【やり直し軍師SS-589】遠路訓練(19)
モルスの街に帰還した私たちは、そのままゼクシアの押さえていた宿へ向かう。
街の入り口をくぐった段階で、すでに空には星が瞬いていた。
宿はゼクシアとその関係者の貸切となっているため、私たちが宿泊する予定の建物とは別であり、他の生徒の目につく心配はなかった。
学園側の生徒の離脱に関しては、馬車の故障ということになるらしい。
私たちは基本、馬車の中で寝泊まりする予定だった。なのでスペース的に、他の馬車に振り分けるわけにもいかない。という建前で、ひと足さきに王都へ戻るという説明である。
ちなみにゼクシアの方はもっと単純。『急きょ発生した王家の政務』だ。この説明に疑問を呈する相手はいない。
ちなみにオーリン達は帰還の道中の補佐という理由になるらしい。こちらもゼクシアと日頃仲の良い面々なので、多少強引でも通るようだ。
「さてでは、状況のすり合わせをいたしましょうか」
宿の一室に集まった私たちを見渡して、ネルフィアさんが音頭をとる。
ゼクシア達の状況は、概ね私が想像した通りの感じだった。対して私の方で何があったのかを説明すると、みんなに呆れられる。
私が説明を終えた後に、代表して苦言を呈したのはゼクシア。
「……まあ、あれだ。元々は私の不用意な行動が原因とはいえ……いくらなんでも無茶がすぎるぞ。実戦経験もないのに……知らなかったとはいえ、ジュノスが警戒するほどの相手と対峙するなんて」
「……うん、反省はしている。でも、あの時は他に手段がなかったから」
そう。反省はしているが後悔はしていない。他の三人に危害が及ばないようにするため、私には他に思いつかなかった。
「いや、言いたいことはわかるが、流石にロア殿やラピリア殿になぁ……」
なおも続けようとするゼクシアに、
「まあまあ、殿下、そこまでで」
と止めたのはサザビーさん。その口元には笑みが溢れている。サザビーさんだけではない。ユイメイの二人も、そしてネルフィアさんさえも少し笑っていた。
「いや、しかしな……。というか、今の話、そんなに面白かったか?」
「いやぁ、まあ、なんというか、血は争えないものだなぁと」
ついに吹き出したサザビーさんとユイメイさん。
「お前はロアそっくりだな」
「気の強さがラピリアで、無謀なところはロアだ」
「……それって、褒め言葉じゃなくないですか? ただの危険人物ですよね?」
「危険人物……言い得て妙ですね。ロア様も最初は似たような扱いでしたから」
「ネルフィアさんまで!」
激動の時代の最前線で駆け抜けてきた人たちに、危険人物と言われるパパ。
いや、私もか。
ひとしきり笑いが収まると、ネルフィアさんが表情を改める。
「さて、それぞれの状況は把握しました。あとは今回の犯人達についてですね」
そう口にしたところで、コナーがおずおずと手を挙げる。
「えーっと、本当にこのまま俺たちも聞いてて大丈夫なんですか?」
コナーの心配もわかる。ここからはかなり踏み込んだ話になるかもしれない。
「問題ありません。というか、この状況下において中途半端な情報共有は好ましくありません。……もちろん、他言無用。という前提は守っていただきますが」
ネルフィアさんの視線が細くなり、僅かに圧を感じると、コナーが慌てて何度も頷く。
「も、もちろんです!」
「ご理解いただきありがとうございます。では、話を進めましょう。ロピアが会ったログガットという人物ですが、すでにご存知の通り、リフレアの残党となります。今回の調査によれば、どうやらデジェストの流れをくむ組織のようです」
「デジェスト? その名前に聞き覚えはないな」
「殿下がご存知ないのも仕方ないことです。デジェストは、フェマスの大戦にも参加したゴルベルの関係者ではありますが、一般的には知られた人物ではありません」
「ゴルベルの?」
「はい。ゴルベルの先王は、大規模な粛清を行い、信を失って失脚しました。その混乱の中でゴルベルを離れた有力武将に、ブートストという人物がいます。ブートストはリフレアに合流し、大戦に参加しました。そのブートストの腹心がデジェストです」
唐突に歴史的な大戦の因縁が現れ、部屋にどこか重たい空気が漂う。
「デジェストの足取りは長くわかっておりませんでしたが、どうやらリフレア復権を目指す地下組織の一つとして活動していたようです」
「しかし、どうしてリフレア復権にこだわるのだ? ゴルベルの関係者が」
「そこは予想の範囲を出ませんが、デジェスト自身はリフレアの復権よりも、ルデクへの敵愾心で動いていたのかもしれません。それよりも問題なのは……」
「なんだ?」
「当のデジェストが、既に死んでいる可能性が高い、ということです」




