【やり直し軍師SS-588】遠路訓練(18)
私がユイメイさんに遊ばれていると、一足遅れてゼクシア達もこちらにやってきた。
私が血まみれなのを見て、一瞬ギョッとしたものの、表情から返り血と判断したのだろう。すぐに表情を切り替える。
「無事だったか?」
「まあね。そっちは?」
「見ての通りだ。全員怪我もない。……その、すまん。ここにいる者たちにお前のことを話した。協力してもらうのに必要であったのだ」
申し訳なさそうなゼクシアの背後にいたのは、ゼクシアと良く一緒にいる面々だ。顔に見覚えがあった。
「気にしないで。これは私のミスだから。ゼクシアに何かあったら、ルファ様に申し訳が立たないところだった。ごめん」
「いや、気づかれたのは私の軽率な行動だった。……ところで、そちらのご令嬢は?」
ゼクシアの視線が私の後ろにいたアンナに注がれる。
「私の友達のアンナ。この娘にだけ秘密を話したの」
「そうか。アンナさんだな。私はゼクシアという。初めまして」
「は、は、はじめめして! おお会いできて光栄でしゅ!」
王子を前にしてガッチガチのアンナに苦笑していると、私のほうも声をかけられた。
「ロピア=シュタイン様ですね。私、オーリン=コスワーズと申します。まさか、あの英雄宰相様の御息女が、身分を隠されて学園に通われていたとは……」
「コスワーズ家のことは知っているわ。こちらこそよろしくね。でも、そこまで畏まってもらう必要はないよ。私も一応、学院にも所属しているから。学院の方針は貴賤身分を問わず、平等に、でしょ?」
「お、いいこと言うね。それじゃあ遠慮なく、俺はコナー。貴族でもなんでもないから!」
「よろしく、コナー。今回は助けてくれてありがとう」
「いやいや、気にするなよ! 実際に身代わりになったのはセルジュだし!」
コナーに指差されたセルジュだけは、衣装の右半分を泥で汚していた。ゼクシアやレゼット、ラゼットを含めて、全員が似たような格好をしていることから、どんな手を使ったのは概ね想像できる。
「……なるほど。セルジュだけちゃんと丈を合わせて、ゼクシアと誤認させたのか。よく見ればゼクシアの衣装も丈が若干足りてない。それも、よく見なければ判別できない程度に、ほんの僅かに。わざとね。うん。これなら相手は急拵えな偽装策と判断する。面白いことを考えた人がいるね。そして実際にセルジュが狙われても、狙われることがわかっていれば対応も早い。君を矢から守るために、馬から突き落とされたの? 怪我はなかった?」
私が感心していると、三人はポカンと口を開けたまま。
そんな様子を眺めていたゼクシアが「くくく」と笑った。
「ほら、言ったとおりだろう」
「ちょっと、なんか余計なこと言ったんじゃないでしょうね?」
「いや、余計なことは言っていない。あの宰相殿の娘だと説明しただけだ」
……いつもの城壁の上なら軽く蹴っ飛ばしているところだけど、流石にここではまずいか。
私がぐぬぬとなっていると、ネルフィアさんがぱんぱんと手を叩く。
「楽しくお話しするのは後にしましょう。まずは脱出します。一旦街に戻り、話はそれからですね。あ、サザビー、一つ頼まれてください」
「なんです?」
さっきまでいなかったはずのサザビーさんが、さも当然のように現れて、私の頭に手を乗せる。
「ロピアちゃん、無事でよかった」
「それも後です。サザビー、街へ行ってリュゼルに伝えてください。ゼクシア殿下をはじめ、ここにいる生徒たちの演習は中止。あとは上手いこと誤魔化してください、と」
「了解です。ではお先に失礼します」
「それで、他の人質はどうなっていますか?」
「今は気絶しているので、そのままにして、第三騎士団の方に見張りをしてもらっています」
私の答えに軽く頷いたネルフィアさんは、すぐに指示を出す。
「ではそちらはジュノスに任せましょう。第三騎士団の面々と、馬車を連れて直接王都へ向かい、お二人のケアを。……ちなみにその二人はどこまで知っていますか?」
「多分、誘拐されたこと以外は何も」
「それは都合がいいですね。聞いたとおりです。ジュノス、お二人にはしっかりと“ご説明”を」
「了解した。じゃあこちらも早々に出る。馬車がいる分、時間がかかるからな。それでは殿下、また後ほど」
「ああ。ジュノスにも感謝する。助かった」
「もったいないお言葉にて。……ロピアもじゃあな。もう誘拐されんなよ」
「うっさいわね!」
余計なひと言を残して去っていたジュノスを見送ると、私たちも街に戻る準備を始めたのである。




