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【やり直し軍師SS-595】遠乗り(2)


 昨日私が選んだ一頭は、栗毛の牝馬だった。


 一般的な馬体からすれば、やや小柄な部類に入ると思う。実際、フレイン様の愛馬と並ぶとその差がはっきりと分かるほど。


 でも、この子を見た瞬間にピンときた。「きっと速い」と。なんというか、全体のバランスがいいのだ。身体のしなやかさが伝わってくるような。


 それまでにもフレイン様とおしゃべりしながら何頭も見たけれど、この馬を見た瞬間に、即座に決めた。


『では、この馬は俺が引き取って、トゥリアナに贈ろう』


 そんなフレイン様の好意をありがたく受け取り、翌日を迎えたのだ。


「フレイン様もおられることですし、移動はあまり心配しておりませんが……。トゥリアナ」


「はい。お義母様」


「せっかくフレイン様がエスコートしてくださるのです。余計なお節介だとは思いますが、あまり馬のことばかり夢中になりすぎないように」


「……はぁい」


 実は昨日も、一向に帰ってこない私を心配したマゼット様が、使いの方をよこしてくれたばかりだ。


 フレイン様も一緒だったので何も言われなかったけれど、マゼット様の不安も理解できる。


 というかむしろ、その点は私が一番懸念している。


 馬は共通の趣味とはいえ、いくら私でも、できればフィアンセの前ではそれなりによく見られたい。


「それではフレイン様、義娘をよろしくお願いいたします」


「もちろんだ。必ず無事に返すと約束しよう」


「トゥリアナちゃん! 楽しんできてね!」


 フレイン様とマゼット様のやり取りが終わるのを待って、私たちに声をかけてくれたのはルファ様だ。


「フレインも、たまの休みなんだから、仕事のことは忘れてゆっくりしてきてよ」


 そんな言葉を投げかけるのは、宰相のロア様。お二人はわざわざ私たちの見送りに来てくれたのである。


「ああ。そうさせてもらう。……だが、街道に設置した伝馬箱の状況を視察するには、ちょうどいい機会かも……」


「フーレーイーン! そんなことばっかり言っていると、トゥリアナちゃんに愛想をつかされちゃうよ!」


 すぐにルファ様から指摘が入り、互いの顔を見て笑う三人。


 フレイン様とこの方達は、もう長い付き合いだと聞いている。単なる同胞というよりも、どこか家族のような気やすさがあった。


 冷静に考えれば、第10騎士団長と英雄宰相様と王太子妃が昔からの顔馴染みというのはすごいことだ。しかもいずれも最初から偉かったわけではなく、それぞれが実績を積み重ねてこの立場におられるのだから、信じられない。


 私がそんなことを考えながら三人の会話を眺めていたら、ルファ様がこちらを向いた。


「牧場でフレインに放って置かれたら、私に言ってね! あとで怒るから!」


「お気遣い、ありがとうございます」


 でも不安なのは私の方ですとは流石に言えない。


「そろそろ行こう、トゥリアナ。このままではうるさくて敵わん」


 そう苦笑するフレイン様に誘われて、私たちは王都を出発したのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 フレイン様に贈っていただいた馬は、シルフと名付けた。私たちは整備された街道を使用せず、あえて草原の中を進んでゆく。


 私を背に乗せ、シルフが加速を始める。躍動が鞍から私に伝わってきて、徐々に顔にあたる風が強くなってゆく。


 速度に乗ったシルフは、まるで飛ぶように草原を駆ける。馬に身を任せて疾駆するこのひとときは、やはり何者にも変え難い瞬間だ。


 そして私の横には、フレイン様の姿。速度を合わせ並走しながら、私に微笑みかけてくれる。


 好きだな。


 不意にそんな気持ちが湧き上がってきた。


「トゥリアナの選んだシルフ、良い走りをする!」


 速度を維持しながら、フレイン様がそのように評する。


「はい!」


 私は自分が褒められたみたいな気持ちになって返事を返す。


「連れてゆきたいところがあるのだ! ここからは俺が前に出る!」


「分かりました! お任せいたします!!」


 いうなりさらに加速するフレイン様。


 私はシルフの首をそっと優しく撫でると、その背中を追いかけた。



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― 新着の感想 ―
草原を駆けていくのは気持ちよさそうだけど、スピード出したら危ないですよ。特にシルフは経験が少なさそうだし。 地面が見えてるなら大丈夫かもしれないけど、モグラの穴にでもハマったら転倒します。馬バカはそん…
シルフの好物は砂糖かしら。ほら、競走馬も好きって聞くし。
シルフ「口の中が砂糖だらけに……」
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