてやらないとな。
【使い】のネコも今輓だけって約束で執事に許可を貰えたようだ。
シルビアはネコを連れて部屋に戻る。オレ達も各自部屋に戻った。
部屋に戻るとオレはすぐに【使い】のネコを消し、【御者】をシルビアの部屋に出し直した。
シルビアが着替え中というトラブルも無く、シルビアは部屋の椅子に腰かけていた。
いつも見てるし、シルビアが八歳の頃からずっと見てるんだ。着替え中だったとしても、何のトラブルも起きないよ。【御者】だしね。
「さっきの続きだけど、シルビアはオレ達と一緒に行くって事でいいんだね?」
「当たり前でしょ」
「それで、その方法はオレ任せなんだね?」
「それも当たり前ね」
いや、当たり前じゃねーし!
「何も無い? この人を抑えておけば誰も文句が言えないって人なんかいない?」
「それは王様だけね」
王様かぁ。確かに王様を抑えれば、執事さん達だって文句は言えないよな。でも、どうやって王様を抑えるんだ?
「シルビアは王様と会った事があるんだよね。どんな人なの?」
「小さい時しか会って無いからあんまり覚えてないけど、厳しいけど優しいおじいちゃんってイメージがあるわ」
「王様に意見できる人っている?」
「んー、王妃様ぐらいかな?」
王妃様か……王妃様ならシャンプーとリンスで何とかこっちへ引き込めないかな。キュジャリング王国の王妃様は料理で引き込めそうな感じはあったけど、こっちの王妃様もケーキや甘い物で釣れたりしないかな。
その前にどうやって会うんだって話だけど。
「王妃様に会う事はできない?」
「どうなのかな? 知らないわ」
シルビアは知らないのか。
「誰か知ってそうな人はいない?」
「わかんない」
だろうね。
「明日、王様に会うって執事さんが言ってたけど、その時に王妃様も会わない?」
「それは会うと思う」
「その時に、王様も含めてでいいから、オレの料理を振舞いたいって言って何とか会う事ができないかな。プレゼントでもいいよ、シャンプー&リンスでもケーキでも装備でも、興味を持ってくれれば何でもいいんだ。」
「会えばなんとかなるの?」
「それは分からないけど、会えば何とかなるかならないか分かるじゃないか。何とかなれば儲けもんだ」
あまり現実的じゃ無いけど、他にも一つ考えているんだ。ただねぇ。
「別の考えではププさんの協力が必要なんだけど、ププさんは協力してくれそう?」
「どうかな。聞いてみないと分かんないけど、何をお願いするの?」
「転送魔法陣をこの部屋に置かせてもらうんだ。そうすりゃ、いつでもシルビアは帰って来れるから、ここにいる振りをする事もできるんじゃないかと思ったんだけど、これはあまり現実的じゃないね。ここにいる振りは出来ても、学校にも行けないし、いつ呼ばれるかも分からないからね」
「確かにそうね。ププは魔法の先生だから、それ以外だと誤魔化せないわね」
「そうだろ? だからこれは最終手段にして、まだププさんにも話さないでほしいんだ」
「わかった」
「じゃあ、まずは明日の謁見で、オレが王様か王妃様に会えるように頑張ってみて。できれば王妃様ね」
シルビアとの話も終わり、【御者】を消した。
次の日、シルビアは王城へ。オレ達は別方面から何とかできないかと冒険者ギルドへ行った。
まずは昨日のお詫びだな。
バートンが言い出した事とは言え、昨日はちょっとやり過ぎだったからね。拷問でもあそこまでしないんじゃないかな。
なんせ、うちの連中はオレがバカにされると、すぐに切れるからやり過ぎるんだよ。
【御者】を受付に行かせ、金貨を一枚出す。もちろんオレの収納からね。この距離なら余裕で届くから。
何気に、冒険者達が遠く感じるのは気のせいじゃ無さそうだね。
今日も受付に行くのは【御者】だけ。セン、ライリィ、ルシエル、メイビーは壁際で待機している。
今日は取り巻きに囲まれる心配はなさそうだ。
「すみません、情報収集の依頼をお願いします」
「あ、あなた達って何者なの?」
受付のお姉さんが怯えた表情で尋ねて来る。
あ、昨日のお姉さんだな。オレはこの人に嵌められたんだったな。
「ただの冒険者です。今日は情報収集の依頼で来たのですが、昨日の職員さんはいらっしゃいますか?」
ちょっと意地悪く聞いてやった。
「バ、バートンさんは、今日はいません。昨日の件で、今日は家から出て来れないと思います」
「え? おかしいですね。怪我はしてないはずですが」
怪我はクレオが治したからね。ただ、心には大きな傷を受けたみたいだな。
「あ、あなた本気で言ってるの?」
「ええ、傷は全て治してますよ。古傷も治ってるんじゃないかと思いますが。昨日の職員さんがいないのなら、今日は誰が出て来るんですか?」
昨日の件もあって、オレも厭味ったらしくまだ続ける。
だってここは冒険者ギルドだよな? 昨日のような事を許してはいけないと思うんだよ。
オレは別に怒ってはいなかったんだけど、職員を装ったバートンって冒険者で、何の確認もせずに対応させようとしたこのお姉さんは、オレ的には有罪なんだよね。
お詫びの為に声を掛けたのに、このお姉さんの顔を見たら嫌味の一つも言わずにはいれなかったんだ。
オレって心が狭いな。
「ご主人様の黒いところも素敵です」ってルシエルが呟きが聞こえた。
うん、これは完全に黒いね。反省。
「もういいか。オレ達もそんなに時間がある訳じゃ無いし……」
これぐらいで本題に入ろうとしたら後ろから悲鳴が聞こえた。
ぎゃあぁぁぁあぁぁぁ‼
え? なに?
振り向くと、男が手から大量の血を流していた。
あ、片手が無い。どうしたの? 何があったの? 昨日のバートンを思い出させる光景だった。
建物の中だから外やダンジョンのように俯瞰で見れない。【御者】の視線だけしか無いから、後ろで何が起こったのか分からない。
後ろの仲間を見る限り、原因は間違いなくセンだろう。
だって刀を抜いてるもん。
「ギ、ギルマス!」
受付のお姉さんが叫んだ。
この人がギルマス? なんでセンに斬られたの?
「ルシエル、事情は分からないけど、ひとまずこの人を治してくれないか?」
「……でも」
「ルシエル?」
「……かしこまりました」
どうしたのルシエル。凄く嫌そうだね。
「事情は分からないけど、まずは急いで治してあげてよ。それから話を聞くから」
渋々だがルシエルがギルマスと呼ばれた男の回復をして、手を元通りに繋いでくれた。
「で? 何があったの?」
「はっ、お館様を悪漢の手から守りました」
ルシエルもライリィもメイビーも頷いて賛同している。
ギルマスが悪漢? どういう事?
「私は少しお灸を据えてやろうと首根っこを掴みに行っただけだ!」
なんで? なんでお灸を据えられなければいけないんだ?
「なんで?」
「それはそうだろう! うちの受付を虐めてただろうが!」
それで【御者】に手を出そうとしてセンに斬られたのか。自業自得じゃないか。
ダメだ、ここの連中は。事情も知らずに自分の目の前で起こった事が最優先になるんだ。
ギルマスでこれなんだ、他の連中も同じだろうな。
それならそっちのルールで行きましょうか。
「ここの冒険者ギルドは、力技でばかり対処するんだね。なぜこうなってるかを知らないはずは無いと思うんだけど。首根っこを掴む、ね。ライリィ、首根っこを掴むってどうやるの? この人で試してくれない?」
「わかったのニャ」
すぐにライリィがギルマスの首根っこを掴んでそのまま吊り上げた。
身長はギルマスの方が高いので、ギルマスが逆エビに反り返っている。
力技ね、オレ達の方が得意だよ。
「あなたがここのギルマスでいいんですよね?」
ライリィに吊り上げられた男は苦しそうにして声も出せないみたいだから、受付のお姉さんに視線を向けると、青い顔をしてコクコクと頷いた。
「この人の部屋はどこ?」
そのままお姉さんに尋ねると、お姉さんは震える指で階段を指した。
「二階だね、ありがとう。じゃあ皆、ギルマスに聞きたい事もあるんで、このまま部屋にお邪魔させてもらおう」
その場にいた冒険者達は凍り付いたように誰も動かず声も出さずにオレ達が二階に上がるのを見守っていた。




