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野郎元気で馬鹿が良い~兄と妹のすれ違い日記~  作者: 宮比岩斗
義妹の日記

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10月24日(水)

  久しぶりに高校へ赴いてみた。一ヶ月ぶりだったから皆びっくりするかなと仕掛けたいたずらの成否にワクワクする子供のような気持ちだった。


 けれど期待に反して、皆の反応は普通だった。


 教室に入ったあたしに目を向けると大して驚きもない顔で「おー久しぶりー」と言葉をパスして、また元の会話に戻っていった。皆が皆そのような調子だった。解せなかった。


 荷物を置いて、一ヶ月ぶりにいつもつるんでいたメンバーのもとへ移動する。みんな、朝に強いらしくあたしが登校する時間には揃っていた。


 彼女らも大して驚きもない顔であたしを出迎える。まるで一ヶ月間休んでいたことなどなかったかのように。


 彼女らにそのまるで変わらない態度はなんなのだ、と訊いてみた。すると、ブラコンのあたしがいつ帰ってくるか、どんな顔で帰ってくるか、恋は成就するのか、なにか事件に巻き込まれていたら面白い、などとあたしを肴にこの一か月盛り上がり過ぎて、毎日繰り返した結果飽きてしまったとのことだ。


 なんだそれは。


 ちなみに行き過ぎた結果、母親世代に生息していたというヤマンバギャルになって帰ってくると予想されていた。だからいつも通りの姿で帰ってきたから冷や水をかけられたように相手にされなかってというわけだった。


 なんだそりゃ。


 むしろ先生たちの方が良いリアクションをしてくれたまである。


 そんな不完全燃焼な登校を終えて帰宅する。お母さんがいつもとは違う様子で出迎えた。怒るわけではなさそうだったけど、真剣な顔で「大事なお話しましょ」と靴を脱ぎ捨てたあたしに言ってきた。


 部屋着に着替えてからリビングに降りる。そこでテーブルを挟んで向かい合わせに座り、お母さんは今回の経緯についてあたしに二、三確認する。


 お母さんはあたしに興味のない人間だからこんな質問をされることに少しばかりドキドキした。今朝とは違う心臓によろしくない鼓動の仕方だった。


 お母さんは質問してから少し考え込んでいた。その空白に耐えきれずあたしはお母さんにこの話はどういった意図を以てしているのか問うた。


 お母さんは気怠げ。見る人が見ればアンニュイと好意的な印象に取られかねない仕草。例えば父など。そんな態度でお母さんは答えた。


「お義母様がね、嫌っているはずの私に弱い姿を見せたの。自分が殊勝な人間じゃあないのは理解してるけど、だからといって弱ってる人を見捨てるほど薄情な人間でもないし、常識的に手助けするぐらいはするわ。あなたとお兄ちゃんがあたしのことどう思ってるか知らないけど」


 魔性の女だと思ってる。


 そう言ったらお母さんは「客観的に見れば事実ね」と自画自賛しそうで腹立たしいから言わないでおいた。


 こちらから、どうしたいのかと尋ねてみた。


「私は後ろめたくないようにしたいの。だからあなたにふさわしい教育もするし、前妻の忘れ形見も邪険にしてない」


 これには驚いた。特に兄貴に関わる方。大学に行かせないのは両親が相談して決まったからではなかったのか。


 お母さんにそれを追求したら「お父さんがあなたを優先させるって勝手に決めて勝手に言い出したの。私だって驚いたのよ」と困ったように微笑んだ。


 それからゆったりとした所作で机の上に手を置き「でもお兄ちゃんが学費をお義母様に工面してもらったおかげであなたがどんな道に進もうと援助できるようになったわ。あなたはどうしたいの?」


 あたしは二つの道で迷っていることを伝えた。


 そしたら「十一月五日までに決めなさい」と期日を定められる。それはたしか最高学府の願書締め切りギリギリの日付け。つまり、二つの道のうち片方の詳細を詰めたということ。あとはどうするか決めるだけ。


 続けて母は言った。


「期日まではなんでも協力するわ。お父さんにも言って聞かせてあげる。好きになさい」


 やはりお母さんはよくわからない人だった。あたしと同じく自分の理を何より重視しているのはぼんやりとわかったけれど、その理があたしには腑に落ちないものゆえよくわからなかった。


 あたしが男だったら間違いなく薄気味悪い女とぶった切っている類だった。


「お父さんはこれのどこが良かったんだろう」


 そんな言葉がついて出た。


「ミステリアスな女はモテるのよ?」


 ますます父のことが嫌いになりそうだった。

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