エピローグ
三人は地上に降り立つや否や、草の上に倒れ込んだ。
そのまま笑い転げた。何がそんなに可笑しいのか、うまく説明できなかった。ただ、笑った。アノリスが声を上げて笑い、ラフィスが珍しく声に出して笑い、シェリルが静かに肩を揺らした。まだリーヴィンへの帰路があるというのに、岬の草の上で三人が笑い転げていた。
ラフィスの表情が、柔らかくなっていた。
カルナヴィアを終えたといっても、自分が王家の生き残りである事実は変わらない。カリティスディアの栄光の日々に想いを馳せることもあるだろう。王都に戻れば、アノリスは変わらず「ラフィ姉」と呼ぶだろうが、その一方で、こちらの感情とは関わりなく「殿下」と呼ぶ者も居るだろう。
だが――肉親との本当の別れを終えた今、王女という肩書きも、祖国という重荷も、ラフィスは静かに肩から降ろしていた。もう、それらを背負って剣を振ることはない。復讐のためでも、亡国の誇りのためでもなく、これからは自分自身の意思で、剣を執る。
シェリルとアノリスの二人は、九年という時間を共に歩いてきた。
距離にして、オルネスからこのドルヴェナ岬まで、二千五百リーグ。大陸の最南端から最北端まで、気が遠くなるような行程だ。気が遠くなる、と言っても、それは測れるものとして存在している。二千五百リーグという数字がある。九年という時間がある。算術で書けば、ただの数だ。
だがシェリルは草の上に寝転がりながら、ふと思った。
測り知れない力ではなく、測れない力を手にしたい。
龍戦で放った術式が、頭の片隅にある。制御の外にあった。座標が取れなかった。測れなかったから、測ることをやめた。そういう力が、自分の中にあった。算術で記述できないものが、魔法の中にある。それが怖いのではなく――それが面白い。研究は、やはり止まらない。
そんなシェリルを、アノリスはずっと支えてきた。
あまりにも偉大な姉だ。特級術師、魔法算術学者=エーテラリス。肩書きだけで普通の人間なら竦んでしまうような女のちょっと抜けたところを、アノリスは時に献身的に支えてきた。転びそうになれば手を貸し、食事を忘れれば皿を押しつけ、感情が凍りそうな夜には傍らにいた。それが当たり前のように、九年間。
ひとしきり笑った後、三人は立ち上がった。
三人は知らなかった。
海の向こう、ウルメシア大陸で、ヴォルテナ帝国とダルガン連合の間に、静かな緊張が生まれつつあったことを。
それがどんな形で膨らんでいくのか、まだ誰にもわからなかった。ただ、遠い海の向こうで、何かが動き始めていた。
だが、それは今の三人には関わりのないことだった。
旅の終わりの空が、晴れていた。
三人は来た道を戻る。リーヴィンまで、また長い旅だ。
結局別れなど、どこにもなかった。
~あとがき~
思えばこの三人は三十五年以上ずっと脳内に住み続けていたのですが、
(AI直接使用の設定にもある通り)加筆・修正を加えつつのAI小説という形態を使って
ようやく一つ、形にすることができました。
その後の話は勿論、エレシア国内に入る前の物語など、
シリーズはまだ続きますが、まずは一区切りと致します。
ここまで読んでいただきましてありがとうございました。




