【やり直し軍師SS-582】遠路訓練(12)
館を出たログガットは、部下に状況を確認しながら大股で広場へと進んでいた。
「それで、ゼクシア達はどこいにる?」
「今はまだ森の入り口あたりです。森に踏み入れる前に一旦止まって、何やら話し合いをしているようでした」
「話し合い? 今更、怖気付いたか?」
アヴリという娘は随分と確信を持っていたが、そもそもゼクシアがやってくるかどうかは怪しいところだった。直前で躊躇するのはあり得る話だ。
森の手前にいるのが本当にゼクシア本人ならば、背中を見せて逃げるならばそれでもいい。ここまで誘い出せたのだ、やりようはいくらでもある。出向いてきただけでも僥倖。
襲撃の方法を想定しながらも、ログガットには一つの疑問が浮かび上がった。ゼクシアを動かしたあの娘は、何者なのかと。
もしも使い道がありそうならば、ゼクシアを殺した後、あの娘は連れて逃げてもいい。
頭は回るし度胸はあった。状況を客観的に判断し、ひとまず大人しくついてくる可能性は十分にある。
ともかくまずはゼクシアだ。アヴリが言っていた通り、この機会を逃せば二度と訪れぬような好機。
と、ログガットはぴたりと足を止める。
「どうされたのですか?」
後ろに続いていたアリエスタが怪訝な声をあげたが、ログガットはそのまま報告に来た部下を見て、改めて問う。
「ゼクシアが来たと聞いて、やや浮かれてしまったようだ。ゼクシアは一体何人で来た? そもそもゼクシアだと確かに確認したか? それと、例の手だれ達は同行していないのか?」
矢継ぎ早の質問に、部下は言葉に詰まる。
「その……すみません。全員が似たような格好にフードを被っており……いずれも王子の着ていた衣装に似ています」
「それでは王子と特定できていないのか……。人数は?」
「確認できたのは6名です。見た限りでは、年若そうに見えたので、おそらく学生ではないかと……」
ちゃんと確認しろ、とまでは言えない。しかしどのようにするべきか。
今この時、大きな決断を迫られてる気がする。
ゼクシアはこの場にきているのか、来ていないのか。もしも本当に来ている場合、森に入った所で一斉に矢をいかけて全員殺すのが一番手早い。
だが、向こうも素直にこちらの要望を飲んだわけではないだろう。どこか離れた場所に、本命の護衛がいるのは間違いない。
仮に、全員が偽物であった場合、そいつらを捨て駒にして、こちらがゼクシア本人か確認に手間取っている間に急襲される懸念も捨てきれない。
また、アヴリが本当にゼクシアを呼び出せるほどの人物ならば、アヴリの救出もしたいはず。
だからこそ護衛どもは遠巻きに様子を見ているのだろう。こちらに来るまでのタイムラグ、
その猶予はどれほどか。
得られたわずかな時間に、ゼクシア本人を確認し、確実に仕留める。それをするには、無差別攻撃ではなく、まずは駆け引きが必要になる。
結果、もしもゼクシアが来ていないのならば計画は破棄。アヴリを連れて逃げる。仕切り直しだ。
仮にゼクシアが来ていなくとも、アヴリが偽物を用意してでも救出したい人物であることは確認できたのだ。なんらかの役には立つだろう。
いずれにせよ、まずはゼクシアの存在を見極めることが優先事項。ゼクシアの顔を確実に判別できるのは、ログガット自身かアリエスタ、あとはディオウとなる。
ディオウはアヴリを連れて行ったので、今はこの場にいる我々二人のみ。まあ、ログガットが確認すれば問題はない。
ならば。
「広場までは手を出すな。ただし、退路は断ち、すぐに打ち取れるように準備を怠るな。狙う相手の指名とタイミングは俺が合図する。それからもしも偽物だった場合は速やかに撤退すると周知しておけ」
「はっ!」
先にかけてゆく部下を見ていると、アリエスタが口を開く。
「本当に来ていると思う?」
「……何とも言えん。そうだ、お前はディオウと合流して、こちらの退路の確保を頼む。どのみちゼクシアを殺した場合も逃げるからな」
「了解」
本来であれば得られなかった幸運を得たのだ、失敗は許されん。
気合いを入れ直し、再びログガットは歩き出す。
広場に到着してみれば、森の中の獣道をやってくる一団が確認できた。
ログガットは周囲を見て、潜んでいる者たちにも目配せ。
そしてついに、一団が姿を現した。
「……どういう趣向だ?」
ログガットが眉を顰める視線の先には、全員同じ服装をしてフードを被った者達の姿。せめてもの撹乱か? しかしそれにしては雑にすぎる。
明らかに女性も混じっているし、中には衣装の丈すらあっていないやつもいる。
……なるほど、一応替え玉策をとったものの、時間が足らず急遽衣装だけ揃えたのか。
「そこで止まれ!」
ログガットの命令に一団は馬を止めた。目を凝らして慎重に口元を確認すれば、確かにいずれも歳若く見える。生徒の可能性は高そうだ。
この中に本人が混じっているとすれば……。
ログガットは眼前に居並ぶ6人を慎重に見渡してゆく。
そして右手を握りしめた。
ロクガットの判断一つで、運命が決まるのだ。




