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第十話

 外に出てきた(シロコに追い出されたとも言う)アンリーナは一人夕暮れを視界に学園内にあるベンチに座って見ていた。青色の長髪がそよ風でふわふわ揺らめく。ぼんやりと夕暮れを眺めて続けていると背後から地面を踏みしめる音が聞こえ始める。誰かが近づいてきている――アンリーナはゆっくりと振り返り”誰か”を視界にいれる。


「リーナ」

「……ノエル?」


 視界に写るはシロコが口にしていたアルノエル。彼は心配そうな表情でアンリーナに接近した。


「どうしてこんな所に? それに……危ないよ。この辺りには灯りがないから夜になったら何も見えなくなってしまう」


 周囲を見渡し、灯りがないことを確認したアルノエルは、心配そうな表情を変えることなくアンリーナの身を案じた。心配の言葉にアンリーナはクスッと小さく笑い、椅子から立ち上がりアルノエルと目を合わせる。


「貴方に会いたかった」

「…………!? っ!!!? え、え゛っ!?」

(おもろ)


 冗談交じりに「会いたい」と口にした途端アルノエルは呆然とした様子を見せ、それから目に見えて動揺をあらわにした。自由獣で感情が読み取れないシロコとは違ってアルノエルは真面目な人間に見え感情も読み取りやすく、アンリーナの気分は上昇した。

 二人が今いる場所はB寮とC寮の中間に位置する場所。もうすぐ夜になるとは言え、人の姿はまだちらほらと視界に映る。誰かにこの場の光景を見られても可笑しくはない。――それを分かったうえでアンリーナは「会いたい」と口にしたのだ。

 クスッと微笑み、アンリーナは手を後ろに回し上目遣いでアルノエルを見る。


「ふふっ、冗談よ。驚いた?」

「そ、れは、驚くよ……」

「ふふ、ごめんなさい。それで、貴方はどうしてここに? まさか私に会いたくなったとか?」

「ッ……」

(え。まじで俺に会いに来たのかこいつ。え?? 今日が初めましてだよな? なんでこいつこんな俺に関ろうとすんだ??? え???) 


 顔を赤く染め視線を逸らす姿に、アンリーナはピクリと体が震え動揺した。軽口のつもりで問いかけたことが真実であると言ったような様子を見せてきた。動揺もするし混乱もしてしまう。——そしてアンリーナはふと気がつく。彼の服が、髪が少し乱れていることに。だがそれでも多少整えはしたのか、傍目で見る分にはすぐに気づくことが出来ない程清潔ではあった。

 ちやほやされたから身だしなみが崩れてしまった可能性も、召喚獣に遊ばれ乱れてしまった可能性もなきにしもあらず。だがしかしアンリーナは先程の見せたアルノエルの反応にどうしても「アンリーナを探し続けた故に身だしなみが乱れてしまった」という考えが脳裏に過ってしまう。


(一応、確認するかァ……?)

「あら、その反応……もしかして本当のことだった?」

「……ああ」

(————まじ?)


 脳裏に過り続けている可能性を潰そうと確認すれば、悲しきかな。アンリーナの脳裏に過っていたことがほぼ正解であったことが判明した。当たってほしくなかったことが当たってしまった衝撃で眩暈がしているような錯覚をアンリーナは味わう。一貫して「今日が初対面だよな???」という疑問が思考に残り続ける。

 疑問に混乱がアンリーナの思考を乱す。動揺することなく、どう返事を返そうか——アンリーナは考える。


(そうだ——)

「どうして私に会いたかったの?」

「……あー……えぇと」

(ん? なんだその反応)

「どうしたの?」

「一つ先に確認したいんだけど……君は、俺と対等でいてくれるか?」

(???)


 どうして自分と会いたかったのか――そのことを深く理由を知ろうと問いかければアルノエルは何か言いにくいことがあるのか口をもごつかせ、『対等』のワードを使いアンリーナに問いかけ返した。何故今『対等』という言葉を使ったのか? 自分と会おうとする理由に関わることなのか? 思考を巡らせるが彼の問いかけの意味に理解は出来ず、一先ずアンリーナはこくりと頷き優しそうな笑顔を浮かべる。


「ええ。対等でいるわ。それがどうかした?」

「なら、よかった。……実は——」


 対等という言葉に肯定するえば、アルノエルはほっと安堵の表情をし口をゆっくりと開き、重々しく語り始めた。——アンリーナと別れたあとの話を。


<>


『C'est la bénédiction et le miracle de Dieu!』

(これ成るは神の祝福・奇跡なり!)


 アルノエルが詠唱を終え部屋が赤い光に包まれた。眩い光に耐え切れなくなりアルノエルは目を閉じてしまう。それから光が治まったのは時間にして約三分。何かの鳥のような鳴き声が聞こえアルノエルは恐る恐る目を見開く——巨大な炎の翼をもった鳥が魔法陣の中心にいた。途端、鳥を目にした一人の審査員が興奮した様子を見せ椅子から勢いよく立ち上がった。勢いよく立ち上がったせいで椅子はゴトンッ。と音をたて地面に倒れるが審査員は気にすることなく巨大な鳥に向かって叫ぶ。


「こ、こここ、これはぁぁぁぁぁ!!!!!????」

「……これが、私の……きれ——」

「待て待て待て待て!!! まさか、まさか生きている内にこんな、この方を見れるだなんて!!!!!!」

「——あの…………」


 言葉を遮る程の叫び声と大声、困惑するアルノエルに審査員は気づくことなく息を荒くさせアルノエルの召喚獣である巨大な鳥に接近した。他の審査員はその様子を見せ慌てた様子で「おいお前何してるんだ戻れ!!」と怒号を飛ばす。


「ア゛ーーーー!!!!!! すっごいこれが伝説の最上級聖獣の一体『フェニックス』!!! 死してなお蘇る伝説の鳥!!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛生きててよかったここで働いててよかったこんな存在しているか分からない本でしか見たことがない伝説の一体に会えるなんて!!!!!」

「おいお前戻れ!!! おい!!!」

『キュルルル……』

「す゛き゛!!!!!」

「おい誰かそいつを追い出せ!!!!」

「はは……」


 興奮し巨大な鳥こと『フェニックス』に抱きつこうとする審査員を数人が止め、羽交い絞めの状態でずるずると部屋の外で連れていく光景にアルノエルは困ったような表情で乾いた笑いを漏らした。騒動の原因となっているフェニックスはどこ吹く風で、炎の翼をくしくし(くちばし)で突いたあとアルノエルに頬擦りをした。


「え??!」


 全身が炎で形作られたフェニックスの体。熱そうと思っていた存在に突然触れられアルノエルは驚きフェニックスから距離を取ったが、先程触れた部分が痛くなる気配は全くなかった。「火傷していない?」と混乱しているアルノエルをよそにフェニックスはコテンと首を傾げ鳴き声を発する。


『キュルルル』


 鳴き声と火傷の様子がない自身の姿を見て、アルノエルはゴクリと息を呑み覚悟を決めてからフェニックスの体を触った。——暖かい。


「あつく、ない? ……フェニックス、これからよろしく」

『キュゥ』


 熱くないどころか心地いい温度がアルノエルの手を暖めきた。不安が暖かさで緩和されアルノエルの頬が緩む。その時——


「魔力量999……」


 誰かがそんなことを呟いた。


<>


「それから大変だったんだ。あの一瞬の出来事が皆に伝わったみたいで、俺を持ち上げるんだ。教室に行って自己紹介をしようとしたら魔力量を話題にだされて……それから………それから………………」

(ウワァ……)


 アルノエルから語られた話にアンリーナは心の中で滅茶苦茶ドン引き、アルノエルを哀れんだ。『対等』のワードを出す理由がこんなものとは予想していなかった。だがしかしよくよく考えてみればアルノエルは普通を望む青年だ。その彼が召喚儀式を終えても喜ぶ様子を見せずほんの少し疲れた様子で『対等』と口にするならば普通になれない=対等になれなかった。ということにアンリーナは今更気がつく。


(……でもなァ、なんでこいつ俺と会いたかったんだァ?)

「一番来るのが、『流石ディナルド家!!! アルノエル様も同じ気質をお持ちとは、素晴らしい!!』なんだ。クラスメイトから言われてしまった……俺は皆と対等になりたかったのに……友達になりたかったのに………………だから君を探していた」

(そんな理由なのかよ!!!)


 ベンチに座り顔を俯かせた状態で聞こえてきた言葉の数々にアンリーナは呆れてしまう。つまらなくて今すぐにでもこの場から去ってしまいたいと思ってしまうが、この哀れな男を放っておけば後で自分が不利になってしまうかもしれない。そんな光景を思い浮かべ何も言わず、ただ彼の背中に手を当て慰め続けた。


(哀れだなァ……イヤァ、本当に……報われないってこういうのなんだろうナァ)

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