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【やり直し軍師SS-594】遠乗り(1)

書籍版五巻、カバーイラスト情報が解禁となりました!

詳細は活動報告をご覧くださいませ!


 パタン。


―――良いですかトゥリアナ。基本は、万事たおやかに、あまり音を立てぬのが淑女の嗜みです―――


 義母となったマゼット様に教えてもらったことを守り、なるべく音を立てずに扉を閉めた私。


 そのまままっすぐにベッドに向かうと、「はふぅ」と妙な声を出しながら、柔らかな羽毛が敷かれたベッドに倒れ込んだ。


 己の顔が沈むほどのふわふわ感、心地よいけれどいまだに少し慣れない。


 牧場で寝る時はシーツの下に藁を敷いて、柔らかさを出していたのだ。顔が沈むなどありえなかった。


 でも、あの藁の香りが少し懐かしくも感じる。


 マゼット様は良い方だ。貴族のことなど何も知らない私に、一つ一つ丁寧に、根気よく所作を教えてくださる。私が失敗しても決して声を荒らげたりしない。


 もちろん感謝している。ただ、このお部屋にしろ、食事にしろ、私の生活はまさに一変していた。どうしても気疲れするのだ。


 時折フレイン様やルファ様が様子を見にきてくれるし、恵まれた環境なのは間違いない。それでも疲れるものは疲れる。


 沈み込むベッドのうえで、はしたなくもぞもぞと動き、どうにか仰向けになると、そのまま天井を仰ぐ。


「あと三日かぁ」


 そう口にしてみて、思わず頬が緩んでしまう。


 先日、フレイン様がやってきて言ったのだ、『ロアが気を使ってまとまった休みを手配してくれた。遠乗りに行かないか?』と。


 目的地は、私の故郷。


 フレイン様は、私の家族や勤め先であった牧場にわざわざ挨拶に行ってくださると仰ってくれた。


 私が貴族の養女となったことは、すでに書面で知らせているし、手紙でもやり取りはしてある。


 セシリア様のお言葉添えもあり、家族はとても喜んでくれていた。それにマゼット様も、いつかは家族を王都に招いてくれると。だから、わざわざフレイン様が足を運ぶ必要などないのに。


「……かっこいいぁ」


 ほんと、私のどこに惚れてくれたのだろう? いや、馬が大きな理由なのは知っているんだけど。


 フレイン様と遠出も嬉しいのだけど、それが『遠乗り』であることが、私の心を浮き立たせる。


 マゼット様にもこの生活にも、なんの不満もないけれど、しばらく満足に馬に乗れていない。これは私にとってはとても辛い。


 でもあと三日待てば、思う存分野を駆けることができる。それも、私の……その……婚約者と。控えめに言って最高ではなかろうか。


 前日は出発準備に時間を割いて良いとも言われているし、思う存分馬を愛でよう。


 来るべき日をあれこれと妄想していたら、そのままうとうとしてしまった。


 そうしてお夕食の時間になって慌てて飛び起きた私は、ボサボサの髪のまま食事用のお部屋に飛び込み、マゼット様に苦笑されることになる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「本当にこの中から選んで良いのですか!?」


 出発日の前日にフレイン様が連れてきてくださったのは、第10騎士団の厩。そこにずらりと並ぶのは、つい昨日持ち込まれたばかりの新馬たち。


「本当はハウワース牧場の馬が良いのだろうが……」


「とんでもないです!」


 私が王都に持ち込んだ()たちは、みんな無事に引き取り手が決まり、今頃新しいご主人様のもとで頑張ってくれている。


 ハウワースは距離があるので、気楽に新馬を持ち込めない。他の馬商人の手前もあるし。


 それに、ハウワース以外の馬たちにも、大いに興味を惹かれるところだ。トモの肉付きはどうだろう? 性格は? やっぱり教え方で乗り心地も違うのだろうか。


 あれこれ考えながら一頭一頭堪能していると、後ろから忍び笑いが聞こえた。


 振り向けばそこにいるのはもちろんフレイン様。おかしな動きをしていたのだろうか? 恥ずかしい……。


「す、すみません! 何か変でしたか!?」


「ああ、いや。悪かった。馬鹿にしたわけではないのだ。本当に楽しそうに馬を見るなと思っていたら、俺もロアたちからこんなふうに見られているのかと考えてしまった」


 呆れられていないのならよかった。ほっと胸を撫で下ろす。


「トゥリアナ、よかったら、どんなところに注目しているのか、言葉にしてくれないか?」


「え? でも、今度こそひかれるかも……」


 (ボロ)の様子なんかも気にしてたし。


「構わん。新しい視点もあるかも知れんし……それに」


「それに?」


「せっかく一緒にいるのだ。話しながら選んだ方が、俺も楽しい」


 私の顔がみるみる真っ赤になるのが自分でも分かった。


「……その、私もその方が楽しいです……」


「そうか。ならば良かった。で、どんなところを見ていたのだ?」


「えっとですね……」


 私の説明に、うんうんと頷きながら聞き入ってくれるフレイン様。


 藁と、馬の匂いが漂う、少し薄暗い厩の中だけど、私たちは二人だけの甘やかなひと時を過ごしたのだった。



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― 新着の感想 ―
今期?は甘々か〜と思ったら、そうなんですね笑 あま〜い!
この二人の子供、馬小屋で産まれていろいろ歴史を変えそう……。世界宗教を興したり、グリードル皇族の姫君に婿入りして厩戸皇子と呼ばれたり……。
このお話の中の数あるカップルの中でも飛び切り幸せなのではないでしょうか? お二人のやり取りをもっと聞いていたいです。
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