第八話
アンリーナが膠着してから約三分が経過したあと、ようやく状況を飲み込めたのかアンリーナは焦った様子で男ことシロコに詰め寄る。
「てめっ、いやっ、なんっ……貴方は誰!!?」
「誰って、今言いましたよ? ボクは白狐のシロコさん。ご主人様の使い魔。召喚獣です」
疑問を抱いている様子もなくごく自然に語る姿にアンリーナは自分がおかしいのかと錯覚してしまう。シロコは自身の発言で主人を混乱させていることに気づいていないのか部屋の中を見渡し「先に掃除しません? 埃は健康に悪いですよ〜」と心配げに眉をへの字にした。
アンリーナはそんなことより早くシロコの素性を明かさなくては。といつでも魔法が使えるように思考を整え使用する魔法を忘れぬよう頭の中で反響させておく。
「召喚獣……。い、いいえ、そんな信じられませんわ!! 第一貴方が召喚獣だという証拠がない!」
「ご主人様化けるの早いですね〜。証拠ならこの耳にもっふもふの尻尾! 人間は獣の耳も尻尾もないのでこれ以上にない証拠でしょう!」
シロコは自身からぴょこんと動く獣耳と尻尾を自慢げにアンリーナ見せつけた。その獣耳と尻尾の色はアンリーナが召喚した獣とほぼ同じと言っていいほど似ていた。だからと言って彼を自身の召喚獣だと受け入れることはアンリーナには出来ない。そこでアンリーナは部屋を軽く見渡した。そして気づく。先程まで側にいたあの獣がいないことに。
(まさか本当にあいつだってのか? だがこいつが言った白狐ってのがよくわかんねェが、そう簡単にこいつの言葉を信じることなんてできるわけねェだろ。アァクソ、なんだってこんな状況に?!)
姿を消したあの獣の代わりに現れた男。同一人物……同一召喚獣なのはほぼ確定しているが、アンリーナが彼の言葉を信用するのにはあと一歩足りない。――自分が召喚獣だと思いこんでいる精神異常者の可能性はないとは言い切れないのだから。
(どうする? どうする。安全を取るべきか、危険を承知に突っ込むべきか。『アンリーナ』、『アンリーナ』ならどうする? ……審議はどうあれ信用、するか。少なくともそういう風に今までやってきたし。え〜〜〜信用したくねェ〜!!!)
「……えぇ、確かにそうね。貴方のそれは人間にはついていないわね」
「狐さんなので」
「……その狐? 白狐って何なの?」
「狐は狐です。コーンコン! ですがボクは普通の狐ではなく神の使い神聖マシマシの白狐さんなのです!! あ、白狐については白い狐さんと思っていただければ〜」
「……」
指を合わせなにかの仕草をし、アンリーナが召喚したあの獣と同じ鳴き声をした。
じとぉっ、アンリーナはシロコを見定める。それから困っているような様子を見せ疑問を口にする。
「貴方の言う普通と神の使いの狐は一体何が違うのかしら。そもそも私は普通の狐というものを知らない」
「野生と神に選ばれた特別な存在みたいなものです」
「はぁ」
(神に選ばれた特別な存在ねェ……。あ〜やだやだ。あの野郎が思い浮かぶ〜。それにしても神、ね。まさかあのクソ女神か?)
アンリーナの脳裏に前世の光景がよぎった。それと同時にシロコの言う神とやらが自分をこの世界に転生させた者なのでは? と思った。
「クソ女って、女の子がそんな言い方をしてはいけませんよ〜。可愛い顔をして心が真っ黒なんてよくあることですがご主人様の場合ですと黒ではなく闇ですね」
「……は?」
云々カンヌン思考していると突如シロコが、アンリーナが言葉に出さず心の内で留めていた言葉を口にした。驚きアンリーナがシロコの顔を見るとシロコはわざとらしく口に手を当て叫ぶ。
「おおーっとぉ!! 口が滑った〜!!」
(は、まて、まて、今のは声に出してなかったはずだ、『アンリーナ』でもそんな言葉は言わねェ!! まさか、お前)
「いや〜言わないつもりだったんですけど予想以上にご主人様がおもしろ……凄く心の声が騒がしくて、つい言っちゃいましたね! アハッ!」
悪びれる様子もなく笑顔を浮かべながら発言し、シロコはアンリーナに説明する。
「神の使いってさっき言いましたけど、実はある所では化け狐って言われたりしてます〜。まぁこれは隅において……」
「おい隅に置くな気になるじゃねェか!!」
「まあまあ。実はボクご主人様を転生させた女神様ことリダー様に『あの無礼不謹慎最低な人間には力を授けたくないけど規約は規約だから貴方をあの人間の元へ送り届けます!! 本当はいやですよ!!! 魔法翻訳機能を渡したのですからもうすることはないと思っていたのですよ!!!!? でもパイセンが、パイセンが暴走した責任はとれと言われたので仕方なく、仕方なーーくですよ!!! こっちは初勤務だったんですよー!!!! もーーーっいやーーーっ!! 頑張っていけない!!』とのことでして」
「最後の言葉はいらねェだろ……」
心が読める発言より、アンリーナは化け狐の話やらリダーの話が気になってしまい話に集中できなくなった。もやもやとした気持ちがアンリーナの心を占めてから数十秒が経過しアンリーナは「ん?」と疑問が浮かび、段々と感情が怒りに支配されていく。――怒りの原因は先程シロコが語ったリダーの発言。
「……いやまて。俺のせいだって風に言うが、元々はてめェが俺の話を聞かねぇせいだろうがやっぱてめェは駄目神だなァ!!!」
「ボクに言われても困ります〜」
シロコはやれやれと肩をすくめ正論を口にした。




