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感動の再会と、兄妹喧嘩

グラディオンの市街地を抜け、俺たちは巨大な石造りの収容施設へと足を踏み入れた。

壁には緑色の苔がへばりつき、等間隔に配置された鉄格子の窓からは冷たい雨風が吹き込んでいる。

薄暗い通路の先には、重厚な鉄の扉が立ち塞がっていた。

「ここから俺が開ける」

アランが扉の前に立ち、鍵穴に手をかざす。

彼の掌から淡い光が放たれ、カチャリと小気味良い音を立てて頑丈な錠前がいとも簡単に外れた。

「本当に開いた。まさか俺がこれほどの解錠スキルを持っていたなんて」

自身の手を見つめて驚くアランに、セレスティアが微笑みかける。

「だから言ったでしょう。殿下は優秀なのだから自信を持ってください」

扉の先はさらに暗く、迷路のように入り組んだ地下牢が続いていた。

俺はサルコフを着込み、周囲の気配を探りながら先頭を歩く。

「エリス様、足元に気をつけてください」

「はい、レオン様。なんだか空気が淀んでいますね」

エリスが俺の腕にしっかりと掴まりながら頷いた。

その直後、足元の石畳が微かに沈み込んだ。

罠だ。

壁の隙間から無数の毒矢が飛び出し、俺たちを襲う。

英雄王サルコフの黒い筋肉が俺の体を覆い尽くし、巨大な肉の鎧となって皆の前に立ち塞がる。

矢は分厚い肉の壁に次々と突き刺さり、誰一人として傷つけることはなかった。

だが、矢に塗られていた紫色の液体が肉の鎧を浸食し、強烈な痺れと悪寒が俺の生身の体まで伝わってくる。

「レオン。毒と、それに呪いも受けているわ」

セレスティアが鋭く指摘する。

俺の体が重く沈み込み、膝をつきそうになったその時、アランが駆け寄ってきた。

「任せろ。解毒。そして解呪」

アランが俺の体に手を触れ、清らかな光を流し込む。

先ほどの解錠と同じように、低いレベルのスキルであっても、その効果は的確に発揮された。

体内に回っていた毒は霧散し、呪いの重圧も嘘のように消え去る。

「助かりました、アラン王太子殿下」

「いや、俺のほうこそ助かった。お前のその肉の盾がなければ全滅していた。次も頼むぞ」

アランの顔にはもう迷いはなかった。

自分が持つ『天稟』のスキルの性能に気づき、それを使いこなす王族としての誇りが芽生え始めている。


その後も、通路には炎を吹き出す罠や、幻覚を見せる結界が張り巡らされていた。

物理的な攻撃や罠は俺がサルコフの肉の鎧で全て受け止め、状態異常や結界の解除はアランが次々とこなして、俺たちは施設の最深部へと到達した。

一番奥にあるひと際大きな鉄格子の中に、一人の少女が蹲っていた。

栗色の髪は泥と埃で汚れ、素朴な顔立ちは疲労でひどくやつれている。

だが、その目には決して諦めない冒険者としての強い意志の光が残っていた。ステラだ。

「ステラ」

アランが呼びかけながら鉄格子に駆け寄り、解錠のスキルで扉を開け放つ。

「アラン様。どうしてここに」

ステラが信じられないという表情で立ち上がった。

「お前を助けに来たんだ。遅くなってすまない」

アランはステラの細い体を力強く抱きしめた。

ステラもアランの背中に腕を回し、声を出して泣き崩れる。

「もうダメかと思いました。でも、アラン様が必ず来てくれるって信じていました」

感動的な再会だ。

アストレア戦記の主人公と、彼女に惹かれる王太子の絆がさらに深まった瞬間だった。

「ステラ……お前のおかげで、俺は新たな力に目覚めることができた。お前を救うために、力を手に入れたんだ」

「アラン様……私のために……?」

更に抱きしめ合おうとする二人に、エリスが割って入った。

「お兄様、今の言葉は聞き捨てなりません。訂正してください。お兄様の力を目覚めさせてくださったのは、幼い頃からお兄様を見ていた、セレスティア様の言葉です」

「いや、俺はステラを助けるために、勇気を出して……」

「セレスティア様の叱咤激励がなければ、戦場で帝国軍に投降していたのではないですか? セレスティア様はどんな状況でもお兄様の力になることを考えてくださっているのに、その気持ちを蔑ろにするのは、間違っています。先ほどの言葉、訂正して謝罪し、今一度セレスティア様との関係を見つめなおしてください」

アランはエリスを睨みつけて、叫んだ。

「貴様に何がわかる! 心から愛する人がいるのに、国や家のために諦めなければならない! 感情を殺して、望まない相手と結婚しなければならない! この苦しみもわからずに、勝手なことを言うな!」

牢に声が響き、また静寂が訪れた。

「いや、わかっているからこそか。俺がセレスティアと結婚しないとなると、お前はその男と結婚しなければならないからな。エリスよ、お前は俺のために言っているのか? 自分のために言っているんじゃないのか?」

「……私は……!」

「殿下、それ以上は許しません」

エリスが答えるより早く、セレスティアは冷ややかな声で言って、ブーツの先でアランの尻を容赦なく蹴り上げた。

「痛っ。何をするんだ、セレスティア」

「それ以上エリス様に何か言うなら、本当に許さない。それだけです。ここは敵陣の真ん中で、囲まれたらおしまいです。さっさと逃げましょう」

セレスティアの言葉に、アランは渋々立ち上がり、ステラの手を引いた。

「わかっている。行くぞステラ」

「はい。ありがとうございます、エリス様、セレスティア様、レオン様も」

ステラが俺たちに向かって深く頭を下げる。

俺は無言で頷き、再び先頭に立って出口への道を急いだ。

外へ出ると、冷たかった雨はすでに上がり、分厚い雲の切れ間から一筋の光が差し込んでいた。

水たまりが光を反射し、グラディオンの黒い城壁を明るく照らしている。

包囲していた王国軍は、エリスの祈りとカティアの指揮によって見事に帝国軍を牽制し続けていた。

アランとステラの無事な姿を確認すると、兵士たちから地鳴りのような歓声が上がる。

「王太子殿下を救出した。これより全軍、王都へ帰還する」

カティアの凛とした号令が響き渡り、王国軍は一斉に反転を開始した。

帝国軍は深追いしてくる気配はない。

こうして、不可能と思われたアラン王太子救出作戦は、誰一人欠けることなく無事に終わりを告げた。

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