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救出作戦//近況報告

……………………


 ──救出作戦//近況報告



 私はガイウス将軍に連れられて市庁舎内にある食堂に向かった。

 市長が賓客たちを歓迎するために作った食堂は、少しだけ豪華であった。

 床には異国の色がある絨毯が敷かれ、飾られている絵画も帝国や西部連合で描かれる画風とは大きく異なっている。


「まずはロンディウス襲撃のあとであなたとソフィアを救出できずに申し訳なかった」


 ガイウス将軍は食前酒の白ワインと前菜が運ばれてくるとまずそう言う。


「私としても手は尽くしたのですが、西部連合は捕虜の返還に応じませんでしたので。それから帝国中央も傭兵の救出のために、大金は払えないなどと言いまして。そのせいであなた方を救出することはできませんでした」


「……別にいいよ。私とソフィアは西部連合に居場所を見つけたから」


「それは何よりです。その白いローブは似合っていますよ」


 ガイウス将軍が謝りたいことと言っていたのは、ロンディウス襲撃で捕虜になった私たちを救出できなかったことであった。

 だが、今となっては私はそのことは特に気にしていない。

 西部連合は私たちを受け入れてくれたから。


「さて、聞きたいことはいろいろとあるでしょう。私は結局帝国中央で地位を築けたのか、三月教徒の反乱とは何かとか」


「そうだね。魔法使い派閥は作れたの?」


 ガイウス将軍の野望。

 帝国中央で元老、軍部、皇帝に次ぐ魔法使い派閥を作るということだ。

 それを彼は実現できたのだろうか……?


「ええ。それなりに形になってきましたよ。先の西部連合との戦争で、魔法使いは大きな価値を示しました。魔法使いが主力となったロンディウス襲撃であの戦争は終わったに等しいのです。そのことを元老院も軍部も、そして皇帝陛下も認めています」


 私の問いに彼はにこにこと笑ってそう言う。


「今の帝国魔法官は私の同志です。魔法使いたちはその地位を確かなものにするために団結しつつあります。元老院内で、軍部内で、皇帝陛下の側近たちの中で、魔法使いたちは魔法使いとして結束しつつあるのです」


「それはよかったね。それなのにあなたはまた望まない戦場に出ているの?」


 私はそう返した。

 帝国中央で地位を得たならば、ガイウス将軍は戦場に出る必要はなかったはずだ。

 それなのに戦場に出ているということは、彼の地位はそこまで固まっていないようにも思える。


「ええ。不思議に思われるかもしれませんが、魔法使いが戦場で有力であると示したからこそ、戦場に送られてしまったのです。私は、その、何と言いますか名将扱いされてしまいまして」


「……名将?」


「ロンディウス襲撃のように一撃で戦争を終わらせてくれというわけです。あのときとは状況が大きく異なるというのに」


 ガイウス将軍は呆れたようにそう言い、首を横に振る。


「三月教徒の反乱に明確な拠点というような場所はありません。何人かの有力な指導者がいて、その指導者の下で反乱は続いています。その指導者たちも一か所にとどまらず、移動し続けているので、西部連合のロンディウスに当たる場所はないのですよ」


「なのに同じ方法で帝国中央は戦争を終わらせられると思ったんだ」


「愚かでしょう? これは私が有力な新派閥を作り始めたことへの牽制ではないかと思っています。魔法使い派閥の存在は、既存の三大派閥を脅かすものになるので」


 私がやや呆れた色を隠せず言葉にするのに、ガイウス将軍も肩を竦めた。


「しかし、あなたが来てくれてよかった、リンクス。あなたがいればこの泥沼の戦争もどうにかなるでしょう」


「……私はそんなに便利な存在じゃないよ」


「おやおや。そう謙遜なされず。あなたの実力は確かなものです。あの全てを薙ぎ払う爆轟魔法。あれを私は帝国中央に戻ってから再現しようとしたのですが、とんと上手く行きませんでした」


 私がそう否定するのにガイウス将軍は続ける。


「あの魔法は無詠唱魔法使いであるあなたにしか使えない。そしてその魔法は1個軍、1個艦隊に等しい戦果を挙げる。恐ろしくもあり、頼もしくもあります」


 そう言ってワインのグラスを口に運ぶガイウス将軍。


「しかし、ご用心を。帝国中央にはすでにそのことは知られています」


「知られている? あなたが報告したんじゃないの?」


「私以外にも大勢があなたの魔法を見ているのですよ? ティベリウス将軍も報告しています。だから、帝国中央から西部連合にあなたとソフィアを派遣しろという要望が発生したわけでして」


 私がむっとして問うのにガイウス将軍はそう追及を回避した。


「帝国中央はあなたに興味を持っている。流石に西部連合の正規魔法使いになったあなたに以前のように荒っぽい手段で手を出してくるとは思いませんが、それでも帝国中央にあなたを引きずり込もうとする動きはあるはずですよ」


「あなたはどうなの? 私のことを引き込もうとはしない?」


「諦めています。それにあなたのような強力な魔法使いが下手に帝国中央に来ては、せっかくの魔法使い派閥の長という私の地位が揺るがされる」


「そう」


 それから料理が運ばれてきて、私たちはそれを口にする。

 異国の香辛料が使われた異国の料理だ。

 転生してから初めて口にするピリ辛な料理に私は目を白黒させた。


「ところで、西部連合での暮らしはどうでしたか? 魔法学校に通ったのでしょう?」


「そのことも知ってるんだね」


「当然。西部連合とは講和しましたが、完全な友好関係が構築されたわけではありませんから。物騒な隣人の動きに耳を澄ますのは当たり前のことです」


 ガイウス将軍は悪びれる様子もなく、そう言ってのける。


「西部連合の暮らしは悪くなかったよ。この反乱さえなければ、もっと平和に暮らしていられたんだけどね」


「そうですか。ですが、三月教徒の反乱は私の責任ではありません。彼らが何を要求しているかは知っていますか?」


「さあ?」


 そう言えば三月教徒は帝国中央の打倒を掲げているそうだけど、その理由は何なんだろうか?


「彼らは奴隷制度の完全な廃止と神々及び精霊信仰の撲滅を掲げています」


「奴隷制度と信仰……?」


「ええ、ええ。彼らは偉大なる唯一の神を崇拝すべきだと言って、我々が信仰している神々や精霊の存在を否定しました」


 現代人の視点からすると奴隷制度の廃止は悪くないことのように思えるが、信仰の否定というのは……。


「彼らの詠唱を聞いたでしょう? 彼らは精霊ではなく、神に祈って魔法を発動しています。そこまで彼らの信仰は強固だということです」


「奴隷制度は? 廃止するつもりはないの?」


「帝国は未だに多くの分野において犯罪奴隷、借金奴隷の労働力に助けられています。確かに一部では悲惨な扱いを受けている奴隷もおり、そういう奴隷に同情はしますが、今すぐに完全に廃止しようというのは無茶苦茶です」


「そっか……」


 私はガイウス将軍の話を聞きながらローマ帝国も奴隷制度を廃止したことで衰退し、滅亡したというひとつの説を思い出していた。

 機械の発達が進んでいないこの時代においては、労働力としての奴隷が必要なことは理解できなくもないが……。


「そもそも反乱の発端になったのは奴隷の反乱ですからね。南方の鉱山で働いていた犯罪奴隷たちが武装蜂起し、いつのまにか三月教徒と名乗りだしたのです。恐らくそのことに三月教徒の指導者たちが絡んでいるのでしょうが」


 ガイウス将軍は少し忌々しげにそう言い、ワインを飲み干した。

 すぐに従卒がやってきて、次のワインを注ぐ。


「さて、お互いの近況報告はここら辺でいいでしょう。あとはこの戦争について説明しておきましょう」


「やっぱりふたりの将軍が派遣されているの?」


「ええ。しかし、ティベリウス将軍ではありません。彼は失脚しましたから」


 ガイウス将軍はあっさりとティベリウス将軍が地位を失ったことを告げる。


「我々のライバルはアウルス将軍です。彼は軍部派閥の有力な将軍でして、すでに長くこの反乱と戦っています」


「我々? 私は別にあなたについたわけじゃないよ」


「それは失礼。ですが、ソフィアの救出には私の力が必要でしょう?」


 そう言われてしまうと私には反論のしようがない。


「今回も仲良くやりましょう、リンクス。あなたの師匠であるソフィアもともに」


 そう言ってガイウス将軍は赤ワインのグラスを掲げて厭味ったらしく笑った。


……………………

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