第十二話
「——あぁ、ごめんなさい。貴方があまりにも可笑しなことをいうものだから、つい汚い言葉が。フィーリアさん、きっと貴方疲れていると思うの。主に頭が」
煽り混じりに怒った後、アンリーナはクスリと笑みを浮かべフィーリアに謝罪しながら煽った。反省している訳ではないので謝罪はあくまで煽る為の素材。フィーリアもアンリーナが反省していないことは彼女の冷めた目と嘲笑う表情で理解しているようで笑顔から顔を怒りに醜く歪ませた。拳を握りしめ、今すぐにでも襲い掛かってもおかしくもない様子でフィーリアは怒りのまま言葉を発する。
「やっ、ぱり、やっぱり、やっぱり!!! アンタは”アンリーナ”じゃない! アンリーナは、アンリーナはそんな『キャラ』じゃない! ああ、あああ、あああなんでアンタなんかがアンリーナになるの!? アンタでいいならアタシだっていいでしょ、アタシは誰よりも頑張って来たのに!!」
(テメェが頑張ってたことなんて俺は知らねェ~~~よ)
「先程から貴方が何を言っているのか全く理解できないわ。本当に大丈夫?」
「アンリーナはそんな口調じゃない!」
「私はアンリーナなのだけど…………?」
(こいつ頭おかしいだろ……)
怒り狂うフィーリアの勢いに、アンリーナは思わず後ずさった。
「許さない。許さない。許さない。許さない――」
目をこれでもかと開きフィーリアはアンリーナを指差す。口からは絶え間なく憎悪が零れ落ちていく。
(流石にここで引くべきだな。俺が危ねェ。……それにしてもこいつさっきから俺以外に『アンリーナ』がいるみたいな言い方がすっげェ気になる。あとは『異世界転生』『逆ハーレム』『主人公』『キャラ』ってのがよくわかんねェな。『転生者』って言ってたからこいつもあのクソ女神に会ってんのか? それで二度目の人生を? ……それでなんで俺に突っかかる? 俺は好きでこの体になった訳じゃねェし……突っかかる先がちげェだろ)
憎悪を垂れ流しすフィーリアをよそにアンリーナは彼女が先程発していた言葉を元に情報を組み立てつつ、これ以上ここに居れば危ないと危機感を覚え倉庫の出口に向かって走った。
「ごめんなさい、私もう行くわね!!」
「ッ待ちなさい、待て!!!!」
(待つわけねェ~~だろ!!!)
制止するフィーリアの声を無視しアンリーナは外に飛び出した。続けて背後からフィーリアの声と足音。 追いかけてくるフィーリアにアンリーナは舌打ちをする。
「来るんじゃねェよ…………『accélération(加速)』」
魔法を使いアンリーナはフィーリアとの距離を遠ざけていく。予測していた初日の出来事とは全く違う展開。貴族&奴隷制度でさえ厳しいと言うのに追加でよく分からない存在に恨まれるという「何かしたか????」と思うレベルの展開の数々にアンリーナは呆れかえる。
アンリーナはフィーリアの気配が消え去るまで走り続け、途中で気配がなくなりアンリーナはゆっくりと動きと止め背後を確認し、フィーリアが視界から完全に消えていることを確認した後魔法の使用をやめた。
「……シロコ、いる?」
一先ず災難が去り、アンリーナは演技を始め自分の召喚獣の名を呼んだ。すると名を呼んでから数十秒も立たずにボンッと何もない場所で煙が発生した。突然煙が現れたことでアンリーナはフィーリアがまだいるのかと警戒したが、煙の中からシロコが現れたことでアンリーナの警戒はすぐに解かれることとなった。
「呼びました~?」
「お前かよ……んんっ、ええ呼んだわ。シロコ、私を部屋まで護衛して」
呆れた様子でアンリーナはシロコに命令した。
シロコは最初に人の姿で対面した時の姿でアンリーナをじっと不思議そうに見つめてから笑顔で「お任せを!」と頷いてから周囲を見渡し首を傾げた。
「フィーリアはどうされたんです?」
「貴方、私の心読めるでしょ?」
(あいつに襲われかけて逃げた。あとで詳しく話してやるから今はこれで納得しろ)
「……あー。分かりました! ではお部屋まで護衛しますね!」
「お願い」
心の中で簡潔にシロコに事情を言い、アンリーナは深いため息を吐いた。対するシロコはアンリーナの説明に納得した様子は見せたものの、何か思うことがあるのか考え込んでいる仕草をした。
シロコに護衛され部屋に戻っている最中、アンリーナはフィーリアが口にした言葉をもう一度思い返す。
『アンタが選んだから、アタシ『モブ』にしかなれなかった』
(まるで物語の登場人物に憧れる子供みてェな言い方だよなァ……………………物語の登場人物?)
何かに気づいたアンリーナはハッと顔を上げる。
(あいつが口にした『アンリーナ』は物語の登場人物。つまり『キャラ』の意味は登場人物か? ……異世界……異なる世界……物語の中に転生?)
「まさか、ね」
(この世界が物語の世界だなんて……あり得るのか?)
フィーリアの情報を元に照らし合わせた答え。だが確信を持つことが出来ずアンリーナは一度抱いた考えを頭の片隅へと置いた。——確信を得るにはまだ情報が足りない。




