事後処理
「こりゃあ……こりゃあマズいぞ……冒険者に雑な対応とかしてないよな?」
「その筈っス……」
ゴブリンが北の泉に現れ、冒険者の手で対処されたという報告はすぐさま齎されたが、対応に追われた衛兵たちは心底ぞっとする羽目になった。
検分のために並べられたゴブリンに無駄な損傷がほぼないのだ。
普通、戦闘後の怪物や敵性種族の死体には様々な刀傷や損壊が見受けられる。
特に顔や首元はそれが顕著で、目が潰れていたり頭の皮膚が傷だらけの筈だが、今回のゴブリンは鮮やかなまでに急所だけが攻撃されていた。
「どうしたら頭が吹っ飛ぶんだ? 魔法使いまでいるのかよ」
「うげえ。見たことねえぞ」
「魔法使いに下手なことしたら俺らの首が飛ぶぞ」
別の個体は散弾で頭部が爆散しており、幾人かの衛兵はすっぱいものがこみ上げてきた。
ゴブリンの頭蓋を弾けるほどの魔法となれば、きちんとした熟達の魔法使いの仕業だ。しかしそういった魔法使いは中央との繋がりが強く、衛兵には手が余る相手だ。
「それにこいつ……頭の穴はなんだ?」
「これも魔法かな?」
更に衛兵を悩ませたのは、小銃で処理されたゴブリンだ。
刺殺や爆散した頭部は分かりやすいのだが、頭部に小さく空いた穴は彼らの知識にないもので、魔法とはこんな最小限の攻撃で命を奪えるのかと戦慄する。
ということで、ジョン一行はナイフの達人と魔法使いで構成されている、凄腕の冒険者という認識になり、下手なことが出来なくなっていた。
「鎖国している極東出身の魔法使いでして、門外不出の秘儀なのです」
「そうそう」
「角にいると効果を発揮する」
「なるほど……」
なお当の本人であるジョンたちの事情聴取はコレだ。
この男共、とりあえず極東出身と言い張れば何とかなると思っている節があり、調査をしている者も疑問を覚えつつ、ゴブリン二十数体に、エリートであるシャーマンを殺した凄腕を怒らせまいと慎重な対応をしていた。
「ところで報酬金はリーダーの方に渡せばよろしいですか?」
「出るんですか⁉」
「え? はい。敵性種族の討伐ですからね。それにシャーマンらしき個体も確認されていますし」
「いやよかったです。当初は宝石蛇の抜け殻ってのを探してたものでして」
衛兵に尋ねられたジョンは喜んだ。
囚われた人々が元の生活に戻れるのは喜ばしいが、それはそれとして、ヒルダのいる孤児院の方にも援助を行なう必要があるのだ。
パンをたくさん買ってシチューをしようと提案した手前、それを行なえないのは大人としての沽券にかかわった。
一方、ヒルダの方はと言うと。
「孤児院の子か……」
「あそこは厳しいらしいから無理もない」
「凄腕の冒険者と一緒に慣れてよかったじゃないか」
孤児院の経済状況を知っている衛兵から同情され、特に調査もされていなかった。
「ではまた何かあればよろしくお願いします」
「はい、分かりました……ぐふ。ぐふふ。これだけありゃあ、子供達にお腹いっぱい食べさせられるぜナイファー、角待ち」
「ぐへ。ぐへへ。金の単位もよく分かってねえのに何言ってんだ」
「げひゃひゃひゃ。じゃあ俺は角に行くんで」
こうしてよく言えば丁重な。悪く言えば爆薬としての扱いを受けた一行は、かなり纏まった金額を手に入れて衛兵の詰め所を後にする。
「あ、あの、本当に、本当にありがとうございます!」
「気にしない気にしない」
「でも私、何もしてなくて……」
「何言ってるんだいヒルダちゃん。ヒルダちゃんが勇気を出して冒険者ギルドに行って、勇気を出して俺たちに声をかけたんだ。それが切っ掛けなんだから、卑下することなんてないさ」
「あ、ありがとうございます……!」
何もしていないのにジョン達から金を分けられたヒルダは、酷い罪悪感を感じていたが、兵士一行は微笑んで金を押し付ける。
彼らが子供を大事にするのは定めに等しく、その幸せを心の底から願っているのだ。
それに対して深々と頭を下げたヒルダだが、もっと高次の瞳を持っている者なら違う意見を持っただろう。
彼らは恐ろしき破壊の化身であり、大渦だ。
人の形をして、人の感性を持ち、人として歩んでいるが、それでも根本からして人とは違う超次元の存在としか言いようがない。
小銃が。
機関銃が。
ハンドガンが。
ショットガンが。
スナイパーライフルが。
暗がりで。
地下で。
高台で。
森で。
川で。
輸送路で。
ありとあらゆる場所で、そこを好む兵士がうろついていた。
さて、それはさておき、籠いっぱいにパンやシチューの材料を突っ込んだ一行はヒルダの家である孤児院に辿り着く。
元は教会か何かを再利用しているのか、石造りの建物は随分と立派なのだが、よく見れば手入れが行き届いておらずあちこちがボロボロだ。
「皆ー! パンをいっぱい買ってきたよー!」
「お姉ちゃんだ!」
「おねえちゃーん!」
「パンがいっぱい!」
そんな孤児院に向かってエルザが大声を出すと、五歳から八歳ほどの子供達がわっと駆け出し、瞬く間に彼女の周囲を制圧してしまう。
そして彼女が持ち帰ってきたものに喜んだが、はいそうですかと終わらせられないのが、孤児院の職員だ。
「ヒルダ! 何処へ行っていたんだ!」
「……冒険者になって来ました」
「ぼ、冒険者⁉ 何を考えてる⁉」
「で、でも、お金を稼がないといけないんです!」
生きた財宝に等しいヒルダにだけはなんとかきちんとした食事をとらせ、それ故にこそ彼女の暴走を招いた職員たちが口々に暴挙を咎めると、珍しいことに彼女は強く反論した。
「……」
それをジョン達は静観する。
割ってはいるのは簡単だが、ここに住んでいるヒルダが説明の責任を果たすのが当然である以上、まだ彼らが口出しするタイミングではない。
「失礼ですが貴方方は?」
「ヒルダちゃんと同じチームの冒険者です。北の泉で二十数体のゴブリンを始末したので、そのうち話を聞くと思います」
「に、二十……?」
「はい」
尋ねられたジョンが戦果も付け加えて自己紹介する。
ここで謙遜すれば追い出されるのは目に見えており、話が面倒になる前に先手を打った。
(面倒なことを……!)
その目論見は上手くいき、敵性種族を倒した実績があればぞんざいな扱いをすることが出来ない。
「それではご厄介になります。修繕費や子供達の食費も提供させていただきますので、どうかご容赦ください」
「は?」
ついでにこのジョン、中々に面の皮が厚かった。




