第十話 受け入れがたい真実
少年の心は激しく動揺していた。
なぜ、リセスの病気と〈赤銅の剣〉の任務が関係しているのか、ユシアには理解できなかった。
まだ、ここにきてから数日しか経っていない。
〈赤銅の剣〉は、この国を帝国から守るのが仕事じゃないのか?
他にもまだ知らされていない任務があるのだろうか?
だが、それと妹の病気となんの関係があるんだ?
ユシアの頭の中に様々な疑問が駆け巡った。
「どんな関係があるって言うんだ」
冷や汗が止まらなくなっていた。
「今、グレイモール王国とドルマルク帝国の間で、天然資源〈アストラル〉を巡って争いが起きてるのは知ってるでしょ?」
「ああ。〈アストラル〉は生命の源だ。この星のすべての生命が〈アストラル〉によって生まれた。あれがないと自然もなくなり、生命は暮らしていけなくなる。今、世界中でその天然資源がなくなってきて深刻な問題になっている。国は必要なだけの〈アストラル〉を確保するために各地で争いが起きているーーそのことと、妹の病気とどう関係があるんだ」
「それが大アリなのよ。実は、灰が世界中を蝕んでいるのを知ってる?」
「灰?」
「そう。それも大量の灰よ。大陸を覆ってしまうほどのね。その灰が〈アストラル〉を飲みこんでしまっているの。この国は火山に〈アストラル〉が集中しているから、そこが侵食されたら終わりなの」
全員が黙って聞き入っている。
「し、知らなかった......」
初耳だった。
この星の生命の源でもある〈アストラル〉を奪っている原因が、灰だったなんて。
父さんはこのことを知っていたんだろうか?
ユシアは途端に父のアルフィノの姿が頭に浮かんだ。
アルフィノは任務で帝国との戦争に行くことはあったが、灰のことについてユシアが聞いたことはなかった。
「そして、ここからが本題よ。その灰は厄介なことに体内に入ると、病気を発症することがあるの。その病気は〈灰病〉と言われ、外の空気を吸うと極端に衰弱してしまう体質になるのよ」
ユシアの頭から汗が流れ落ちていた。
ニコラの話した症状はリセスのものと一致していたからだ。
赤毛の少女は話を続けた。
「〈灰病〉は不治の病と言われていて、魔法でも薬でも治すことはできない。そして恐ろしいことに、死んだあとは全身が灰でできた怪物ーー自分の意思を持たず、ただ殺戮を繰り返すだけの〈灰人〉になってしまうのよ。だから、あんたが妹を守ろうが守るまいが、リセスは死んで怪物になるのよ」
ユシアの頭の中は思考が停止してしまったかのように、真っ暗だった。
彼女がなにを言っているのか、理解できなかった。
妹が死んだあとで怪物になるなんて話は、ユシアにとって受け入れがたいことだった。
妹を守りたいと言う強い思いがあったからこそ、今まで色々なことにも耐えてきた。
「......嘘だ。信じないぞ、そんな話」
少年の声は震えていた。
「別に信じてくれなくていいんだけど。事実だから。いずれわかることよ。なんなら、メイスフィールド先生に聞いてみたら?」
「......先生。今の話、嘘ですよね?」
ユシアは涙を堪えながら、すがるように聞いた。
「ウォーロード、残念だけど事実よ。我々の敵はドルマルク帝国だけじゃない。灰による脅威から国を守らなくてはならないの」
なにかがユシアの中で崩れていくような感覚があった。
「そんな......」
誰でもいいから、頭を殴ってこの悪夢から覚ましてほしいーーそんな気分だった。
「じゃあ、おれたちの......〈赤銅の剣〉の目的って......」
「帝国から国を守ることと......灰の影響により、〈灰人〉と化した者を倒すことよ。この呪いは......〈デュナミス〉はそのためにあるの」
ユシアにとって、これほど心臓を抉り取られるような言葉はなかった。
〈灰人〉と呼ばれる怪物になったリセスを倒すーーそれが自身の任務でもあると言うことだ。
リセスを守るために生きてきたユシアにとって、今この時ほど辛い瞬間はなかった。
今までやってきたことは、すべて妹の命を奪うためだったーーそんな事実をユシアは受け入れることができなかった。
「だから、あんたは妹を守るためじゃなくて、殺すためにここにいるの。これで少しはわかったかしら?なにも知らない温室育ちのおバカさん」
赤毛の少女はユシアの悲痛そうな顔を見て、満足そうに笑った。
「ニコラ、言いすぎよ」
メイスフィールドが注意したが、すでに遅かった。
ユシアの全身から、赤い瘴気のようなものが立っていた。
「......黙れ」
ユシアが握りしめた手から血が流れていた。
「ま、安心して。あんたが殺さなくても、わたしがやってあげるから。きゃはははははは」
「ニコラ!」
「黙れ」
ユシアは赤い瞳で赤毛の少女を睨みつけた。
燃え盛るような瞳に、少女は一歩退いた。
「な、なによ......」
異変を感じ取ったニコラだったが、遅かった。
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ユシアが叫んだ瞬間、〈エルスパーダ〉の剣身が激しい炎に包まれ、溶岩を纏った。
さらに、もう片方の腕には荒ぶる炎が渦巻いている。
「魔法剣だ!」
ランドが大声を上げた。
「でも、なんかやばい感じじゃない?」
デルフィも異変に気づいた様子だった。
「ユシア、だめ!」
ルファがユシアに駆け寄ろうとしたその時ーー。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ユシアは咆哮とともに、荒ぶる炎を纏った手をニコラに向けた。
荒ぶる炎は少年の掌で激しく渦を巻き、火の塊となってニコラに襲いかかった。
「まずいっ!」
メイスフィールドが赤毛の少女のほうへ走り出す。
「きっ、きゃぁぁぁぁぁぁ」
先程まで相手を嘲笑っていた表情は消え失せ、恐怖に怯えた少女は無情にも火の塊の中へと消えた。




