issue#02 I I I UNDERTALE CHAPTER 02 01
CHAPTER 2
日本と北朝鮮の突発的な軍事危機は、数日間にわたる混乱ののち、ひとまず終息へと向かった。
きっかけは、北朝鮮のキョン将軍が極秘裏に日本へ亡命し、記者会見で今回の一連の事態――空縁州へのミサイル着弾の真相や、その背後で暗躍していた超常的存在、すなわち「シャカゾンビ」の関与――を証言したことにあった。
加えて、中国政府が迅速に和平仲介へと乗り出し、3者間の停戦交渉が実現したことで、大規模な衝突は最悪の段階を回避したのである。
世論は当初、戦後の日本にもたらされた未曾有の混乱と並行して、
ヒーロー「オールラウンダー」の縁者である吉濱家の少女たちによる戦闘介入、
および潜水艦発射型核ミサイルによるEMP高高度爆発という彼女たちの“独断”について、賛否が真っ二つに割れた。
国会審議やメディアの討論番組では、
「民間人による武力介入の是非」「それは正当防衛か越権行為か」「EMPがもたらした甚大な被害」などが連日取り上げられ、激論が交わされた。
事実、EMPはきわめて大規模な電子障害を引き起こした。日本海沿岸の各都市ではインフラが一時的に麻痺し、交通管制・電力供給・通信・金融システムのダウンで数100万人規模に影響が出た。
また中国沿岸部や朝鮮半島の港湾・軍港施設も軒並み機能不全に陥り、民間・商業・軍事合わせてその被害額は日本国内だけで推定5兆円以上、完全復旧には半年から1年を要するとの見通しも発表された。
しかし、防衛省や公安による内部調査が進むうち、従来から「シャカゾンビ」の脅威を単なる過去の産物扱いし、最新の諜報情報すら現場に共有していなかった組織の杜撰さが明るみに出ていった。
さらに、事件直前に「オールラウンダー」が防衛省に対し行った危機警告に対する、事務次官の高圧的な対応――「民間人が国家安全保障に口出しするな」と一蹴した一連のやり取り――が、
関係者のリークによってSNS上で瞬く間に拡散され、世論は急速に、吉濱家側へと同情的に傾いていった。
もし、これが世界で初めての「超人介入事件」であったなら、事態の帰結は全く別のものになっただろう。しかし、既にヒーローの慈善活動やヴィランによる大規模破壊行為が繰り返し報道されているこの時代、国民の多くは「非常時の越権行為」をある種の現実感として受け入れつつあった。
最終的に、少女たちは数日間の身柄拘束の末に釈放され、これまでの軋轢も、大統領直々の吉濱家への表敬訪問という形で公式な和解へと昇華された。この一連の経過は、政府の公式発表としては「超法規的措置下での事情聴取および安全確保のための一時隔離」と説明された。吉濱家の面々は、事態の解決にあたっての"民間の特別協力者"として以後待遇され、無事社会復帰を果たすこととなった。
*
そして、ある日の朝……。
冬縛女子学園、高等部。その教室は、凛とした10月の光で満たされている。
アシュリーは自席に腰を下ろしており、そこに、登校してきたクラスメイトたちが輪を描くように集まった姿はさながら、彼女を中心に咲き誇るにぎやかな花束のような光景だった。
手にしていたスマートフォンは横に構えられ、画面にはおとといのインタビュー映像が再生されている。
「……予想よりずっといいとこだったよ。ぶっちゃけホテルだった。最初は臭い飯か、バリカンで坊主か、ってビビってたけど、ま、ワンちゃんが予防接種に連れてかれる時みたいな絶望感はなかったな。
刑務官にケツ見せて『はい次!』ってなるとか、マグショットでバッチリ決めるとか、そういう“お約束”がなかったのがちょっと寂しいくらい。次おんなじ理由で捕まるヤツには、その辺のエンタメ要素も追加してくれるといいかもな!」
再生の終わりを見届けると、アシュリーはさりげなく、画面に映る「高評価」のボタンをひと押しした。その瞬間、教室の後方で、動画の余韻に乗った美しい女子たちが一斉に沸き立ち、歓声を上げる。
「アシュリー、この時すごく堂々としてた!」
「コメントが絶妙すぎて鳥肌立ったわ……!」
「どんな質問にもブレてなかったし、マジでカッコよかった!」
「なあ、見たことあるか?人間のこんな晴れ晴れした顔。すばらしいだろ?まるで国宝だ」
その歓声の中心で、アシュリーは調子よく問いかける。
「え? それ、けっこう毎日してない?」
「嘘だろ? それならこの学校、世界遺産でいいって話になるんだけど」
いつもなら流されてしまいそうな彼女のキザな一言にも、今日は自然と笑い声と拍手が湧き上がった。
ふと気づけば、もともとの取り巻きだけでなく、登校してきたばかりの同級生たちも次々と声をかけてくる。
「……お疲れさま!」
「ニュース見てたよ、艦載カメラの映像!あーれ、すぅ~~~っごかった!」
「やっぱりアシュリーはアシュリーだったね!」
興奮を隠せぬまま駆け寄ってくる声の中には、冗談とも本気ともつかぬ、こんな問いかけも混じっていた。
「今もミサイル落とせる?」
そのときは、アシュリーも肩の力を抜いて、気さくに笑う。
「ま、用意してくれたらな」
「……うちらはずっと応援してたから!」
「ほんと大変だったね……でも、最後までカッコよかった!」
普段はあまり話しかけてこないような子ですら、心からのねぎらいの言葉を贈ってくる。
その響きはすべて顔なじみからのもののはずなのに――この朝ばかりは、アシュリーの耳にどこか新鮮で、柔らかな音色として届いた。
思わず顔が熱くなってきて、赤毛の少女はくすぐったそうに笑う。
「なに、やれることをやっただけだよ」
照れ隠しのようにそう口にすると、教室の窓外、遠くかすむ青空をどこか満足げに見上げた。




