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赤銅の剣は無慈悲につらぬく  作者: 元英雄
第一章 炎の王国
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第四話 雀の砦

 数日間、荷馬車に揺られながらようやく、〈雀の砦〉の目前までやって来た。

 旅の途中では、デルフィが自分の生い立ちを語っていたため、ユシアは退屈せずに済んだ。

 彼女は貧民街の出身で、貴族相手に盗みを働いて生きてきた。

 ユシアと同様に、呪いを受けて生まれてきたものの、下流階級出身のデルフィは差別を受けることはあまりなかったと言う。

 ただし、中流階級以上の人々からは、侮蔑されることも少なくなかった。

 それでも今まで生きてこれたのは、仲間たちの存在が大きかった。

 だからこそ、ロレインが迎えに来た時は仲間たちと別れるのが辛かったとデルフィは話した。


 「貴族は差別が激しいんだ。わたしは下流階級だから、まわりとの仲間意識は強かったよ。仲間と一緒に、金目の物を持っている奴相手に盗みを働いて、一日一日を生きていくんだ」


 そう話すデルフィの赤い瞳は輝いていた。


 「ユシアは家が大きいから、差別は酷かったんじゃない? 辛くなかった?」


 「おれには妹のリセスがいたからな。父さんと母さんは厳しかったけど、リセスと話している時は楽しかったよ。でも、いつまでも妹に甘えているわけにはいかない。帝国が攻めて来ても、守ってあげられるようにならないといけないんだ」


 ユシアは力強く答えた。

 同じ年齢の子供とのはじめての会話は、ユシアにとって新鮮であったし、楽しかった。

 一方でルファはあまり会話に入ってくることはなく、自分の生い立ちを話すこともなかったため、ユシアたちも無理に聞くようなことはしなかった。

 もしかしたら、話したくない過去があるのかもしれないーーユシアはそう思ったので、そっとしておくことにした。


 「さぁ、三人とも。着いたよ。あれがわたしたち、〈赤銅しゃくどうつるぎ〉が集う場所ーー〈雀の砦〉だ」


 御者席のロレインが言うと、ユシアたちは土手の上に築かれた石造りの砦を見つめた。

 砦のまわりには堀があり、土塁の上には外敵の侵入を防ぐための城壁があった。

 門には吊り上げ橋が架けられていて、門番が二人立っていた。


 「ロレイン、その三人が新入りか?」


 話しかけてきた門番は若く、二人とも十代後半だった。

 服装はロレインと同様に、胴衣ダブレットにズボン、ブーツが黒で統一されている。


 「そうだ。ブラッドはいる?」


 「もちろん。部屋で待ってるぜ」


 荷馬車は吊り上げ橋を通過し、砦の中へと入って行く。

 中には兵舎や厩舎、見晴らしのいい尖塔などが建てられており、稽古場も設けられていた。

 ユシアは興味津々にあたりを見渡して、砦の様子を観察した。

 砦の中は人間が多く、少数ではあるがデルフィと同じ猫の獣人フェリスの姿もあった。

 性別は男女半々と言った割合で、全員がロレインと同じ格好をしていた。

 胴衣ダブレットを着ているため、腕にある翼の刻印は確認できなかったが、全員が赤い瞳をしていた。

 年齢は全体的に若く、十代から二十代がほとんどを占めていた。


 「三人とも、降りて。団長に挨拶しに行くから」


 ロレインに案内されて、ユシアたち三人は兵舎の三階にある団長の部屋に招かれた。

 部屋に入ると、ユシアたちの他に二人の少年が立っていた。

 一人は蒼色の長い髪の少年で、もう一人は金糸雀カナリア色の短髪の少年だった。


 「五人? 今年はこれで全員か?」


 ユシアたち五人を見据えるのは、筋肉質で、身長も二メートルほどある大男だった。

 灰黒色の髪を後ろに撫で上げていて、顎には無精髭が生えていた。

 大男の声色は明らかに落胆した様子だった。


 「五人いるだけいいでしょう。それとも、誰もいないほうがよろしかったですか? 団長」


 労いの一言もない大男に対して、ロレインは嫌みを言った。


 「ご苦労だった。下がれ、ロレイン」


 大男に言われると、ロレインは一礼してから部屋をあとにした。

 張りつめた空気が部屋の中を包む。


 「おれが〈赤銅の剣〉団長、ブラッドフォード・ブランドンだ。一人ずつ自己紹介をしてくれ。名前だけでいいぞ」


 ブランドンは低い声で、面倒くさそうに端にいた蒼色の長い髪の少年を指差した。


 「ぼ、ぼくの名前はレオナルド・エアハートです。よ、よろしく」


 赤い瞳を左右に動かしながら、自信のない様子でレオナルドは言った。


 「おれは、ランド・フォックスだ。帝国軍はおれが蹴散らしてやる」


 ランドは声を張り上げて、自信満々のようだった。


 「わたし、デルフィ・ベアトリクス。よろしくね」


 変わらない調子でデルフィが自己紹介をした。


 「......ルファ・アクアマリン」


 ルファも変わらずと言った感じだった。


 「ユシア・ウォーロードです。よろしくお願いします」


 「ウォーロード? ロナンのウォーロード家か?」


 ブランドンは、はじめて関心を示したようだった。

 ユシアのほうへゆっくりと歩み寄り、赤い瞳を覗きこんだ。


 「そうです。あの、なにか......?」


 「アルフィノの息子か。奴はプライドの固まりのような男だからな。自分の息子が呪いを持って生まれてきたなんて、とても耐えられなかっただろうな」


 ブランドンは口を手で押さえながら、笑いを噛み殺しているようだった。


 「父さんを知っているんですか?」


 「......まぁ、おれの話はどうでもいい。お前たち五人は今日から〈赤銅の剣〉だ。寝る時以外はすべて訓練だと思え。当然、我々には国を守る責務がある。普通ならば、恋愛し、結婚し、家庭を持つものだが、我々にその選択肢はない。戦って、戦って、戦い続けて、戦場で役目を終える。わかったな?」


 「はい」


 五人全員が声を揃えて返事をした。

 〈デュナミス〉を持つ者に人生の選択肢など存在しない。

 頭ではわかっていても、ユシアは怖かった。

 戦場なんかで死にたくない。家族と一緒に暮らしたい。

 そんな感情が溢れてきそうになるのを、ユシアは必死に我慢した。


 「これからお前たちは三年間、実戦に出るための訓練をする。十五になった時、準備ができてようがいまいが、容赦なく実戦に出す。早々に死にたくなければ、三年間、必死に訓練に励むことだ」


 それはユシアにとっては死の宣告に等しかった。


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