【やり直し軍師SS-599】秘密の会議(上)
600話まであと1話!
そして記念すべき600話目は、ちょっと意外なこのお話をどうぞ!
雲行きが少し、怪しくなってきたな。
南の空を眺めながら、シャリスは馬の速度を早めることにした。
いっそ夜通し駆けてホグベック領に入ってしまおうか。いやしかし、あまり夜分に訪れるのも考えものだ。野宿でもいいが、セシリアに会う前に、あまり汚れた格好はしたくない。
やはり、明日雨にさらされても、今日は途中で宿を取り、しっかりと身を清めてから向かおう。
しかし『重要な話』とは一体何だろうか。手紙の文脈では深刻さは感じなかったので、所領の引き継ぎの件だとは思うが。
周辺の領土も再編し、イグラド家を南部貴族のまとめ役にする。そんなロア殿の目論見の上で成立した計画。
西部貴族の大編成ともなるがゆえに、ホグベック家以外の貴族からイグラド家に引き継がれる領地も、決して小さくはない。
当然様々な調整が必要なため、シャリスが第10騎士団を退団する前に、ある程度整備しておく必要がある。
もしかすると周辺貴族から不満でも出たか?
住み慣れた地を、離れる必要がある家が出るのは避けられない。
基本的に対象の貴族は、何らかの恩恵を得ることになるが、それを不満と思う御仁もいるだろう。
ならば、ロア殿にも声をかけた方が良いかも知れん。が、まずは話を聞いてからだ。今の段階では全て予測に過ぎないのだから。
セシリアの性格的にあまり考えにくいが、こうして顔を合わせるきっかけを作りたいだけかもしれないし。
もし、本当にそうだったとしても、セシリアを責めることはできない。待たせているのはシャリスの方なのだ。しかも、ちゃんとけじめをつけたいという、ごく個人的な感情による。
むしろセシリアは文句も言わずに待ってくれている。感謝しているし、だからこそ、その程度のわがままはむしろ当然のこと。
それにシャリスとて、セシリアと会えるのは素直に嬉しい。普段は手紙だけのやり取りなのだ。どのような理由であれ、顔を合わせて話せる機会は大事にしたい。
シャリスは、道中で落とさぬように首から下げていた小袋に手をあてる。この中にはセシリアへのお土産が入っていた。
中身は貴重な宝石だ。極北之青と呼ばれる、ツァナデフォルの山脈でしか採取できない貴重な代物。
たまたまツァナデフォルの使者からこの宝石の話を聞き、無理を言って手に入れてもらったのである。
これをペンダントに加工すれば、セシリアに似合うだろうな。
セシリアが喜ぶ顔を思い浮かべながら、小袋を大切に握ると、馬の速度をもう一段階上げた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
案の定、翌日はかなり怪しい雲行きの中で出立。
それでも早朝に出たのが功を奏したか、近くに雷鳴を感じながらもどうにか濡れることなく領主館に辿り着く。
扉をノックすればすぐにこちらに近づく気配。
「シャリス!」
扉を開けると同時にこちらに飛びついてくるセシリアをしっかりと受け止め、その場で二回転。
ようやく足が地面についたセシリアが、
「遠くからお疲れ様。急な呼び出しでごめんなさい」
と口にする。
「いや、私こそ、頻繁にやってこれなくてすまない。引き継ぎ関係も任せきりになってしまっている」
「気にしないで」
「それで、いったい何が……ああ、いや、面倒な話になるようなら、先にこれを渡しておこう」
シャリスは首にかけた小袋を外し、セシリアへ。
「何かしら?」
「ちょっとした贈り物だ。開けてみてくれ」
小袋に入っていた宝石が、セシリアの手のひらへ。
「……なんて綺麗な青」
「アレスレアという宝石だ、ツァナデフォルの古い言葉で極北の青の意味を持つ。これを加工して首飾りにしよう。……本当は加工をしてから持ってきたかったのだが、時間がなかった」
「嬉しい! どうもありがとう!!」
もう一度飛びついてくるセシリアを抱き止めて、軽くキス。そうしてひとまず再会を喜ぶと、セリシアが話題を切り替える。
「さ、もうみんな集まっているわ! 待たせるのも悪いから、早く、中へ」
「みんな?」
それほど多くの貴族が集まっているのか?
怪訝な顔をしたシャリスの手を掴み、引っ張るように進むセシリアに身を任せて進めば、とある部屋で足を止める。
「さ、どうぞ」
詳細を話さないということは、まずは会えという意味か。
「失礼する」
声をかけて部屋に入れば、窓を背にして三人の人物がこちらを待ち構えていた。部屋は暗く、シルエットしか判別できないが、一人は確実に誰か分かる。
「……あの、ウィックハルト殿……ですよね? これは一体……」
シャリスがそのように口にした瞬間、窓の外で雷鳴が轟いた。




