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期待なんか



「あの……聖女様。こ、これが聖剣……なんですか?」

「もちろん、そうですよ? 見れば分かるでしょう」


 いつの間にか、聖女様は薄笑い――隣に並ぶラザニアとまるきり同じ表情だ――を浮かべていた。

 え、ええ~……?


 困惑したまま、俺はこの禍々しく邪悪っぽい剣を見やった。

 うーん。

 とにかくひたすらデカいし、分厚いし、そこらじゅうトゲだらけだし……。

 確かに、そんじょそこらのモンスターにゃ負けそうにないけど。

 でも、これじゃあ、聖なる剣ってよりは、むしろ――


「ああ、そうそう。言い忘れてましたけどね」


 不意に、聖女様が妙に朗らかな調子で口を開いた。


「実はですね。女神さまの絵本って、二種類あるんですよ。原典に忠実に書かれたものと、難しいエピソードを省いた子ども向け版の。あなた、それ、知ってましたか?」

「へっ!? そ、そうだったんですか!?」

「で、まあ、恐らくあなたが読んでいたのは後者なのでしょう。本題はここからなのですけど」


 ほへー。

 い、今の今まで、全く知らなかった……。


「先程述べた、前者――原典に近い方じゃ、あなたの仰られていた話には、もう少し続きがあるのです」

「続き、ですか……?」


 どんどん話が進んでいくけど、何が何やらさっぱりだ。

 ぼさっとする俺をよそに、彼女は唄うように言葉を連ねた。


「“己が身をも脅かしかねない聖剣の絶大な力を危惧した邪神は、人間を強襲し、聖剣の片割れを奪い取った。そして――”」


 そこで、一度言葉を切り――

 かなりハッキリと俺への侮蔑を現しながら、聖女様は言った。



「――“邪悪なエネルギーに満たされた最悪の魔剣に作り変えたのち、人間を嘲笑うかのように我らのもとへ返したのだ”、と」



 さ……最悪の魔剣、だって!?


「ち、ちょっと待って下さい、それって、もしかして――」


 今!

 俺の目の前に放っぽかれてる、この剣こそが!

 邪神に改造された、元聖剣の現魔剣、ってことなのかよ!?

 そう叫ぼうとする前に、彼女が答える。


「まあ、あなたのご想像の通りだと思いますよ。だいじょうぶですって。特に性能のテストとかはしてませんけど、腐っても元は聖剣なワケですし」

「そ、その腐ってるってことが、いちばんの問題なんですってばー!」


 どうにかならないんですかっ!?

 激しく訴えかけるけれど――


「んなこと言われましてもねえ。邪神の手で改造されたものを、人間の私たちが元に戻すなんて不可能ですし」


 こんな具合に、とりつく島もない。

 そ、そんなあ。

 幾ら何でも、横暴すぎるぜ、こんなの!

 更に食って掛かろうとして――ぽん、と肩に手を置かれた。

 その主は――ラザニアだ。


「おいおい、それ以上聖女様の手を煩わせるなよ、トルテくん」


 彼はそのまま、心底面白がってる感じの声を俺へぶつけてくる。


「いいかい、よく考えてみろよ――彼女の肩には、人類最後の砦たる王都の統治という重責が圧し掛かっているんだぞ? だのに、見た目がイヤだのなんだの、ゴチャゴチャと……一体、君はどこまでワガママなんだい?」

「ん、んぐっ」

「だいいち、その剣が強いか弱いかなんて、使ってみなきゃ分からないだろう。外見の良さでモンスターは倒せないぜ?」


 い、いや、俺が不満なのは、強さとか、そういうんじゃなくって!

 確かに、ラザニアの言うとおりだけどっ!


 だけど……と、魔剣を手に取ってみる(意外と重たくはなかった)。

 やっぱり嫌だよ、俺だけこんなみっともないの!

 って、言おうとしたんだけど……。


 ラザニアと聖女様の、ニヤニヤ笑いを直視してしまって。

 とうとう、気持ちがへこたれてしまった。


「……分かりました、聖女様。よけいなことばかり垂れちゃって、ごめんなさい……」


 きっと、これ以上言ったって、余計にバカにされるだけだろう。

 だったら、黙って我慢してた方がいい。

 何か余計なことを言って傷付けられるより、ずっとマシだ……。


 畜生。

 悔しくって、涙が滲む。

 人間、そんな簡単に変われやしねえんだ。

 こんなことなら、くだらない期待なんかするんじゃなかったっ。


 ――すっかりおとなしくなった俺に、聖女様はどこか満足げな声を出した。


「物分かりのいい子ですね。――さあ、これで準備は整いました。いよいよ、邪神討伐を始めましょうか!」

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