【やり直し軍師SS-600】秘密の会議(下)
皆様の温かいご支援に支えられて、まさかのSS集600話到達しました!!
本当にいつもありがとうございます!
今回の更新はここまで! 次回は4月3日からの更新再開を予定しております〜
4月7日のデビュー2周年&書籍版5巻&コミック2巻発売記念更新です!
コミカライズ最新話、昨日更新されております!
宜しければマンガUP! にてお楽しみくださいませ〜
雷鳴に照らされた人物全員に、見覚えがあった。
というか、見間違いであって欲しい方がいた。
「レーレンス王妃様がどうしてここに……まさか、お一人で?」
どうしてと口にしたものの、シャリスにはある程度あたりがついている。
「お一人な訳ないですよ〜」
「うおっ!?」
不意に真後ろから声をかけられて、シャリスは本能的に身構える。完全に気配がしなかった。いったいどこに潜んでいたのか。
そこに立っていたのは小柄な女性。しかし、どう考えてもただものではない。王妃の護衛だろう。シャリスの反応を見て、特徴に乏しい女はくすくすと笑う。
「シヴィ、シャリスを揶揄ってはいけませんよ」
「はあい、レーレンス様」
いうなり壁に張り付くように立ったシヴィは、そのまま壁に溶けて消えてしまうかのうように存在感が希薄になる。そこにいるのに、幻のような奇妙な感覚を覚える。
いや、今はこの娘にこだわっても仕方がないか。シャリスは視線を正面に戻すと、ウィックハルトとレーレンス妃を従えるようにして、中央に座る娘を見た。
ラピリアの妹、レアリー=ゾディアック。妃はともかく、レアリーとウィックハルトが揃っているということは、目的は一つ。
「……また、ロア殿の物語の件ですか?」
「はい。その通りですわ! シャリス様。そして本日は朗報がございます!」
「朗報?」
シャリスが首を傾げれば、ウィックハルトが立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「これを」
差し出されたのは、紐で閉じて一応の体裁を整えただけの、やや不恰好な本だ。
これは、まさか。
「……ついに完成したんですか?」
レアリーはウィックハルトとともに、ロアを礼賛する物語を数年がかりでまとめていた。しかもロアには極秘で。なぜならば、露見すればロアに没収される恐れがあるから。
ロアだけならばいいが、実姉のラピリアも物語の中心にいる以上、奥ゆかしい二人がそのような物語を許可するとは考え難い。
そうは言っても、おそらくレアリーとウイックハルトだけならば、いずれは露見したことだろう。
ところが、この国の王妃が関わったことで状況は一変。ロアとラピリアの物語の編纂は、裏の国家事業のような様相を呈していた。
シャリスも情報提供も求められたし、たまには協力を頼まれたりもしていたが、それがついに完成したのか。
「これが第一部です」
多少なりとも携わったものとして、わずかばかりの感傷に浸っていたシャリスの耳に届いたのは、耳を疑う一言。
「第一部?」
「ええ。レアリー先生はすでに第二部を執筆され始めております」
なんという情熱。若干の恐怖を覚える。まあ、人に迷惑をかけているわけでもないので、苦言を呈するものでもないが。
だが一つ、大いなる疑問が残る。
「……ともかく。完成おめでとうございます。ですがなぜ、ホグベック領に?」
秘密の作業とはいえ、王都の中でも十分に活動できていたはず。それに、今回シャリスを呼び出したのはこの人たちであろう。
さすがに、わざわざシャリスに見せるためだけに集まったとは思えない。
シャリスの問いに口を開いたのはレーレンス妃。
「それはもちろん……」
「も、もちろん……」
そこでもう一度、落雷が部屋を光らせる。シャリスの喉がゴクリと鳴る。
しかし続きを聞く前に、
「あのう、……お部屋に灯りをつけてもよろしいですか?」
とセシリアの声。
「あら、この方が雰囲気があってよかったけれど、確かにここからは明るい方が便利よね。セシリアさん、お願いできる?」
レーレンス妃に促されて、室内が明るく照らされると、シャリスは少し肩の力を抜く。気付かぬうちに緊張していたようだ。
「やっぱり明るい方がいいわね」
などというレーレンス妃。ならば最初からつけておけば良いと思うが、相手が王妃なので黙っておく。
「で、どうしてシャリスにこの話をするかという件だったわね」
「はい」
「実はね、この本の量産を、このホグベック領で行うことにしたのよ」
「はい?」
「たくさんの方に、この素晴らしい物語をお届けするためには、最初からある程度の数を流通させたいのよ。そうしないとロアに回収されておしまいだもの」
「ああ、なるほど」
それは理解できる。
「物語を書写するにも、それなりに人手がいる。王都から離れており、説明の手間も省けるうちの実家で請け負うことにしたのだ」
ウィックハルトの補足を聞いて、シャリスは思い当たる。イグラド家はホグベックの領地を引き継ぐのだ。すなわち……。
「つまり、この製本事業をイグラド家でも?」
揃って頷く三人。
言葉に迷うシャリスの視線の先、雨が上があがったばかりの窓から、薄明かりが差し込んできた。
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こうしてウィックハルトの言葉の通り、ロアが回収できない量が揃うまで、ロアの物語はこの地で密かに増産され続けた。
事業を引き継いだイグラド家も、淡々とその作業を引き継いだ。
ところで、イグラド家ではずっと後に、経済面で大きな打撃を被る事件が起こる。
お家存亡の危機にあって、当代の当主が目をつけたのは、細々とやっていた製本事業。
これまでのノウハウを活かして本格的にこの事業に乗り出した結果、一族の苦難を乗り越えることになるのは、また別のお話である。




