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養子縁組//理由

……………………


 ──養子縁組//理由



 私にその話が来たのは、別に唐突と言うわけでもなかった。

 そう、アンドレアスが私を養子として彼の家に迎え入れたいという話にはちゃんと前兆があった。


 まず私たちを捕虜の身から解放してくれたのは彼だ。

 そればかりか新居を準備し、魔法学校へ通う手続きまでしてくれていた。

 その点、彼は何かしらの恩を私たちに着せている。


 それにリウィアからの警告もあった。

 西部連合は有力な魔法使いを手ごまとして握りたい政治家がいること。

 それに魔法使い同士の家の繋がりを婚姻で結んでいるということも。


「養子、縁組……?」


 だけれど私の頭は真っ白で混乱していた。

 私はソフィアの講師室でその単語を呆けたように繰り返している。


「……ああ。一応お前の保護者は私になっているのだが、アンドレアスから正式な養子としてお前を迎えたいという提案があった」


 ソフィアはそう言い、狼狽えている私を心配そうに見る。


「断ることはできるだろうが、私たちはアンドレアスに借りがある。それが問題だ。何か別の形で借りを返すことを求められるかもしれない……」


「それはどういうことになる……?」


「それは分からない。アンドレアスが、西部連合が何を求めているのかの情報がない。まずは相手の話を聞くべきだろう。相手も即答しろとは言わないはずだ。考える時間はちゃんとあるだろう」


 私は不安が胸にぐるぐると渦巻くのを感じた。

 もし、無理やり養子になることになったらソフィアとは離れ離れになるのか?

 私はそんな人生は望んでいないのに……。


「リンクス。何かあれば私も対処する。ひとりで気を揉むな」


 ソフィアはそう言って血の気が引いて青ざめた私の手を握る。

 冷たい私の手にソフィアの温かい手が触れて、私は少し落ち着いた。

 私は息を整えて、ソフィアの方を見る。


「分かった、師匠。まずはアンドレアスから話を聞こう」


「ああ。アポイントメントを取っておく」


 ソフィアは私にそう言い、アンドレアスとの面会の約束を取りに向かった。

 アンドレアスの意図するところを理解しなければ、対策は立てられない。

 そうだと分かっていても、今の私には焦りがあった。



 * * * *



 それからアンドレアスとの面会の約束が取れた。

 面会は彼の屋敷で行われることになり、私たちは彼の屋敷に向かう。

 アンドレアスの屋敷はロンディウスの丘のひとつの上にあり、そこまでは彼の家が所有する4頭立ての馬車で向かった。


「リンクス。そう険しい顔をするな。喧嘩を売りに行くわけじゃないんだ」


 馬車の中でソフィアが私にそう声を掛ける。

 私は自分でも意識していたがきつい顔をしていたようだ。


「師匠の表情も硬いよ」


 しかし、そう指摘したソフィアの表情も決して穏やかなものではなかった。

 彼女もまた険しい表情をしている。


 私たちはアンドレアスの狙いを探るわけだが、話の内容によっては私はアンドレアスの養子となってしまう。

 それはソフィアとの別れを意味していた。

 私はそれだけは絶対に受け入れられない。


「……リンクス。どうあれど、お前はお前にとって一番の選択肢を選べ。それが私にとっても一番の選択だ」


「……うん」


 ソフィアはそう言い、私は頷く。

 私にとって一番の選択肢は、ソフィアといることだ。


 それから馬車はアンドレアスの屋敷に到着し、私たちはそこに迎えいれられた。

 実に豪華な屋敷である。

 広大な敷地があり、美しい前庭が私たちを迎え、他の建物と同じ白亜の建物の中に私たちは案内された。


 私たちはそんな建物の外装と同じくらい立派な内装の応接間に通され、そこでアンドレアスを待つ。

 応接間には異国のものだろう美しい敷物が敷かれ、ベルベットのソファーやマホガニーの美しいテーブルなどがおかれていた。


「やあ、お待たせしたね」


 そしてアンドレアスがやってきた。

 彼はにこにこと微笑み、私たちの向かいのソファーに座る。


「さてさて、ソフィア君、リンクス君。養子縁組の申し出を考えてくれたとか?」


 話を切り出したのはそのアンドレアスからだった。

 彼は笑みを浮かべたまま私の方を見る。


「まずは理由が知りたい。どうしてリンクスを養子にと?」


 ソフィアはそんなアンドレアスにそう尋ねた。

 彼女はきつい表情のまま、アンドレアスを睨むように見ている。

 私もアンドレアスを見る目は険しかっただろう。


「理由かね。シンプルに優秀な子供を養子にしたいというだけでは不十分だろうか?」


「ああ。話が突然すぎる。西部連合側に何かしらの事情が生じたとしか思えない」


 ソフィアはアンドレアスの言葉にそう指摘。


「……私の家は以前は多くの魔法使いを輩出していたのだがね。それが政治家に転向したことで、魔法使いたちの社会との繋がりが希薄になってしまった」


 ソフィアの指摘にアンドレアスはそう語り始める。

 アンドレアスの表情はゆっくりと笑みが消え、真剣なものになってゆく。


「しかし、西部独立を求めた一連の戦争で魔法使いはその価値を示し、今や戦争を完全に左右する存在になった。そんな魔法使いの中にはかつての私の家のように、政治家に転向するものもいる。彼らは今や有力な派閥だ」


「その派閥に取り入るためにリンクスを、と?」


「魔法使いも私たち政治家も婚姻で関係を結ぶ。彼らと確実に手を結ぶには、婚姻するのが手っ取り早い。だが、私の家にはもう魔法使いはおらず、魔法使い同士の婚姻が結べる状態にない」


 つまりアンドレアスは魔法使いの派閥を引き入れるために私が必要ということ。

 私を養子にし、魔法使いの家と婚姻することで彼らとの関係を構築するのが狙いというわけだ。


「……ならどうして最初に私たちを西部連合に引き入れたときに、その提案をしなかった? どうして今のタイミングでこの話を持ち出した?」


「三月教徒の反乱の件を知ってるかね?」


 ソフィアの問いに不意にアンドレアスはなぜか三月教徒の反乱を口にした。

 三月教徒の反乱は私も知っている。

 オドアケルが言っていた帝国南方での反乱だ。


「知っているが、それがどう関係する?」


「西部連合の通商にも被害が出ている。我々は帝国中央と協議の末に、三月教徒の反乱鎮圧のために軍を派兵することを決定した。魔法使いを中心とした小規模な部隊を派兵すると帝国中央には通知したのだが、彼らから注文が入った」


 そこでアンドレアスは私の方を再び見る。


「リンクスという魔法使いを派遣してくれ、とそう名指しで注文してきたんだ。その意味が君たちには理解できるのではないかな?」


「帝国中央がリンクスを……」


 ソフィアはアンドレアスの言葉に忌々しげに呟く。

 つまり帝国中央は私のことを知っているということだ。

 有力な魔法使いとしてか、あるいはさらに踏み込んで無詠唱の魔法使いとして。

 それはそのことを知るガイウス将軍が凱旋したことの証拠だと言えた。

 それ以外に他に理由は考えられない。


「やはり理解できるところがあるのだね。つまりは彼らが君たちに手を出す可能性もあるのだろう? 西部連合に招き入れた君たちに今さら帝国に手を出させるわけにはいかない。養子縁組はそのための安全策でもある」


 アンドレアスはそう言い、彼の意図する理由を説明した。


 ガイウス将軍が再び私たちに手を出そうとして西部連合に向けて私を派遣してくるように要請したならば、その手から守るために有力な政治家であるアンドレアスの養子になるというのは理解できる。

 ガイウス将軍は彼の組織しようとしていた魔法使い派閥のために、私たちを勧誘していたのだから。


「リンクス君を保護するためにも私の養子にしておきたい。そうすればそもそも派兵に応じる必要もなくなる。連合議員の娘を戦地に派遣しろなどとは、帝国中央とて無理な注文だと理解するだろうからね」


「リンクスを守るため、か……」


 ソフィアはそう呟き私の方をそっと見た。

 心配するようなそんな視線だ。


「考える時間は与えてくれるのだろう?」


「もちろん。だが、結論は急いでほしい。三月教徒たちは日に日に手に負えなくなっている。連合議会でも有力な魔法使いを派遣するとして、リンクス君の名が上がり始めているところだからね」


「……分かった」


 やっと手にしたと思った平和な日々。

 それはあっさりとなくなりそうになっていた。


……………………

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新連載連載中です! 「 不老不死のぼっち魔女、傭兵さんに攻略される。」 応援よろしくおねがいします!
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