第二十二話
アンリーナはくじで手にした紙に書かれた番号を見て小さく呟く
「163番……」
(この番号なら出番はあとの方か?)
くじを無くさないように制服のポケットの中に入れアンリーナは落ち着けそうな場所でありながらも会場を見ることが出来る場所を探す。——周囲の騒がしさが耳に響き少し痛くなったから。そうして観客エリアを歩き落ち着けそうなぐらい人が少なく会場を見ることが出来そうな場所を見つけた。何故この場所が埋まっていないんだ? と思いつつアンリーナは椅子に座って気づく。——この場所からだと会場の一部が見えないことに。
(あー通りでここが座られてない訳だ。死角になってけど、まあ俺は全体を見たい訳じゃない。一部だけでも見れれば十分)
椅子に座ってアンリーナは視線を観客エリアへ向ける。遠くの方に会場全体が見えるであろう場所に人だかりがあり、近くを見れば緊張した様子の生徒や、自信満々な表情を浮かべる生徒、もう敗北を予測しているのか項垂れている生徒達が見える。
(あの生徒の顔、歪ませてェなァ)
自信満々な表情を浮かべる生徒を見つめアンリーナは邪な考えを抱く。これからあの生徒に起こるであろう(出来ればアンリーナ自身が起こしたい)出来事を想像し愉悦に浸っていると、人が少ないこの場所で黄色の歓声が聞こえてくる。
「うっるさ……んんっ…なに……?」
歓声に耳を抑え声の発生源へ視線を向けた。歓声を上げる人だかりの中にいる召喚獣——アルノエルのフェニックスの姿。アンリーナは人だかりの中心にいるのがアルノエルなのだと気づく。
(あーあ群がられてかーわいそ。仕方ない、助けてやるか。あの時の恩返しってな)
毒魔法付与騒動の際に助けて貰ったことを思い返しアンリーナは人だかりの中へ向かった。予想通り人だかりの中心にアルノエルはいた。一斉に声をかけられてからなのかアルノエルの表情は少し悪く、困っている表情をしている。
「ノエル」
「! すまない、通してくれ。話はまた後で聞くよ」
「え? アルノエル様!!?」
周囲の人々の声に負けぬようにはっきりと、声がアルノエルまで届くように名を呼んだ。するとアルノエルはアンリーナを視界に入れ、安堵の表情を浮かべた。どうやらアンリーナの声はしっかりとアルノエルに届いていたようだ。周囲の生徒達に退くように言いアルノエルはアンリーナの元へ近づいた。
周囲の人々——主に女子生徒達は、アンリーナが口にしたあだ名に驚いた様子を見せ嫉妬に満ちた顔を浮かべ、アルノエルとの貴重な交流が奪われた女子生徒達はアンリーナを睨みつけた。怒りと嫉妬の眼差しを受けたアンリーナは臆する様子を見せず、笑顔を浮かべる――
(ば~~~~~か)
――心の中で睨んでくる女子生徒達を子馬鹿にしながら。
「待ってくださいアルノエル様!! その女は無価値のEですよ!!?」
「ちょっとアンタ、ノエルって何!? アルノエル様をそんな風に呼ぶだなんて……!」
「——私がそう呼んでくれと彼女に頼んだのだが」
「え゛っ!?」
アルノエルとの交流を諦めきれないのか女子生徒達は一斉にアンリーナを貶し、アルノエルを引き留めた。——Sクラスであるアルノエル様にEクラスの女は相応しくない。そう遠回しにいいながら。引き留める為に使ったアンリーナを貶す言葉の数々に、アルノエルの表情は困っている表情から怒りの表情へと変化した。その姿を見てアンリーナは察する「あ。あいつら地雷踏んだな」と――。
誰が聞いても不機嫌であると分かる声色と、眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をしてアルノエルはアンリーナを手を掴んだ。
(へ?)
「リーナ、行こう」
なんで手を掴むんだ?? と疑問を思う間もなくアルノエルに手を引かれてしまい、背後の引き留める声も聞かず二人共々その場かた離れた。
(え~~????? なんでェ???? そんなキレる?????)
「ね、ねぇノエル? その、手を離してくれない? 少し痛いのだけど」
アルノエルの行動に動揺、困惑してしまったアンリーナ。疑問を抱きつつ強く握られた手が痛みを訴えてきた為アルノエルに力を緩めるよう声をかけたが、何も応えてはくれない。
(はい?????? は~~~~??? なんなんですかァこれはよォ!!!)
「はぁ……」
(いやおま、そのため息はこっちがしたいんですがァ??? ッ――おわあああああああああ!!?)
ため息をつき先程よりも落ち着いた場所でアルノエルはアンリーナを椅子に座らせた。そこは先程の場所より更に会場内が見えにくい位置であった。手を離し、アルノエルはアンリーナの隣に座った。手が離れたことで自由に動けるようになったアンリーナは、何も言わず自然に隣に座ったアルノエルをまじまじと見つめ、どこから突っ込んでやろうかな――と物申す言葉を考えていると、突如音もなくフェニックスの羽がアンリーナの体を包み込んだ。
(は、え、なに???????????)
「え、えぇ?」
「……あぁ、本当にいやだ……俺は、ただ……」
「の、ノエル!!? ちょっとフェニックスを止めてくれない???!」
「はぁ……」
「私の声、聞こえてる!?」
(あったけェんだけど邪魔ァ!! 触り心地いいけど邪魔ァ!! というかなんだいきなり!!!)
「——ねえ」
(今度はなんだァ!!!? ……あ)
落ち込んでいるアルノエルに、フェニックスを離すように呼び掛けるが、聞こえてないのか返答がない。ふわふわとした柔らかな羽の感触を味わいながら「どうしてこうなった????」と疑問符を大量に頭に浮かばせていると、第三者の声が聞こえた。
羽で声の持ち主の姿ははっきりと見えなかったが、羽の隙間から見える桃色髪にアンリーナは声をかけてきたのがフィーリアだと気づく。
「フィーリア……」
「ふふ、ねぇ……アンリーナ」
(……あん? なんだ?)
くすくすとフィーリアの笑う声が聞こえ、アンリーナは違和感を覚えた。何故違和感を覚えたのか? その訳を知る為アンリーナは羽を手で退けフィーリアの姿を視界に入れた。——桃色の瞳をもっていたはずのフィーリアの瞳が、黒く、深淵のように濁っていた。
(っ……)
真っ黒に濁った瞳にアンリーナは表情に出すことなくぞっと恐怖した。対するフィーリアは怪しい笑みを浮かべアンリーナを見つめ続けている。以前のように怒ることはなく、ただ笑顔を浮かべるだけ。
「決闘、勝ち続けてね」
「……え」
「アタシ、待ってるから」
二言言葉にしてから、フィーリアは二人の元から離れていった。姿が見えなくなるまでフィーリアは笑顔を崩すことはなかった。——まるで人形のようだ。と思わせられる程に、歪な笑顔を浮かべ続けていた。
(……あいつ、なんか様子が可笑しいな……操られでもしたかァ? それに、召喚獣の姿がねェ……透明にしてんのか……?)
フィーリアに疑念を覚えつつ、一先ずフェニックスを退くよう意識をアルノエルへと向け、呼びかけを続けた。——なお決闘祭初日が終わるまでフェニックスがアンリーナから離れることはなく、アルノエルも何も応えてはくれなかった。




