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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: ばおー
第一章 炎の王国
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第四十話 出会い

 ユシアはリザードパレスでの最初の夜明けをバルコニーで迎えた。

 父のアルフィノが亡くなった実感など、まるで湧いてこなかった。

 実際に自分の目で見て確かめていないこともあってか、これが夢なのか、現実なのか、区別がつかずにいた。

 ユシアは一睡もすることができず、手すりに寄りかかったまま、朝焼けの都市を眺めていた。

 朝食も食べる気にはなれず、食堂に行くのも億劫だった。

 アルフィノはユシアのことを息子とは認めず、ウォーロード家の恥だと常々言ってきたが、それでもユシアにとっては世界でただ一人の父親に変わりはなかった。

 グレンデルの森でアルフィノが〈灰人(はいじん)〉から守ってくれたことが、ユシアの脳裏から焼きついて離れなかった。

 なぜ、あれほどまでに蔑んでいた自分の命を救ってくれたのかーー結局、その真意を本人の口から聞く機会は失われてしまった。

 果たして、自分は父にとってなんだったのか、あの時は息子だから助けてくれたのかーーあらゆる想いがユシアの頭の中で駆け巡ったが、その答えを出すことはできなかった。


 「あんた、こんなところでなにしてんのよ?」


 ふと見ると、自分と同じ年齢くらいの赤い髪の少女が顔を覗きこんできた。

 青い瞳がユシアの顔をじっと捉えている。


 「だ、誰だ?」


 「わたし、エリーセ。あんたに頼みがあるんだけど」


 短髪(ショートヘア)の赤毛の少女は、長袖の高価そうな短衣(チュニック)にロングスカート、ブーツと言う服装をしていた。

 この城にいる以上、高貴な身分の者なのだろうが、ユシアはこの少女の横柄な態度が癪に障っていた。


 「おれは忙しいんだ。頼みなら誰か他の人に言ってくれ」


 ユシアはぶっきら棒な口調で少女を追い返そうとした。

 父の死のことで頭がいっぱいだったユシアには、他人に構っているような心の余裕はなかった。


 「忙しいですって?ただ外をバカみたいに眺めていただけじゃない。暇なんでしょ? わたしに付き合ってよ。それとも、食堂に行ってみんなと一緒に食事でもする? 〈赤銅(しゃくどう)(つるぎ)〉のユシア・ウォーロード君」


 エリーセは嫌みっぽくユシアの名前を呼んだ。

 〈赤銅の剣〉がリザードパレスを訪れたのは昨日だ。

 城にいる者ならば、その存在を認知していても不思議ではないーーそれにしても、とユシアは思う。

 いったい、いつから見てたんだーーと、言いたいのを彼は耐えた。

 正直なところ、今のユシアはとても食事をする気分にはなれなかったーーとは言え、このエリーセとか言う少女の頼みを断れば、食堂にいる仲間の下へ行き、自分の居場所を教えてしまうだろうとユシアは考えた。

 そうなれば、食事に顔を出さないユシアを心配して、仲間たちが事情を聞きにくるのは間違いなかった。

 それは避けなければいけなかったーー今、ユシアが仲間の顔を見たら、その優しさに甘えてしまいそうで怖かったのだ。


 「どうしておれの名前を知っているんだ」


 「そんなことどうだっていいじゃないーーで、どうするの?」


 半ば、強引な誘いだな、とユシアは思った。


 「わかった。それで、頼みってのは?」


 「街に行きたいの。付き合ってくれる?」


 エリーセは満面の笑みで返した。

 先程までの仏頂面とは違い、笑顔には品があり、とても綺麗な人だな、と言う印象をユシアは受けた。


 「そんなの一人で行けるだろ。おれがついて行く必要がないじゃないか」


 「あのね、護衛がいないと外出許可が出ないのよ。だから、ユシアが必要なの」


 美しかった笑顔は一転し、エリーセは仏頂面に戻ってしまった。


 「なるほど。それでおれに話しかけてきたのか」


 ユシアは護衛と言う言葉に少し気分がよくなった。

 なんとなく、一人の戦士として認められたーーそんな気分がしたからだ。


 「そのとおりよ。一人で暇そうにしてたから、話しかけやすかったのよ」


 言われてユシアは少し前の自分を殴りたくなった。

 だが、確かに事情を知らない者からすれば、先程のユシアはただ外を眺めている暇人にしか見えなくても無理はない。

 最初はエリーセを邪険にしていたユシアだったが、街に出れば少しは気分転換になるかもしれないと思い、依頼を承諾することにした。


 「じゃ、さっそく行くわよ。ユシア、ついてきなさい」


 ユシアは颯爽と歩くエリーセの後ろ姿を見ながら、退屈せずにすみそうだな、と心の中で呟いた。

 食堂を避けるように城を出て、中庭に向かうと、エリーセが城門の少し前でユシアを止めた。


 「ちょっと待ってて」


 不審に思ったユシアだったが、ここはエリーセの言うことを素直に聞くことにした。

 仮に逆らっても、彼女は自分の意思を曲げないだろうと思ったからだ。

 エリーセはなにやら門番の兵士と一言、二言会話をすると、ユシアを手招きした。

 なにを話していたのか気になったユシアだったが、聞いても教えてはもらえないだろうと思い、黙って彼女に従った。


 「ーーで、行き先は?」


 城門を出て、跳ね橋を渡ったところで、ユシアはエリーセに質問した。


 「ユシアはどこに行きたい?」


 街に行きたいと頼んだのは誰だよーーと、言いたいのをユシアは堪えた。


 「街に用があるんじゃないのか? だから、護衛が必要だったんだろ」


 「ユシア、この街ははじめてでしょ? わたしが案内してあげるーーとりあえず、魔法院に行くわよ」


 エリーセはユシアの言葉を無視して歩き出した。

 この少女にはなにを言っても無駄だとユシアは諦めた。

 だが、実のところ、ミナリスのような大都市がはじめてのユシアにとって、エリーセの申し出はありがたかった。

 なんと言っても、ユシアは城までの道程をまるで覚えていなかった。

 ミナリスは彼にとって、迷路のようで、どこを歩いているのか見当がつかなかった。

 朝だが人通りも多く、ユシアはエリーセとはぐれないように気をつけながら大都市を歩いた。


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