issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 05 56
そして、出航の刻。
格納庫の大扉が重々しい駆動音とともに開放され、長方形の開口部の向こうに広大な宇宙が覗いた。
虹色に揺らめく防護フィールドの幕越しには無数の星々がきらめき、その彼方には青き人型の惑星――戦いを終え、穏やかな人柄を取りもどしたオーシャンマンの巨躯が浮かんでいる。
その雄大な背景の手前で、スクラップ同然のトラックを魔改造した即席宇宙船が、いまや遅しとエンジンの予熱を上げていた。4人が最後の点検を終え、乗り込もうとした、その時だ。
「すみません!どうも……遅れましたっ!」
背後の回廊から、慌ただしい足音が響く。
息を切らせて小走りで駆け寄ってきたのは、ひとりの小柄なクワウバンの女性――いや、そう形容するのさえ躊躇われるほど、その姿を変貌させた者だった。
「あっ、どうも!……」
おせちは足を止め、丁寧に応じつつも、目を丸くして彼女を凝視した。
「えっと……あなたは、ひょっとして星間条約機構・対地球準加盟支援・特命駐在官のネ=レネ・ココさん、ですか?」
「はい、ネ=レネです。……ふふ、最初、誰かと思いましたか?」
彼女は照れくさそうに頬をかいた。そこにはもう、剥き出しの筋肉も、不気味な眼球もない。医療ポッドによる急速な編集によって、彼女の全身はなめらかな赤色の表皮で覆われていた。
額や、側頭部から後頭部にかけてロップイヤーのように垂れ下がった頭部の器官は、
柔らかな髪の房のように整えられ、縮小された瞳には知的な銀縁の眼鏡がちょこんと乗せられている。
地球の資料を参考に仕立てたのであろう紺色のスーツスカートが、ふくよかな曲線を上品に包み込み、
そのおどおどとした顔つきには、擬人化されたイルカを思わせる愛嬌と、
地球的な美観に即した柔和な女性らしさが余すことなく宿っていた。
「はい、医療ポッドを使えば、こうした外見の再定義も可能ですので――。
これから地球へ赴くにあたり、現地の皆様に無用な恐怖心を与えぬよう、急ぎ肉体を“最適化”して参りました」
「えっ、そんな……私たちのためにわざわざ?」
おせちは、その徹底ぶりに恐縮してあわあわと手を振った。
「――いえいえ、お気になさらず」
ネ=レネは、眼鏡の位置を指先で直し、誠実な眼差しで告げる。
「こうした外見の調整は、まだ銀河社会との接点が少ない世界の文明圏との外交においては、むしろ基本中の基本となるマナーですので」
その流暢な返答に、おせちはふと違和感を覚え、目を細めた。彼女のの胸元には――いつもなら絶え間なく明滅しているはずの、あの機械が存在しない。




