【やり直し軍師SS-583】遠路訓練(13)
偽物を含めた六人を観察すると、見る限り衣装のサイズがちゃんと合っているのは一人だけ。
近しい体格の者も、よくよく見ればわずかに丈が足りなかったり、やや長かったりしている。
大国の王子の衣服だ、サイズの合わないものを着はすまい。
ならば、あいつがゼクシア本人か?
ログガットは右手を動かそうとして、かろうじて押し留める。
ログガットが指差せば、目標めがけて一斉に矢と刺客が襲いかかる手筈にはなっているが、まだ、それが王子だと確信が持てない。
確かに時間はない。だか、焦るな。確実に見極めるのだ。ログガットは己に言い聞かせ、もう一度目の前の六人を見渡す。
まず確認するまでもないのが二人。なぜならば性別が違う。隠していても流石にわかる。女が混じっている。
それともう一人。ゼクシアよりも明らかに小柄な人物。こちらは着ている衣類からでも判別できる。あきらかにダボダボだ。
つまり、微妙に丈の合っていない人物を含め、残るは三人。
三人はある程度背格好が似通っている。ログガットとて、ゼクシアを日常的に間近で見ているわけではない。これ以上体格で判ずるのは難しい。
顔を確認するのが最も確実だが、そう簡単に晒すまい。ならば、声か。
「……ゼクシア王子はどちらにおいでかな?」
ログガットの問いかけに一歩前に出たのは、背格好のあっていない奴。
「まずは人質の安全を確認したい。連れてきてもらおう!」
やや震えた声でこちらに虚勢を張った。
その間もログガットは広く視野を保つ。今のところ動きはない。
「……ご安心いただこう。人質は無事だ。それよりもまずは、王子にご挨拶差し上げたい」
「人質の安全が先だ!」
なんとか交渉しようとするその声を無視。ログガットは沈黙と共に、ただ、六人の動きを見る。
偽物の声に驚いたか、それともただならぬ気配を感じ取ったか、葉ずれの音と共に、森のほうで鳥が飛び立った。
直後、ほんのわずかに二名が動く。特定の一人と距離を詰めたのだ。
まるで本能的に、護るべき相手に寄り添うように。
あれか?
ログガットが目標を定めたその時――――
「ぷぺ〜」
集落の奥から、なんとも間抜けな音が耳に届いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロピアはアンナから借り受けた横笛を握りしめて、タイミングを測っていた。
この場にそぐわぬ横笛の音が響けば、私たちの居場所を知らせる格好の合図になる。
幸い建物はオンボロで、すき間だらけ。音は外に届く。
けれど、味方に届かなくちゃ意味がない。
チャンスは一度だけだ。音が鳴れば敵も意図に気づく。すぐに横笛は取り上げられるだろう。
問題はネルフィアさんやサザビーさんがどの辺りにいるか。音が届き、助けに来れる場所にいるかどうかだ。
恐らくだけどここまでの流れからして、二人は多分ゼクシアのそばにいない。どこか離れた場所から機会を窺っているはず。
ゼクシアを守りつつ、私たちが捕らえられている場所を探そうとするだろう。
ならきっと、あの二人のどちらかは集落内を探っている。音の届く範囲までやってくるのに、どのくらいかかるかを考えないと。
多分、そんなに時間はかからないはず。モタモタしていてはゼクシアの身が危ない。そしてそれは、きっとログガットもそれを理解している。
ゼクシアはネルフィアさん達が到着するまでの時間を稼ぎたい。ログガットはその逆。短時間でゼクシアを殺して逃げたい。なら、決着までに時間はかからない。
そしてゼクシアの行動は、私たちの安全確保のための時間稼ぎ。つまり、最速で私たちの身柄を確保できるかは、両者にとって大きな意味をなす。
なら、ゼクシアが森に入る前に、ネルフィアさんたちは森に潜み、私たちを探している可能性は高いと見るべき。そうなれば、すでに笛を吹くタイミングは訪れているかもしれない。
どうしよう。
いや、待って。
今、部屋の外にいる見張りは何人だろう?
一人か、二人。
そうだ。人数は多くない。なぜなら、ログガット達の目的がゼクシアの命なら、私たちはあくまでおまけなのだから。
この千載一遇のチャンスに、ゼクシアのほうに人を割かないはずがない。
それなら、この音に気づいて中を窺ってきた見張りを倒せば、逃げることができるかも。
状況がわからない以上、賭けるしかないか。
「……ねえ、アンナ」
「何? アヴリ? ……アヴリと呼んでいいのよね?」
さっきはアンナを随分と驚かせてしまった。まさか、私がロア=シュタインの娘だとは思ってもみなかっただろう。
「アヴリで構わない。ともかく、寝ている二人を起こしてくれる?」
「わかった。……それで、どうするの?」
「敵を倒すの」
「誰が?」
「そりゃあ、もちろん。私たちが」
それからアンナは眠っていた二人を揺り起こし、どうにか頭を覚醒させる。私はその間に部屋にあったものをかき集めて、仕掛けを作った。
と言ってもそんなに大したものはできない。仕掛けたのは入り口へのトラップ。どうにか見つけた紐で、重たい椅子を天井にくくりつけた。
扉が開けば、椅子が落ちる。運が良ければ見張りはそのまま気絶。ダメでも壊れた椅子の脚という急ごしらえの武器で、一斉に叩きつける。
もしも見張りが二人いたら、その時はその時だ。これでも一応ネルフィアさんから護身術程度は習っている。一対一ならそれなりに戦える自信はあった。
ロピアが準備を進めている間に、眠っていた二人がようやく覚醒したようだ。
「……いったいどういう……」
スワンソン先生の言葉に、アンナがなるべく穏やかに話しかけ、説明をしてくれていた。
アンナもまだ動揺の中にいるだろうに、信用できる友達だ。
そうして準備が整うと、まだ若干状況を把握しきれていないスワンソン先生とミティアにも鈍器を持たせ、
「じゃあ、吹きます」
と宣言。
そうして深く深呼吸をして、思い切り横笛に息を吹き込めば、
「ぷぺ〜」
思ったよりも大きな音が、部屋の中に鳴り響いた。




