【やり直し軍師SS-587】遠路訓練(17)
ジュノスは一度、私に視線を向け、それからログガットの逃げた方向を睨み、小さくため息を吐いた。追跡を諦めたのだ。
実際問題、私はともかく他の三人を放置して追跡戦を始められても困る。しかも相手はジュノスが警戒するほどの相手だ。簡単には捕まりはしない。
「……ともかく、味方を探すか」
気を取り直して周囲をうかがえば、すぐにルデクの兵装が目に入った。ジュノスに敬礼をしたので第三騎士団の関係者のようだ。
「部屋に人質となっていたご婦人が倒れている。気絶しているだけだが、回復するまでしばらく見張りをしていてくれ」
「はっ」
「俺は一旦殿下の方に向かう。……ロピア、お前はどうする?」
「私も行く。そのほうが話が早いと思う」
「そうだな。じゃあ急ぐぞ」
「あ、ちょっと待って! もう一人連れて行っていい?」
「気絶していなかった娘か? だが……」
ジュノスも私の事情くらいは知っているらしい。
「さっき私のことを話したの。色々あって隠しきれなくて。だから、早めにネルフィアさんに引き合わせておいた方がいいかなって」
アンナは口外しないと約束してくれたし、私もそれを信じているけれど、第八には早めに知らせておいた方がいい。何かあった時、困るのはアンナなのだから。
ジュノスに少し待ってもらい、アンナを連れてくる。アンナは不安そう……かと思えば、瞳を輝かせてジュノスに夢中だ。
「あの、第三騎士団長のジュノス様ですよね?」
「ん? ああ。そうだが」
「私、アンナと言います! ジュノス様にお会いできて光栄です!」
「お、おお。それはどうも」
あまり見たことのないアンナのはしゃぎように、私はその袖を引っ張る。
「ねえ、なんでこいつのこと知っているのよ?」
「一年前の騎士揃えで見たの。そもそもルデク七将軍のジュノス様だもの。有名じゃない」
「まあ、有名っちゃあ、有名だけど……」
こいつ(ジュノス)、確かにそんな肩書きも持っている。生意気である。
「それよりも早く行くぞ。指揮官が逃げたなら、脅威は去ったと見るべきだが、のんびりしている時間はない」
「そうね。じゃあ行きましょ」
こうして私たちは三人揃って、広場の方に向かったのである。
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広場に向かう道中で、私はどうしてジュノスがこの場にいるのかを聞く。
「幻のフルレの話が関係してるの!?」
「知っているなら話が早い。あの騒動の時、サザビーやユイメイの姉さんが、三人の賊を取り逃がしたことは?」
「知ってる」
「直接的でないにしろ、あの三人がいて逃げおおせるのは相当な相手だ。それが王都で悪意を持って彷徨いていた。宰相はそれを問題視して、行方を追っていた。そうして北ルデクに入ったという情報を掴んで、ユイメイの姉さん方を寄越した」
「あー。そういうこと。それで第三騎士団が動いたのね」
だからユイさんメイさんと任務についていたのか。
「……そのフルレの時の犯人が、今回のやつらってことよね?」
「まあ、端的に言えば、そうなる。ロピアも気付いた通り、リフレアの残党だ。元々あいつらは散発的な存在だったんだが、ここにきて少しきな臭くなってきた」
「……まさか、勢力としてまとまり始めた?」
「流石は宰相の娘だ。まあ今は、その気配がある、という感じだな。今回の件で北ルデクの拠点の一つを潰したら、それらしい情報を得た。元々、姉さん達はその後殿下の方に合流する予定だったんだが、問題の奴らがまた南に移ったと聞いて、念の為第三騎士団も同行したってわけだ」
「なるほど、理解したわ。それと、ありがとうございました。助けてくれて」
「お? なんだなんだ? お前が俺に礼を言うのは珍しいな? まあ、感謝しろ。崇めろ」
「あー……感謝して損した気分」
「はっ。おい、それより見えてきたぞ。あの感じだと、殿下も無事なようだ」
ジュノスに促されて広場に視線をやれば、人だかりが目に入った。確かにどことなく雰囲気が穏やかだ。一通り決着がついたのだろう。
もう少し近づくと、最初にユイさんとメイさんが私たちに気づき、瞬く間にこちらへ駆け寄ってくると、二人揃って私の頭をわしゃわしゃする。
「おーう、何してんだロピア」
「やらかしてんじゃねえぞ」
「ごめん。ちょっと失敗しちゃった」
「気にすんな。怪我はないんだな」
「あったらジュノスをぶっ飛す」
「なんでだよ!?」
相変わらずのユイメイさんに、私はようやく、肩の力が抜けた気がした。




