【やり直し軍師SS-585】遠路訓練(15)
入り口付近で対峙するロピアと見張り。見張りはロピアの武器である椅子の足を見て笑いながら、己の武器をこちらへ向ける。
それはごく一般的な剣だけど、戦力差は圧倒的だ。なおかつ、体格でもこちらが不利。
早くも仕掛けはネタ切れで、味方の三人はとても戦力にはならない。
「ほれ、どうした?」
こちらの余裕のなさを感じ取ったのか、見張りはもう、勝ち誇った顔。
悔しい。
せめて、と、武器を構えた私に向けて、ゆっくりと切先が向けられる。なんだかおでこがチクチクするような気分だ。
「もう一度聞く。今の音はなんだ? 何をしている。これ以上はぐらかすようなら……」
剣の向きが私から動き、アンナの方向で止まった。
「ひっ」
ロピアの背後でアンナの半泣きの声が聞こえ、その瞬間、私の中に急な恐怖が込み上げてきた。
私の失敗で、友達が死ぬ。
……怖い。
……怖い。
でも!
私はロピア=シュタインだ! 大軍師ロアと戦姫ラピリアの娘だ!
友達の危険を前に、萎縮するなんてしない! 絶対みんな助ける!
「待って! 話すから!」
私の声に反応した切先が、再びこちらに向けられる。すぐに打開策を考えないと。いっそ武器を投げて怯ませて、体術で戦いを挑む?
違う違う。それはただの無謀。追い詰められた時こそ、冷静に、相手の隙を窺うんだ。
「早く話せ」
「……音はこの部屋からじゃないわ。外から聞こえた。ねえ、みんな、そうよね?」
私が振り向けば三人は身を寄せるようにしながら、何度も首を縦にふる。
「適当なことを言うな」
「本当よ。見てよこの部屋、隙間だらけ。音の伝わりはほとんど外と変わらない。もうちょっとマシな屋敷はないの?」
「口のへらないやつだな。いや、それよりも嘘じゃないだろうな?」
「むしろ、あなたの仲間が鳴らした音じゃないの?」
「そんな話は聞いてない。そもそも、あんな間抜けな音、合図にもならん」
「は? 間抜けな音?」
「ん?」
「なんでもないわ。でもそれなら……ゼクシア王子様の護衛かもね」
「……だとしたら、お前らの出番ってわけだ」
脅しの言葉を吐いてくるけれど、先ほどよりも明らかに視線に落ち着きがない。
「そうかもしれないけど、その前に背中とか気をつけたほうがいいんじゃない? もう、背後まで来てるかも」
私の言葉に思わず後ろを振り向いた見張り。
ここだ!
私はグッと踏み込んで、木の棒を振り上げた。狙いは敵の右手。一撃で武器を叩き落とす!
真っ直ぐに振り下ろした棒が、狙い通り右手に直撃すると思った直前、
「あめえよ!」
私は強い衝撃を受けて、後方に吹き飛ぶ。右頬がジンジンして、口の中に鉄の味が広がった。
「……子供騙しが。あー、もう。めんどくせえ! 足の腱でも切っとくか?」
一歩。また一歩と近づいてくる見張り。
私はまだ立ち上がれてもいない。
パパ、ママ、ごめん! 失敗した!
私は思わずギュッと目を瞑る。
直後、「キャー!!」と誰がが悲鳴をあげて、私の頬や手のひらに生暖かいものが触れる。
斬られた! ……でも、痛みはない。興奮状態だと痛みを感じないって誰かが言っていたけれど、これがそうなのかな?
私はゆっくりと目開き、その手のひらを見れば、真っ赤になっていた。
ほんの一瞬、気が遠くなる。それでもなんとかこらえた。とにかく怪我の状態を確認しなくては。
そんな私の頭上にかかる影。
鼓動が早くなる。まだ、斬りつけてくるのか?
でも、私が狙われている間は、三人には危害がいかない。なら、ここで怯えている場合じゃないんだ。
勇気を振り絞って顔を上げれば、
こちらを覗き込んでいるのは見張りではなかった。
私は無意識に口を尖らせる。
「なんであんたが?」
「助けてやったのに、ご挨拶だな」
ふんと鼻を鳴らしながら私を見下ろしていたのは、私の天敵、ジュノスだったのである。




