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第128話 クロスフォー宮殿

 頭ン中がパレードな連中は放っておいて、シルビアの家に再び戻って来た。

 ホント、何処から入るのってぐらい大きすぎる屋敷だ。もう城と言ってもいいと思えるほどデカい。

 

 出会った時からシルビアの事はお嬢様だと思ってたけど、本物のお嬢様だったんだね。

 王様から杖を貰うぐらい交流もあったみたいだし、その家の娘が帰って来たんだったら、そりゃ歓迎されるわな。しかも、皆の期待を背負って魔王討伐に旅立った勇者の子。歓迎されない方がおかしいわ。


 門の少し手前で止まって、シルビアに最終確認をした。


「シルビア、もう正面から小細工なしで『ただいま』って言って帰ろうよ。これだけのお屋敷だ、たくさんの人が働いてるんだろうし、シルビアと仲のいい人もいたんじゃないの?」

「うん。……もう…待っててくれてる……」

 もう、泣いてるじゃないか。


 遠巻きにこっちを見張ってる者も何人か確認してるけど、そいつらの中にも泣いてる者もいるじゃないか。さっきはいなかった事を考えると、冒険者ギルドの地下の方に行ってたのかもしれないな。

 やっぱりキャリッジ冒険団は見張られてたみたいだね。


 さっきシルビアと来た時にはいなかった女性が門の所に立っている。

 太って…いやデブ…いやふくよかな肝っ玉母さんって感じの女性だけど、おんおん泣いているのがここまで聞こえてくる。

 見張ってる者から何か連絡があったのかもしれないな。


 手に持ってるのはハンカチに見えるけど、タオルぐらいの大きさなんだろうね。

 あ、絞ってるよ。やっぱりタオルぐらいありそうだ。


 門の前まで来ると、シルビアは荷台からさっと飛び降り、そのふくよかな女性にめり込んだ。いや、抱きついた。


 オレ達も横で止まり、その様子を見ていた。シルビアの向こう側では門番が二人で抱き合って泣いている。

 少し思う所はあったが、ツッコミたい気持ちをグッと抑えて、シルビアとふくよかな女性を黙って見守った。


 しばらく抱き合ったあと、二人は離れて改めて挨拶をした。


「おかえりなさい、シルビア様。本当に大きくなられて…元気そうで本当に安心しました」

「ププ、ただいま」

 感動の再会だよな、シルビアもこの人によく懐いてるようだけど、なんで帰りたくなかったんだろ。

 皆、シルビアの帰りを待ちわびてたみたいだし、いい人ばかりに見えるのにな。そのあたりは後で聞けばいいか。


「そちらがシルビア様のお連れさんですか?」

「はい、初めまして。キャリッジ冒険団のリーダーです」

 この人はあまり貴族っぽく無いね。


「噂は聞いてたよ、冒険者なんだろ? あたしも旦那様とパーティを組んでた事があるんだよ。その縁でシルビア様の乳母になったんだけどね。なんでもっと早く連れて帰って来てくれなかったんだかねぇ」

 この人もミランダリィさんみたいに勇者パーティにいたって事? 元冒険者だったら、前衛決定だな。


 皆、挨拶をしようとしたら、先に屋敷に案内するからそこで寛いでくれと言われ、まずは屋敷にお邪魔する事になった。


 それぞれ部屋を宛がわれ、メイドに案内されて部屋を確認するとリビングに集合した。


 うちのメンバーは全員が収納バッグを持ってるから荷物は無い。本来なら荷物を置いて集合という所なんだろうけど、荷物が無いから部屋の確認だけで集合する事になった。


 部屋も広かったが、リビングも無駄に広い。

 百人は入れそうなリビングには、真ん中に大きなローテーブルを囲むように一人掛けのソファーが十四あった。

 これをリビングと呼んでしまう感覚が分からない。会場と言っても誰も訂正する者はいないだろうね。


 壁際にはズラリとならんだメイド達。

 何人いるの? 百人ぐらいいるんじゃない? そんなにいてする事あるの?


 シルビア以外のメンバー全員が揃うと、各部屋に案内してくれたメイドを纏めている男が前に出て挨拶を始めた。


「皆様、よくぞシルビア様をお連れ下さいました、ありがとうございました。私は当家の執事長をしております、セザールと申します。召使い一同を代表しましてお礼を申し上げます。何度でもお礼を申し上げたい、ありがとうございました」

 

 見た目は四十代前半に見える執事長は、にこやかな笑顔だが少し目が腫れていた。この人も泣いてたんだろうな。

 本当にシルビアは大事にされてるよな。何が嫌で帰りたくないって言ってたんだろ。


「皆様におかれましては、いつまでも滞在して頂いて結構でございます。お気の済むまで当家でお寛ぎください」

「シルビアが見えないんだけど、ここには来ないの?」

 我が家に帰って来たんだから、色々と話したい人もいるだろうから、別にいなくてもおかしくは無いんだけど、ちょっと気になるよね。


「はい、シルビア様は、これからご予定がビッシリ詰まっておりまして、当分はお会いできないかと存じます」

「予定? 会えない? どういう事?」

「はい、シルビア様は、剣術や魔法は冒険者として活動されていましたので、かなり上達されているようですが、勉学の方の確認を今行なっておりますので、こちらには来られません。今日は夕食はご一緒される予定でございます」


「ふーん、夕食には会えるんだね」

「はい」

「予定がビッシリって、何をするの? オレ達そんなに何日もゆっくりするつもりは無いんだけど」


「はい。明日は、王城へご帰宅の報告へ向かわれます。お戻りになりましたら三日後のパレードへ向けての準備を致します。その間にも来訪される方々の対応をしないといけませんし、学校の為の下準備としまして、家庭教師による勉強にも励んで頂きます。それと、あなた方にも王様より褒美が出るかと思いますが、当家からも必要な物があれば、何でも取り揃えさせて頂きます」


 えーと…どういう事? シルビアはもうこの家に完全に戻ってオレ達とは行かないって事になってる?


「シルビアは、もう冒険には出ないって事?」

「当然でございます。シルビア様は当家の跡取りでございます。勇者様がご不在の時こそ、王様や他の貴族の方々との繋がりを保つためにご尽力いただかなければなりません。冒険などとんでもない事でございます」


「あの、シルビアは好きで小さな時から冒険者をしてる訳じゃ無いんだよ」

「心得ておりますとも。何かの陰謀に巻き込まれて、身を隠されるためにやむなく冒険者となっていたのでしょう。シルビア様のご心痛、お察しいたします」

 こっちには魔人の情報って入って無いの?


「い、いや、それはちが……」

「その後、あなた方キャリッジ冒険団と共に数々の武勇伝を作られ凱旋されたシルビア様は、お父様の後を継ぐに相応しい力も身に付けられました。ダンジョン制覇、ダンジョンでの転送魔法陣、シャンプーにリンス、教会への寄付、数々のクエスト依頼の達成、魔人の討伐、魔法の無詠唱発動、など、数え切れない功績は、王様への報告にも花を添えるでしょう」


 それって、シルビアがやったものって教会への寄付ぐらいじゃないのか? シルビアは未だに魔法は詠唱してるぞ。

 ダンジョン制覇も単独じゃ無いし、クエスト依頼は俺だし、魔人討伐ってトーラス伯爵の件を言ってる? それならやったのはキューちゃんみたいだし、シャンプー&リンスはオレしか作れないし。


 情報はある程度入ってるみたいだけど、かなり歪んで入ってるね。シルビア贔屓でね。


「それと、学校は卒業したんだけど」

「キュジャリング王国の一領地の学校など、学校とは呼べぬものでしょう。エイベーン王国の王立学校を卒業されてこそ、立派な淑女となれるのです」


 うわぁー、この人オレには合わないわ。シルビアはここにいて大丈夫かな。


「シルビアはどう思ってるの? シルビアの意見は聞いたの?」

「聞く必要はございません。私がシルビア様を正しくご指導いたします。六年も無駄にしたのです、遅れた分を早く取り戻さなければなりません。その為にも、あなた方と会う時間は取れないかと存じます」


「無駄って……」

「本当に無駄な六年でした。六年もあれば飛び級でご卒業され、本来なら跡継ぎの教育も終えていたはずです。ここは、私の腕の見せ所のようでございます」


 周りのメイド達も、ずっとこの執事の話をウンウンと当然だと言わんばかりに頷いてるね。

 大丈夫かシルビアは。

 でも、ここがシルビアの家なんだから、こういうのは本人が受け入れないといけない問題なのかもしれないよな。

 でもなぁ。それは家の問題だから俺が口を挟めない事だけど、もう一つの方は口を挟んでもいいと思うんだよね。


「執事さん、ここの護衛は、そんなに強くないように思えるんだけど、シルビアは安全なの?」

「当然でございます。当屋敷には1000人の自警団がおります。その中でも特に優れた者を屋敷内で召使いやメイドの姿をして警護に当たっております」


 そうなんだよな、召使いやメイドにしたらステータスが高いと思ってたんだけど、この程度で自慢されてもなぁ。

 一番ステータスが高い奴でも攻撃力500程度なんだよ。

 今のミランダリィさんと同レベルだろ? それが1000人いても、とても魔人に敵うとは思えないんだよな。

 まだ今日のバートンの方が強かったよ。


 色々、勘違いしてるよな。だから勇者であるシルビアの父ちゃんはバーゲストにシルビアを守らせたのかもしれないね。


 まだ強力な魔人が二人残ってるんだ。ここじゃシルビアを守れないな。

 この前の王都キュジャーグでの勇者の子誘拐事件で、勇者の子を攫う件は続行中と見ていいだろうし、シルビアの実力では、魔人には敵わないだろうし。

 魔人の件が無ければ、このままシルビアとお別れでも仕方がないと思ってたけど、この状況じゃ置いて行けないな。


 でも、この執事を説得するのは難しそうだよな。さてさて、どうしたものか。


 しかし、この環境に、学校や客としてきた貴族の相手か。

 シルビアが帰りたくないって気持ちも分かるな。

 シルビアの気持ちを聞いてからだけど、出たいって言うんだろうな。

 その時はオレが手助けしてやるか。



【訂正】

五年⇒六年

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