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救出作戦//夜襲

……………………


 ──救出作戦//夜襲



 私はガイウス将軍との食事を終えて宿舎に戻ることにした。

 そこで私が市庁舎を出るとミュロンが待っていた。


「ミュロン隊長?」


「食事は終わったか?」


 私が少し驚いているのにミュロンはそう尋ねてくる。


「う、うん。待っていてくれたの?」


「お前を帝国に引き抜かれては困るからな。お前は今は西部連合の正規魔法使いだ。そして、俺には今回派遣された西部連合の正規魔法使いに対する責任がある」


「引き抜こうとはされなかったよ。安心して」


「ならばいいが」


 私はミュロンにそう言い、彼とともに宿舎に戻る。


「……ガイウス将軍とはどういう関係だったんだ?」


 その道中でミュロンがそう尋ねてきた。


「傭兵だったときの雇い主のひとり。いろいろとあったけれど……」


「それだけか?」


「……最初に私が無詠唱で魔法を使うと気付いた帝国側の人間でもある」


「なるほどな。それで帝国中央はお前とソフィアを名指しで呼び出したのか……」


 食えない男だとミュロンが呟くように愚痴る。


 それから私たちは宿舎に戻った。

 そこで救出作戦開始までの時間を過ごす。

 救出作戦の実行が決定したのは、その日の夕方のことだった。

 私たちは闇に紛れて要塞に接近するのだ。



 * * * *



「コルネリア?」


 私は作戦に参加する帝国軍の正規魔法使いの中に見知った顔を見つけた。

 それはコルネリアだ。

 かつて私とともに戦った帝国の若い正規魔法使い。


「リンクス!」


 彼女は私を見つけると駆け寄ってきて抱擁した。


「心配していたんですよ! 捕虜になって奴隷にでもされたんじゃないかって!」


「だ、大丈夫だよ。西部連合の人たちは優しかったから……」


「それならよかったです!」


 コルネリアはにこにこの笑みでそう喜んでくれた。


「それよりコルネリアたちは今回の戦争にも参加したの? もう戦争はうんざりだと思ってたんだけど……」


「……私も参加するのは嫌だったのですが、ガイウス将軍に指名されて……。西部連合との戦いで経験を積んだベテランの魔法使いが必要だって……」


「そっか……」


 コルネリアも望まない戦争を戦っている。

 場所は違えど、境遇は以前と同じだ。


「けど、リンクスが生きていて本当に、本当によかった! けど、ところで、ソフィアは……?」


「三月教徒の捕虜になったんだ。これから救出する対象になっている」


「そうか。なら、頑張らないとね……!」


 コルネリアはそう言って気合を入れていた。

 帝国にも私は友人と呼べる人間がいるということに少し安堵した。


「全員集まれ!」


 そこでミュロンが声を上げて私たちを集める。


「これより我々は敵に占領されている要塞を襲撃し、捕虜を奪還する」


 ミュロンは重々しくそう言う。


「地図上のこの地点まで我々は馬車で進出し、それから飛行魔法で一気に要塞に迫る。夜の闇が我々の味方だ」


 そう言って彼は作戦に参加する魔法使いたちを見渡す。


「要塞襲撃に当たっては夜間戦闘となるので敵味方識別と捕虜への誤射に注意すること。要塞に存在する敵は全て殺して構わない。ガイウス将軍からも捕虜は必要ないと言われている」


 彼は少し言い難そうにそう言った。

 皆殺しにしろと言っているようなものなのだ。

 生真面目なミュロンには迷いも生じるだろう。


「作戦の説明は以上だ。では、作戦開始!」



 * * * *



 私たちはタラシアを馬車で出発し、要塞まで一定の地点まで進出すると飛行魔法で飛び立った。

 今、私たちは夜の砂漠の上空を飛行している。

 夜の砂漠は海を飛ぶような感じだった。

 ランドマークは何もなく、落ちたらもう戻れないようなそんな恐怖がある。


「方位と距離は合っている。このまま飛ぶぞ」


 ミュロンは星座で飛行している方角を確認し、飛行距離を測定しながら飛んでいる。

 飛行魔法を使いながら、そこまでやれる彼のことを私は尊敬した。

 私にはそこまでやれそうにない。


 私たちは先導のミュロンを見失わないように飛行し続け、飛行魔法でぎりぎり飛べる距離を飛行した。

 そして──。


「間もなく目標の要塞だ」


 ミュロンがそう言い、私たちの視界に薄っすらと黒い影が見えてきた。

 それは要塞のシルエットだ。

 月明りに薄っすらと照らされた要塞が、荒野の中に聳えている。

 形は四角いそれであり、四隅に尖塔が聳えていた。

 思っていたよりもそう大きくはない。


 近くにかつて市街地だったであろう廃墟群があったが、人の気配はなかった。

 要塞の方には僅かだが篝火が輝いている。


「よし。目標を視認。敵が気づいている様子はない。このまま襲うぞ……!」


 ミュロンはそう指示を出し、私たちは要塞に急接近。

 まずは要塞の守備戦力を排除するべく、私たちは攻撃を開始した。


「行くぞ。『偉大なる精霊たちよ──!』」


 魔力の矢が形成され、要塞を守る守備隊に撃ち込まれる。

 魔力の矢によって三月教徒の兵士が一瞬で肉塊と化した。

 この時点でもまだ警報は鳴っていない。

 奇襲は成功だ。


「このまま外の守備戦力を殲滅し、内部に突入する。リンクス、お前は俺と来い」


「了解、ミュロン隊長」


 ミュロンの命令を受けて、私は彼に続く。

 要塞の外にいる守備戦力を排除しながら進む。

 要塞の守備戦力はそう大きな規模のものではなかった。

 砂漠と荒野の真ん中で、補給が困難なこの場所では大規模な軍隊は維持できない。

 それが守備隊が少ない理由だろう。


「これから内部に突入する。帝国側の魔法使いは外から援護してくれ。内部には西部連合の魔法使いだけで突入する」


「了解です」


 この場で指揮を執るミュロンがコルネリアたちに命じ、私たち西部連合魔法使い部隊は要塞の内部に突入していく。

 ここからは射撃戦から白兵戦になる。

 白兵戦に優れた西部連合の魔法使いが突入するのは理にかなっていた。


「『偉大なる精霊たちよ──!』」


 ミュロンは要塞の壁に穴を空け、そこから突入を開始。

 要塞の内部は暗く、僅かなろうそくの明かりがあるだけだ。

 これは予想以上に戦いにくい……。


「リンクス。今回は俺が攻撃を担当する。お前は防御に回れ」


「分かった」


 ミュロンは魔力の槍を形成し、それを手に要塞内を進む。

 私は彼を守るために魔力装甲を常に展開しながら、彼に続いた。


「今の音は何だ……?」


 そこで要塞の内部から三月教徒の兵士が姿を見せる。

 壁が破壊された音を確認しに来たのだろう。

 その兵士は私たちの姿を見てぎょっとした表情を見せた。


「て、敵襲──」


 しかし、その兵士が報告を叫ぶ前にミュロンが魔力の槍で貫き殺した。


「ここからは急ぐぞ。こいつが戻らなければ敵も襲撃に気づく」


 ミュロンはどこまでも冷静にそう言い、要塞内を駆ける。

 私は薄暗い要塞内を転ばないように彼についていった。


「ネストル。お前は上層に向かえ。俺たちは地下を調べる」


「了解です、ミュロン隊長」


 ここでミュロンは部隊を分け、ネストルたちは要塞の上層に、私たちは地下を調べることにした。

 地下はさらに暗く、ろうそくの小さな明かりが辛うじて廊下を照らしているだけだ。

 それからカビの匂いと湿気が強い。


「ま、魔法使い!?」


 それから不意に私たちは三月教徒と遭遇した。

 ミュロンがすぐにそれを殺害したが、今度はふたりの兵士がいた。


「敵襲、敵襲!」


 兵士は大きく警笛を鳴らし、要塞中に警報が鳴り響いた。


「クソ。急ぐぞ!」


 ミュロンはもうひとりの兵士も腹部を貫いて殺し、足早に地下を進む。


「侵入者だ!」


「異教徒どもめ! 殺せえ!」


 三月教徒の兵士たちは6、7名現れ、私たちを攻撃しようとするが、私が魔力装甲でミュロンを守り、ミュロンは一方的な攻撃で彼らを撃破していく。


 そして、私たちは──。


「牢獄があるな。ここで当たりか……?」


 私たちは地下に牢獄を見つけ、ミュロンと私は魔法で炎を形成し、それで牢獄の中を照らした。


「ソフィア!」


 そこには拘束されたソフィアの姿があった。

 猿轡で口を塞がれ、鎖で手足を拘束された彼女の姿を見つけたのだ。

 そしてソフィアはまだ生きている。


……………………

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