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最終話 俺の能力は少女の学校生活をも救う。



 俺と小鳥、そして白崎は体育館の入口に腰を下ろしている。もう昼の授業は始まっていたけど、保健室に行くという名目で免除されていたのだ。

 ちなみに金髪二人組――下須野と木築野はビクついたまま、数人の教員たちによって生徒指導室に引きずられていった。


 梅雨前のじんめりとした風に頬をさらし、さっきまでの視闘しとうの余韻を冷ます。

 その間に、俺と小鳥は一番気になっていた事……白崎の事について尋ねた。


「白崎、その目って……」

「うん。ちゃんと見える」


 白崎は今、両方の眼帯を外している。日の光を帯びて揺れる瞳はしっかりと風景を映し出している。

 それは思わず吸い込まれるような黒で、白崎の白い肌のせいでより際立っていた。


「そんな格好するのって、何か理由があった……んだよね、多分」


 小鳥の言葉に対し静かに頷く白崎。その表情から、ただフザけてやっていた事じゃないのはすぐにわかった。


「うん。自分の、体質のせい……」

「体質?」

「うん……」


 そして、白崎はぽつぽつと話しはじめた。



 どうやら、白崎も俺と似たような体質のようで。……ただそれがもたらす影響は、俺のそれとは真逆とも言えた。


 俺の能力は、視線を交わせた異性を快楽の頂に導く。

 それに対し白崎の場合は、異性と視線を交わす事で自分自身に効果が及んでしまうらしい。


 ……要は自分が登山してしまうのだ。


「中学一年の頃、授業中にいきなり目覚めたの」

「タイミングも……さいあくだったんだねぇ……」

「うん。初めはちがう誰かのせいだと思ってた。けど、それからいつでもどこでも繰り返すから、自分の体質だって気づいた」


 それから、白崎はなるべく他人との接触を避けるようになる。

 女子とは普通に視線を交わす事もできたらしいが、通っていた中学が共学だった事もあり、今まで通りに生活するのは厳しかったようで……。最終的には学校にも行かず、家に閉じこもりがちになった。


「三年くらい、一歩も外に出なかった。家でテレビや漫画ばかり見てた」


 白崎自身、この体質がなければ外に出て学校にも通いたいという願望はあったらしい。でも、そのブランクのせいでコミュニケーションの取り方がわからなかったんだ。変な言葉遣いや杖で突っつくのも、他のヤツらの気をひくためだったのか。


 ちなみに白崎家でそういう体質を持った人の例はないらしく、今後どうするかは家族で相当悩んだらしかった。


「……でも、最近になって、これと出会ったの」

「なるほど」


 そう言って、右手に握りしめていた眼帯を見つめる。とある海賊の映画を観ていて「これは」と閃いたそうだ。


「眼帯をつけたら、視線を交わさずに済むようになった」


 その分日常生活にも影響してきたが、白崎自身は、あの感覚を味わうよりはマシだと判断した。それほど当時の事がトラウマになっていたらしい。


「なんだか……大変だったんだね……」


 小鳥も言葉を上手く探せず、そう言うのが精一杯の様子だった。


「まあ、それで学校に通えて、お前が楽しくやれてたらいいんじゃねぇか?」

「うん……でも、今は」


 白崎は、まださっきの事が堪えているのだろう。少し怯えたような表情のまま俯きがちになる。


「また今日みたいな事になるのも怖いし……でも、眼帯を外して過ごすのも無理……」


 憂いを零す白崎を見て、俺と小鳥は顔を見合わせる。

 ……正確にはちょっと視線をずらしているが、それでも互いの意思は察せた。


 そこに、今後の学校生活に不安を抱える白崎への同情や悲観はない。

 なぜなら……



 ――その心配は無用、だからだ。



「大丈夫だよ。白崎さん」

「……え?」


 きょとんとする白崎に対し、小鳥はその幼顔にニッコリと笑顔を浮かべる。


「小鳥の言うとおりだ。少なくともこの学校で眼帯は要らねぇよ」

「な……何で?」


 白崎は「いったい何を言ってるの?」というような訝しげな顔で、俺たちを順に見る。

 そんな様子がどこかおかしくて、つい口元が笑みで緩んでしまいそうになった。


「いいか、白崎。その理由は二つだ。まずは、お前は俺を見ても何ともない」

「それは多分……あなたと私は、同じ体質だから……」

「ああ、多分そうだ」


 コイツが転校してきた日、不意にしてきたサムズアップ。

 最初は適当にやっていたように思ったが、あれはやっぱり俺に向けてのモノだったんだ。

 白崎はあの時、ふいに自分と似た性質の人間を身近に感じ、指を立てる事で反応を見ていたんだろう。……まあ、俺は全く応じなかったけどな。


 つまりは、俺の目力と白崎の体質は相殺される。だから、俺と白崎が視線を交わしても何も起きない、という事なんだろう。


「だから、お前は俺を見ても平気だ。なら、この学校では眼帯なしで過ごせる」

「え……でも、他の男の子には……」


 白崎の真っ当な疑問に、小鳥は得意げに笑う。


「ふっふっふ~。白崎さん、その心配は無用なんだよ~」

「ああ、なんせこの学校の男子どもには……」


 そして、俺と小鳥は一緒になって言い放った。





「「被描写権がないんだから!!」」


「なっ……ナニソレ……!」


 ……そう。この学校は俺のクラスに限らず、全てが女子の存在で成り立っているようなもの。

 一応共学ではあるが、俺のような特殊な力でもない限り、他の男子どもには一切の発言権・被描写権、その他もろもろがない。


 まさに、珍百景なのである。


「そ、そんなの……必殺技じゃん……!」

「ある意味、この学校に入った男子は死んでるようなもんだけどな」

「うんうん。だから、白崎さんは男子の目を気にせず、学校生活を送れるんだよ?」


 未だにその事を信じられないのか、白崎はポカンと口を開けていた。


「だ、だからお母さんたち……この学校の事やたら勧めてきたのかなぁ……」

「もしかすると、そうかもね。どこかでここの噂を耳にしたのかも」

「いい親じゃねぇか」

「う……うん」


 しばらくボウッと考えに浸っている様子の白崎だったが、やがて独り言のようにボソッと呟いた。


「私……幸せものでござる」


 照れ隠しか。

 今回はワザとらしく変な口調の白崎。


 その白い顔には満面の笑みと、大粒の涙が浮かんでいた。


「今日から改めて、わたしたちは白崎さんの仲間だよ」

「またアイツらが来たら、ふっとばしてやるよ」

「うん、うん……。私、あなたたちとも出会えて、とっても幸せ」


 ごしごしと涙を拭い続ける白崎を見て、ようやく今回の騒動にケリが着いた。

 これで、少なくともこの学校内では、白崎も安心して生活できるだろう。


「白崎さんはもう大切な友だち……。これからもわたしたちで守ってあげようね! たかちゃん!」

「ああ、そうだな」


 そして、この先もできるだけ白崎の苦労を減らしてやろうと密かに誓う俺と小鳥だった。



「「……あ」」



 ……そして、その事で頭がいっぱいになったせいか、思わず目を合わせてしまうのだった。


「あっはあああああ~~んっ!!」


 最近でもう何度目になるかわからないが、再び小鳥が空を飛んだ。

 ……いや、跳んだ。


「た、たかちゃん~……! 最近その能力、楽しんでるでしょ~……っ!」

「いや……今回も例によってワザとじゃないんだけどな……?」

「いや、それは立派な技でござる……。やっぱり間違いがあるとイケないから、もうちょっと眼帯してようかな」


 寝そべりながらジタバタもがく小鳥と、再び眼帯をつけ直す白崎。

 やっぱり、一番の問題は俺のこの能力なのかもしれねぇな……。



 参ったぜ、まったく。



最後までお付き合いいただきありがとうございました!


彼らの生活はまだまだこれからな感じですが、これにて一旦完結です。

先を書くか書かないか……全く未定です(汗)


ではでは、短い間でしたがお読みいただきありがとうございました!


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