【やり直し軍師SS-606】知られざる戦い(6)
ボルドラスが現状を伝え終えると、レイズはしばらく視線を宙に彷徨わせたのち、
「書き込んで良いゼッタ平原の地図と、ここまでの野盗の動きに詳しい記録官を用意していただけますか?」と言う。
ボルドラスはすぐに希望のものを用意した。
「こやつはアーウィン。第四騎士団の中でも、報告書類の作成が飛び抜けて上手いので、中央へ報告する時は大抵任せておるのです」
紹介されたアーウィンは、突然の呼び出しにやや困惑気味だ。
「アーウィンよ、このお方は……あー、中央からの使者どのだ。ゼッタ平原の現況について確認に来られた」
「グレイズと申す。よろしく、アーウィン殿」
当然のように偽名を口にしたレイズ。
「は、はい。初めましてグレイズ殿。で、私はなぜ呼ばれたのでしょうか?」
「この地図上に、これまでに野盗の出現した箇所を記入することは可能か? 記憶にある限りで構わない」
「え? あの……」
レイズの依頼にさらに困惑の色を深めるアーウィン。しかしここはボルドラスとしても、レイズの手腕を見てみたい。
「アーウィン、可能な限り手伝ってやりなさい」
「しかし、流石になんの書類も無しに正確なことは……日付などもわかりませんし」
「日付は不要だ。ある程度で問題ない。知りたいのは、発生場所の分布図だからな」
レイズからそう促されたアーウィンは、ようやくペンを取ると、
「間違っているかもしれませんよ……」
などと前置きをしながら、地図に書き込みを始める。
「えっと、一月前はここと、ここと、あ! あと、ここも……」
自信なさげではあったが、やはりアーウィンは優秀だ。ボルドラスも忘れていたような、小さな野盗の動きまで次々と書き込んでゆく。半刻ほどかけて全てを描き終えると、ゆっくりとペンを置いて、
「……これは、一体……」
と自ら口にしながら、地図を凝視。
アーウィンだけではない。ボルドラスも驚きを隠せない。全てが書き込まれた地図上に明らかな違和感があった。
まさに神出鬼没といった感じの野盗どもの動き。しかし地図上にアーウィンが書いたばつ印が、露骨に空白になっている場所が浮かび上がって来たのだ。
その結果を見たレイズは満足そうに頷く。
「レイ……グレイズ殿はこうなることがわかっておられたので?」
「その可能性は十分にありうると思っておりました。これほど綺麗に出せたのは、アーウィン殿の功績でしょう」
「興味深いですな。これで一体何がわかると」
「そもそもの前提として、野盗がゴルベルに協力をしているのは、ゼッタが戦場になり、商人が激減したことが原因でしょう。“本業”が順調ならば、正規兵相手の挑発など愚行でしかない」
「うむ」
「ゴルベルが野盗を使うにあたって、わざわざ個別に交渉したとは考えられません。手間がかかりすぎる上、仮に金を与えても約束を守らずに逃げるかもしれない。というか、逃げる方が多いでしょうな」
「確かに」
野盗どもがゴルベルのいうことを聞くなど、理由は金しかない。逆に言えば金さえ貰えれば、わざわざ第四騎士団に追い立てられるような危険を犯さず、逃げてしまう方が効率がいいのだ。
「それをさせないには、私ならばひとり、頭を作る」
「頭? 野盗の棟梁を作るということですかな?」
「ええ。ボルドラス殿のおっしゃる通り。取りまとめ役と言い換えても良いでしょう。元々顔役であった人間を捕まえて、金を預ける。その顔役は汲々としている悪党仲間に声をかけ、金を払ってこちらを挑発させる。ゴルベル相手なら逃げられても、同じ悪党のコミュニティでそれをやると後が怖い。それに金はちゃんともらえるなら、命令通りに動く」
……とんでもないことを考える輩がいるものだ。そしてこの策を考えたものは、その取りまとめ役を制御できるような才を持っているということになる。
「おそらくだが、取りまとめ役は今回の挑発には参加していない。金を払って他の野盗を動かしていれば、自分にも金が流れ込んでいるのだから、わざわざ危険を冒す必要はない。だからこそ取りまとめ役を引き受けたと考えれば……」
ボルドラスもレイズの言葉の意味に気づく。
「自分に被害が及ばぬようにする。つまり、仮に我らが野盗を追い立てても、自分たちは安全圏にいることができるように……」
―――己の縄張りでは、ことを起こさせない―――
それがこの、地図上の空白。
「というわけで、取りまとめ役を潰せば話が早いと思いませんか?」
レイズは空白部分をトンと叩きながら、涼しげにそう口にするのであった。




