最要は仲間
「よし、次はいよいよ訓練場。今はちょうど騎士団の連中が訓練してる頃だ。挨拶回りと行こうじゃん。」
セインはこの言葉を聞いて、ジールについて理解する。
本当に気が利く男だと。
セインは人付き合いが苦手だ。魔術学校にいた時は、生徒のほぼ全員に下に見られていたから。
セインのことを知らない人はいない。
ジールもそうだ。おそらく人付き合いが苦手なことも知っていたんだ。だから挨拶を一番後にした。
「わかった、ありがとう。」
セインは返事に感謝をつけ加える。
「おう。」
ジールは笑顔でそう返す。
訓練場は寮とは反対側にある。
騎士団拠点を挟む形で設置されている。
これも、いざという時に間に合わせるようにするためだろう。
そんな事を考え歩いていると、訓練場が見えてきた。
音が聞こえてくる。魔法の音だ。
おそらく炎系の魔法が爆発しているような音。
ジールにも聞こえているはずだが、顔色が変わってない。
この音は日頃から鳴っているんだろう。ジールはもうすでに慣れているんだ。
訓練場に入る。
周りを見渡すと、騎士一人一人が訓練をしている。
火球を的に打ち続けてる人もいれば、炎を武器の形に変形させていたり、複数人で一つの魔法を作り出していたり。
人それぞれでやる事はあまりまとまっていないが、全員が努力しているのが感じられる。
「よっ、グラン。調子はどう?」
「いつも通りだよ、ジール。」
「切れ痔のだよ。」
「そっちは最悪さ。」
ジールはグランと呼ばれた男と話す。
「ジール!団長は今どこにいるの?」
「多分、団長室だと思う。仕事中だと思うから行かない方がいいよ、カレン。」
「わかったわ、ありがとう。団長はいつも仕事熱心ね。」
「本当にね。」
次はカレンと呼ばれた女性と話す。
「よう、サボりか?バレット。」
「彼女と別れてナーバスなんだ。話しかけるな。」
「お前の浮気性が100悪いだろ。」
「それはそれ、これはこれ。」
今度はバレットと呼ばれた顔の良い男と話す。
「ドイル、魔法はどんな感じ?」
「いつも通りだ。」
「嘘つけ。少し弱くなってないか。」
「仕方ないだろ。今朝、竜狩りから帰ってきたばっかりなんだ。」
ドイルと呼ばれた屈強な男と話す。
「「ジール聞いて!またコイツが間違ったのに言いがかりつけてくんの!」」
「はいはい、2人揃ってうるさいよ。ミランダ、ミライア。」
「「あたし間違ってない!うるさいのもコイツ!」」
「仲良くしろって前にフレア様に言われてただろ。また叱られるぞ。」
「「それはやだー!」」
息が揃ったそっくりな双子の姉妹と話す。
それからもジールは、騎士団の人達ほぼ全員と世間話をし続けた。
対話能力が高い。フレアさんの言っていた通りだった。
それにしたって高いと思うが。
「それじゃ、みんな聞いてくれー!」
ジールは大声で、訓練場全体に聞こえるように言う。
その声を聞いた騎士達が、ジールの方を見る。
「新しい仲間だぜー。」
ジールがそう言う。
「よし、セイン。自己紹介よろしく。」
小声でセインだけに聞こえるように言う。
「わかった。」
セインもジールに聞こえるよう言う。
セインはちゃんと準備している。
だって、嫌われたくないから。
(焦るな、俺。ちゃんと名前と心意気と、あと趣味とか言う。)
セインは心の中で覚悟を決める。
「新しく焔騎士団に入団する事になりました!!名前はセインといいます!!騎士団に本気で努力するために来ました!!趣味は人助けです!!」
そう言うと、深く一礼。
ジールは隣で腹を抱えて笑ってる。
「趣味が人助けって、ふふ。」
カレンが笑う。
「「ブハハハ!あいつバカだ、ブハハハ!」」
双子は爆笑してる。
「ドイル聞いたか?途中まで良かったのに趣味言ったぜ。しかも人助けって。」
「ああ、面白い奴だな。あいつはうちの騎士にお似合いだ。」
2人で笑っている。
「面白いガキだな。シゴキがいが有りそうだ。」
グランがニヤリと笑ってる。
そんな中、セインは、
(やばい、ミスった……笑われてる。)
俯き、心の中で頭を抱えている。
「セイン!やっぱり最高だ、お前。」
ジールはセインの背中を叩き、笑いながら言う。
「え?」
内心ミスとしか思ってないが、違うみたいだ。
頭を上げ見渡すと、みんながセインを見てる。
セインのズレた言動を笑っている人がいれば、セインを見て期待を向ける人がいる。
少なくとも、指で差して蔑む人がいないのが気楽だったし、皆の第一印象が良かったみたいで嬉しかった。
そんな時、ドイルがセインに近づいてくる。
「セイン、良い自己紹介だった。焔騎士団に快く迎え入れよう。私はドイル。この騎士団の副団長をしている。」
「はい、ありがとうございます。」
「そう畏まるな、セイン。」
「はい!ドイル副団長!」
やっとスタートラインに立てた。それがすごく嬉しい。
そこでジールが前に出て場を仕切る。
「よし、訓練おわり!!セインに質問しまくって困らせよう、イェーイ!!」
なんて奴だ、この男は。
「おいおい、勝手に訓練を終わらせるなよ、ジール。」
バレットが言う。
「さっきまでナーバスがなんとかとか言ってサボってた奴が言うなよ。」
ジールがつっこむと、バレットは笑い、
「なら仕方ねぇや。今日は終わりだ。」
と言う。
「おいおい、ガキども。何仕切ってやがんだ。」
グランが凄む。
「まず俺が一番に質問だよ、ガキども。」
一瞬でふざけた笑顔に変わり、ふざけた言葉を言う。
「「年功序列サイテー!ふざけんなジジィ!」」
ミランダとミライアが、ある意味子供らしい口調で抗議する。
「なんだと、ガキ2人。ジジィ舐めんなよ。」
グランも子供みたいに反論する。
「ミランダ、ミライア。それとグランさんも意地汚いですよ、全く。一番に質問するのは私です。レディファーストです。」
カレンが3人を宥めると思いきや、ちゃっかり一番をとる。
そんな光景を見て、セインは個性豊かな人達なんだなと思う。
これから一緒にいて楽しい生活ができると考えたら、舞い上がるような気持ちだった。
「全員静かに。まず私の言葉を聞け。」
ドイルが仕切る。
みんな、それを聞こうと黙る。
「副団長権限で、私が最初に質問だ。」
結局この流れだった。
「ドイル、ふざけんなー!!」
「「副団長辞めちまえ!」」
「ドイルさん、失望です。」
「やんのかガキー。」
たくさんの反対の声が聞こえる。
そんな時、
「うるさいぞー!!貴様ら、訓練はどうした!!」
フレアが訓練場に来て、早々に叫ぶ。
セインに集まっていた人だかりは一瞬で散り、
まるで何事もなかったように訓練に戻る。
セインはそれを見て、
(切り替えはやっ。)
と思った。
フレアはセインに近づき、
「なんでこんな事になっている。」
圧が凄い。
完全に怒ってる。
声が怖い。
セインは素直に言う。
「ジールがみんなのこと煽てました。」
全てを擦りつけたのだ。これが最適解だと信じて。
ジールを横目で見ると、青ざめていた。
「は?ちょ、待て。違います、フレア様。本当に違います。俺、悪くないです。」
「全員答えろ。ジールが煽てたのか。」
ドスの効いた声で、訓練場の全員に聞く。
「「「はい、そうです。」」」
騎士の全員が同じことを言う。
ジールの顔がさらに青ざめる。なんなら目の焦点も合ってない。
「フレア様、確かに煽てましたが、それに乗るみんなが悪いと思います。」
ジールも必死に言い訳を述べ、そして全員に擦りつける気だ。
「ジール、私と約束しただろう。訓練の邪魔をしないと。お前は調子に乗りやすいから、何度も厳しく言っただろう。後で私の部屋に来い。」
セインはジールを見る。
ほぼ死にかけみたいな顔している。
「ほんとにアレだけは嫌です、やめて、いやぁぁぁ!!」
びっくりするほど叫んでる。
アレと言うものはわからないが、きっと凄いものだろう。
みんなの為に死んでくれてありがとうと、セインは思った。




