大臣ちょっと来い
会議がこんな調子だったのでどの国も王族では話にならない。
というわけで集めた王たちはいったん置いといて、とりあえずこのオーリアの実務を仕切っている大臣連中を呼んでみた。
このへんから変えていってみよう。
「コホン。では仕切り直して、私が魔王だ」
集めたオーリアの大臣たちは、服装はいかにも貴族っぽいけどさっきとはちょっと違った雰囲気。
なんていうか、皆ちょっとスレてるっぽい。
「王様の次は私たちを集めて何をする気ですかな?」
「まだ年端もいかぬ子ども、おままごとなら私の孫がお相手しよう」
「忙しいので手短にお願いしますよ」
敵の頭目を前に堂々とこのセリフ。顔色一つ変えてない。
肝がすわってるとかそういう感じじゃないな。多分、苦労しすぎてどうでもよくなってる、半分は…。
「じゃあまず経済担当の大臣は誰?」
「わたしです」
白髪交じりの細身の中年。枯れ木みたいなやつだけど目つきはウチの財務官のネクロマンサーたちにそっくり。常に相手の腹の底をを勘ぐっているのがなんとなく分かる。
カネをいじってるとこういう目になるのは魔族も人間も同じみたいだ。
「知ってると思うけど、人間世界の経済はめちゃくちゃよ」
「そうですな」
「オーリアは現状で世界一の負債大国。毎年借金が増え続けている状態がもうずっと続いているわ」
「そうですな」
「あなた大臣として何してたの?これをどうするつもりだったの?」
「そうですな…」
新たな税金を投入して取れる所は取る。
例えば今はまだ未実施の消費税。物を買う際に数%の課税を義務付けて幅広く徴税。
酒やタバコなどの贅沢品、嗜好品には今以上の課税を行う。
「さしあたっての第一段階はこのあたりでしょう。それが落ち着いたら段階的に消費税を引き上げたり、また新たな課税制度を設けて徴収します」
ふぅん、意外とまともだ。
大臣として考えているところは考えていたということかな。
「じゃあなんで行動に移さないのよ?適当なタイミングで消費税制度を施行すればいいじゃない」
「商工ギルドが邪魔です。彼らの反対のせいで新たな課税制度を長年増やせずにいます」
はぁんなるほど。ありがちなパターンね。
物を買うたびに税金を取られるんじゃ消費者は買い渋る。売る側も仕入れの原価が高くなると商売がしにくくなる。
商売人としてギルドが嫌がるのも無理はないか。
でもこのままいくと数年で国ごとパンクしちゃうのは目に見えてる。
そうでなくても大臣の案程度じゃ焼け石に水なんだから、ここは強引にでも何とかするしかない。
(ねえちょっと黒魔導士…)
(はい、何でしょう?)
ネクロマンサー呼んできて、商工ギルドの頭を操り人形に変えちゃおう。
いやこの際、反対する奴は全部そうしちゃおう。
(御意)
あと各ギルドの中の帳簿もチェックして、不正会計や使途不明金の使い道を明確化しておいて。もちろん内部留保も。
怪しいことやってるっぽい連中は現場の判断でデリートまたは人形化してOK。
商工ギルドがちょっと進んだ段階で国営銀行も洗う。
こっちの方はモタモタしてると証拠を消される可能性があるから、感づかれる前に速攻で全部潰す。
準備お願い。
(御意にございます。すぐに段取りを取らせます)
あらっぽい治療だけど、本体が手遅れになりかけているだけに腐ったガン細胞はとりあえず切り取ろう。
話し合いは無意味。いま必要なのは行動。
まずは足掛かりとしてサクッと一仕事始めましょ。