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養子縁組//過去

……………………


 ──養子縁組//過去



 私たちに突き付けられたアンドレアスの語る養子縁組の理由。


 それは西部連合内でアンドレアスが地位を得るための手札として私を欲しているということと帝国中央から私を保護するためのもの。


 以前リウィアから警告を受けていたように私を政治的に取り込もうという動きだ。

 身内に引きずり込み、婚姻に利用して家同士の結びつきを作る。

 私が予想していたより早く、それは訪れた。


 だが、それより大きな衝撃は帝国中央が私たちを狙っているということだ。

 私が無詠唱の魔法使いであることを知っているガイウス将軍は生きて凱旋し、そして帝国中央にいる。

 そのことはほぼ間違いなかった。

 そして、彼自身かあるいは彼から報告を受けた人間が、西部連合に逃れた私たちに干渉しようとしている。


 私たちは自宅に戻り、突き付けられた事実について沈黙し、考え込む。

 ソフィアは険しい表情であり、何事も発さずにずっと考えていた。

 私もまた同様だ。


「……リンクス。養子縁組の申し出は、受けるべきなのかもしれない」


 その末にソフィアはそう言った。


「お前は狙われていると考えるべきだ。帝国中央はお前が無詠唱の魔法使いだと知っていると考えて間違いない。そうでなければ、わざわざただの傭兵に過ぎなかったお前を名指しにするなど考えられん」


「だけど……それじゃあ師匠と……!」


 養子縁組の申し出があったのは私だけ。

 そして、アンドレアスは私を有力な魔法使いの家と結婚させることで利益を得ようと考えている。

 それを受け入れてしまえば私はソフィアと引き離されるだろう。


「……私ではお前を守り切れない。帝国中央の手や西部連合の政治的暗闘からお前を守り切れる自信は、私にはない……」


 ソフィアは苦しげに私に向けてそう告げる。


「けど、今までも師匠は守ってきてくれたよ! これからだって……!」


 私はそう必死に訴える。

 珍しく私が声を荒げたのにソフィアは少し驚いていた。


「リンクス……」


 ソフィアはそれから私の方を見つめ、悲しげに視線を伏せる。

 私はそれを見て思った。

 ソフィアとともにいるには彼女を頼ってばかりではダメだと。

 それでは彼女の負担になるだけだ。


「それに私も強くなった……! 簡単には負けない! ただソフィアが隣にいてくれるなら……!」


 私がそう言うのにソフィアは視線を上げて、私の方を見た。

 驚きの色が濃緑色の瞳にある。

 私が決意を示したことに驚きを示してたのかもしれない。


「……そうだな。お前も強くなった。簡単に諦めるべきではないのかもしれない」


 彼女はそれから優しげな笑みを浮かべて頷く。

 そして彼女も覚悟を決めたように私の手を握る。


「私たちにできることを考えてみよう。帝国中央の手から逃れ、そして西部連合の政争からも距離を置くことができないかを……」


 それから私たちはできることを考え始めた。

 まず思いついたのは人を頼ること。


「リウィアを頼ってみるのはどう?」


「リウィアか……。彼女も家の都合で結婚すると聞いているが……」


 リウィアも魔法使いの家同士の結婚をすると言っていた。

 だが、最初に私に警告を与えてくれた人だ。

 何かしらの対抗手段を持っているかもしれない。


「あとは……テオドラにも聞いてみる。彼女の父親も議員らしいから」


「私はイレーネ連盟長に聞いてみよう。使えそうなコネは全て使うぞ」


 そう決意して私たちは動き始める。



 * * * *



 その翌日、学校で私たちから事情を聞いたリウィアは納得した顔をしていた。


「ああ。そういう話が出るのは時間の問題だっただろう。そのことは私も警告していたはずだぞ、リンクス」


 彼女はそう言い首を横に振る。


「何か打てる手はないか? 帝国中央にリンクスを奪われるのは西部連合としても望むところではないはずだ」


「それはそうだが……。アンドレアスの養子になればそれは防げることだろう?」


 ソフィアの言葉にリウィアはそう反論、


「……リンクスには自由でいてほしいんだ。しがらみに絡みつけられ、何のために生きているのか分からない人生は送ってほしくはない……」


「……ソフィア。お前は帝国中央で何があった?」


 ソフィアが後悔の色を滲ませて言うとリウィアが問う。

 その問いは私も気になるところだったし、それを説明しなければ私が自由でいるべき意味がリウィアに伝わらない。

 リウィアは恋人の死も、それに政略結婚も受け入れているのだから。


「……私は帝国魔法院で魔法官に仕えていた。ティトゥス長官に」


「ティトゥス? 確かそいつは皇帝マルクスを暗殺しようとした魔法官の名では……」


「そうだ。ティトゥス長官は元老院派閥の人間であり、反皇帝の筆頭だった」


 ティトゥスという名は初めて聞いた。

 その人物がソフィアが今のようになった原因……?


「私は当時優秀とみなされていた魔法使いだった。魔法学校の首席であり、ティトゥス長官から目にかけてもらっていた。私の家が有力な家ではなく、どの派閥にも所属していなかったのも理由だろうが……」


 ソフィアはそう語る。


「帝国では実力ではなくコネがものを言う。私はティトゥス長官に気に入られることで、帝国中央での地位を得ようとした。だが、それは結局のところティトゥス長官に利用されるだけだということに気づいていなかったんだ」


 後悔が強く滲むソフィアの言葉。

 一言一言が重々しい。


「そして、ティトゥス長官は私に皇帝暗殺を持ちかけた。そこでようやく私は彼が正気ではないと気づいた。だが、遅すぎた。皇帝暗殺という企てを聞かされた私は……決断を迫られた」


 皇帝暗殺のためにソフィアを利用しようとしたティトゥス。

 ソフィアは皇帝暗殺に協力したのだろうか……?


「私は暗殺への加担を拒否した。このことは内密にすると約束して。だが、ティトゥス長官は私を信じなかった。私がティトゥス長官の企てていた暗殺計画を密告すると思ったのだろう。彼は私の口を封じようとした」


 そこでソフィアは彼女の不自由な右足を見る。

 まさか、彼女の右足が不自由なのは……。


「そうか。それで……」


「ああ。ティトゥス長官子飼いの魔法使いたちに夜中に家を襲われて、私は死にかけた。この右足もそのときだ。それから私は帝都から逃げるように去り、そののちにティトゥス長官が皇帝暗殺を企てたとして失脚したことを知った……」


 リウィアが察するのにソフィアは頷く。


「お前自身は罪に問われなかったのか? 皇帝暗殺に加担しなかったとはいえ、その陰謀を事前に知っていたのだろう?」


「良くも悪くもティトゥス長官の部下に襲われていたことが、私の身の潔白を証明した。帝国中央は私を帝都から追放したが、処罰はそれだけだ。それからは傭兵としてずっとひとりで生きてきた。もう誰も信用できなかったからな……」


「なるほど。それで師匠としては弟子に同じ道を歩ませたくはないわけだ……」


「帝国中央ほど政争が酷いとは聞かないが、一度巻き込まれればそれまでだ……」


 リウィアはソフィアの言葉に深く納得した様子であり、ソフィアは語るのを止めた。


 私はここでようやくソフィアの過去を知った。

 どうしてソフィアが街に暮らさないのか。

 どうして魔法使いを縛るしがらみを恐れるのか。

 どうして帝国中央の事情を知っていてのか。

 そして、どうして孤立していたのか。

 その理由の全てを知った。


 皇帝の暗殺未遂という大きな事件に彼女が関わっていたということに私は驚き、そして彼女が辿ってきた人生がいかに悲惨なものだったかを理解した。

 彼女は利用され、捨てられ、何もかもを失ったのだと。


「……頼む。リンクスには私のような惨めな人生を送らせたくはない。協力してくれ、リウィア」


 そしてソフィアはそう頼みこむ。


「はあ。そこまで言われては断れないな。私の夫になる男の家に頼んでみよう。何か手はないかと。あとは……うちの家でも何かできないかを考えてみる。だが、期待はするな。アンドレアス議員は有力な政治家だ。リンクスを手に入れるためならば、荒っぽい手段も採るかもしれない。完全に守ってやれる保証はないぞ」


「それで構わない。私も可能な限りリンクスを守るつもりだ」


 リウィアの言葉にソフィアは力強くそう返したのだった。

 私はソフィアに守られていることを幸せに思いながらも、これ以上彼女の負担にはなるまいと決意した。


……………………

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新連載連載中です! 「 不老不死のぼっち魔女、傭兵さんに攻略される。」 応援よろしくおねがいします!
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