【やり直し軍師SS-592】お買い物(中)
一軒目のお店は雑貨関係を取り揃えた店舗。二軒目も同じような感じだった。そして三軒目も。そこで僕は気づく。
これはノースヴェル様が意図的に、取り扱い商品で店舗を分けているな。
理由は多分、値段だろう。南の大陸の品物ならともかく、東方諸島の物品は値付けの正しさが掴みにくい。
北の大陸の人間からすると、東方諸島の物はぼんやりと高級品の印象があるため、余計に判断が難しいのだ。
ノースヴェル様は不適切な価格をつけるような店舗が出ないよう、気軽に商品比較しやすいようにしているのだ。
大金を投じて開発した地域、『あそこの市場はぼったくる』などと噂が立ってはたまらないから。
実にノースヴェル様らしい配慮だなぁ。
「あ、これ、フレインとリュゼルにどうかしら? 何か、馬の絵が描いてあるから」
「本当だ。これ、なんだろう? 石鹸?」
僕らが話していると店主が声をかけてきた。
「そちらの商品ですか? それは馬専用の石鹸です。こう、端の方をナイフで削って、細かくしてからぬるま湯で溶かして使うんです。毛並みが艶々になると東方諸島でも好評ですよ」
本当に艶々になるかどうかは本人たちに試してもらうとして、確かにこれなら二人の贈り物にちょうど良さそうだ。
「ちなみにこれ、幾つもあるんですか?」
「いいえ。ここにある6つだけです」
「じゃあこれ全部ください。3つずつ分けて包装できます?」
「ええ。もちろん」
早速二人への贈り物を確保して、ほかのお店も覗いてゆく。色々物色している中で、良さげなものがいくつか見つかった。
まずはルファには桃色珊瑚の髪飾り。これはラピリアのチョイス。綺麗な蒼い髪によく映えそう。
ネルフィアには、疲労回復効果があるらしいお香だ。少し試してみたけれど、なんだか眠くなるような香りだった。万年寝不足なネルフィアには是非使ってもらいたい。
次に見つけたのはサザビーの分。
実は、サザビーが一番決まらないのではないかと思っていた。なんでも気軽に興味を示すわりに、これという趣味も見当たらないタイプだから。
しいてあげればお酒だけど、せっかく東方諸島の品物を贈るなら、もう少し変わったものがいい。
で、たまたま目についたのは瑪瑙。元はブローチ用らしいのだけど、少し加工すれば、ループタイの留め具にできそうだ。
どうしてこれを選んだのかと言えば、その不思議な色味が、なんとなくネルフィアの目の色に似ていたから。
ディックにはこの辺ではあまり見ない雨具。東方諸島ではポンチョと呼ぶそう。
サイズが大きくてちょうど良かったのと、いまだに実家の薪割りなんかを手伝っているので、作業用にどうかなと思って。
ユイメイは東方諸島のナイフにした。刃が波打っている少し面白い形のやつ。二人にはアクセサリーなんか贈っても、絶対に無くすから。
ウィックハルトには手袋。つけていても弓が引けるやつ。ワルロウという獣の皮を鞣している。保温性と防水性に優れているというので、これにした。
ついでにリヴォーテに何か買っていってやろう。リヴォーテは……携帯用の食器でいいか。
これなんかどうだろう。二本の棒。諸島の一部地域で使われている『箸』とかいう食器。この棒をうまく使って物を食べるんだとか。こんな棒で、どうやって?
他にも第10騎士団の部隊長達や、トランザの宿のスールちゃん、それにデリクやヨルド、レニー達や、忘れちゃいけないゼランド王子など、ともかくたくさんの人の贈り物を、ああでもない、こうでもないと言いながら買い求めた。
気がつけばもう、荷物の山だ。
最後に立ち寄ったお店で、荷物の半分を預かってもらい、一旦ノースヴェル様の屋敷へ向かう。
先触れも何もなしにやってきたけれど、ノースヴェル様はいた。まあ、遠方への出航予定がないことだけは確認してからきているので、いる可能性は高いと思っていた。
「お、久しぶりだな! ……なんだその荷物? 夜逃げでもするのか?」
呆れるノースヴェル様に事情を説明すると、快く協力を了解してくれる。
「なるほどな。分かった、人の手配は任せておけ。今日は泊まっていくんだろ? 部屋を用意するから、そこで寝ろや」
「ありがとうございます。あ、これはノースヴェル様に」
僕が差し出したのは、品の良い羽ペン。案外、書類仕事の多いノースヴェル様だから、消耗品は幾らあってもいい。
「お、なんだ。俺にもか。悪いな。……ああ、悪くないセンスだ。ありがたくもらっておこう」
「それと、あと半分の荷物をお店に預けてあるんで、もう一度行って取ってきますね」
「あ、私もいくわ」
「一人でも大丈夫だから、ラピリアは一休みしてて。ずっと歩きっぱなしだったし」
そんな僕らの会話に、ノースヴェル様が口を挟む。
「待て待て、流石に一人は不用心だ、うちのやつをつけるから、そいつらと行ってこい」
ノースヴェル様の気遣いをありがたく受け取って、僕は屈強な海の男達と共に、もう一度市場に向かったのである。




