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元カノ幽霊登場

この作品は一話一話がやや短くなっております


今後は月に2回程度の更新となります

関東地方のある県の田舎の国道を走る一台のクルマ、そのクルマには若い男女が乗っていた。


運転しているのは三宅誠、24歳の会社員である。今走っている田舎道から30分くらい走った所にある地方都市に住む会社員である。


助手席に座る女は野上晴香、こちらも24歳である。


二人は大学の同期であり、学生時代からの恋人同士である。就職してからは会社は別であったが、同じ街の会社に就職出来たので恋人関係は続き、そろそろ結婚も考え始める時期であった。


この日曜日は住んでいる街からクルマで2時間くらいの場所にある山にハイキングに行った。誠と晴香は自然を満喫し夕方に街に向けて帰途についた。


1時間以上クルマを走らせていると、あたりは真っ暗になり、空には無数の星が輝いているはずだが、クルマの中からは見えない。


「晩ごはんどうする?」


助手席から晴香が誠に声をかけた。


「どうしようかな……」


誠はファミレスにでも寄るか、スーパーで買い物をして自分か晴香の住むアパートで晴香に料理を作ってもらうか迷った。


「どうしようか……」


考え事をしながらハンドルを操っていた誠は、クルマが進む道の先が急カーブだと気付いていなかった。


「まったく、優柔不断だね。いつもの事だけど」


晴香が皮肉を言うが、誠の優柔不断は学生時代からの事なので、今さら腹が立つような事はない。


「ごめんよ。ファミレスに寄ろう、決めた」


誠が晴香の方をチラリと向いて言った。


「ウッ!!」


顔を前に向けた誠の目の前にガードレールが迫っていた。誠はブレーキを踏みながら精一杯ハンドルを切った。


しかし、ブレーキを踏むのも、ハンドルを切るのもあまりにも遅すぎた。


クルマは助手席側から激しくガードレールにぶつかった。クルマは助手席側のドアが大きくへこみ、助手席に乗っていた晴香はシートベルトをしていたため、車外に投げ出される事はなかったが、助手席にぐったりとして呻き声をあげていた。


誠は膨らんだエアバッグで顔面を強打したものの、他に傷めた箇所は無いようで、自力で運転席から車外に出た。周囲を見渡しても他のクルマも人家の明かりも見えない。


誠は119番で救急車を手配してから110番に通報した。そして、クルマに残っていた晴香の所に行った。


晴香は相変わらずシートベルトで座席に縛り付けられたまま呻き声をあげていたが、誠には動かす事は出来ず、ひたすら救急車の到着を待った。


数分後に救急車が到着し、救急隊員によって晴香はクルマから救出された。運ばれて行く晴香は目を開いていた。誠は晴香に駆け寄った。


「誠……化けて出てやるから」


晴香は重傷で体のあちこちが痛むはずであるが、普段と変わらぬ嫌みを言った。


「そんな嫌みを言えるなら死なないから」


俺は晴香に言い返し、晴香はそれに静かにうなずいて救急車に消えて行った。


誠は事故現場に残り、警察による聴取を終えてから消防署に電話して晴香が運ばれた病院を尋ねてからタクシーを呼んだ。タクシーで病院に急行した。


病院で誠を待っていたのは晴香の死であった。


それから四年、誠には色々な事があったが、変わらず同じ街で暮らし同じ会社に勤めていた。ただ、あの事故以来クルマの運転はしていなかった。事故がトラウマとなり、クルマに乗る事は出来ても運転が出来なくなっていた。


四年経っても恋人を死なせてしまった誠の心の傷が癒える事はなかったが、それでも少しずつ前を向いて進み始めていた。


28歳になった誠に四年ぶりの恋人が出来た。


今村樹里21歳、誠が通う歯医者で歯科衛生士をしている女性である。歯の治療中、医師の助手をしていた樹里が誠の手に何かを握らせた。


何事かと樹里を見るが、樹里は決して視線を合わせなかった。治療が終わって、手に握っていた物を確認すると、それは紙切れで携帯電話の番号とメールアドレスが記されていた。


樹里は自分の携帯番号とメールアドレスを誠に握らせていたのである。誠がその番号に電話をかけた事により二人は恋人同士になった。


そして、初めてのデートの約束を取りつけ、いよいよ明日がその当日である。誠はアパートでベッドに寝転がり、樹里の事を思い浮かべていた。


樹里はかつて恋人だった晴香とは正反対の女性だった。


しっかり者で気の強い晴香に対し樹里は大人しく控えめだった。見た目も美人で誠より年上に見えた晴香とは対照的に、可愛いタイプで21歳ながら高校生に間違えられそうな樹里。


晴香とは全く違うタイプの女性だから、誠は付き合う気になれたわけである。誠は晴香の事を引きずってはいるが、それでも前に進む気にはなっていた。樹里との初デートはその第一歩となるはずである。


デート自体久しぶりなので、まるで初めて彼女が出来た時のような新鮮な気持ちが沸き上がり、ベッドに寝転んだままワクワクする心の高ぶりを抑えられずついニヤニヤしてしまう。


(28にもなって、あんな若い子と……)


いわゆる、ロリ系である樹里の姿を想像してニヤニヤする誠の心の中から晴香の姿は消えていた。


(晴香、僕は前に進むよ。じゃあね)


誠は心の中で晴香に別れを言った。いよいよ、心の中で生かされ続けていた晴香が天国に旅立つ時が来たと誠は実感していた。


「誠、そうわさせないわよ」


どこからともなく聞こえて来た声に誠はベッドから飛び起きた。


「この声……」


誠は聞こえて来た声に聞き覚えがあった。


「久しぶりね」


ベッドに腰掛ける誠の前に立っているのは紛れもなく四年前に死んだ晴香だった。


「晴香、死んだはずなのに、どうして……」


誠は夢でも見ているのかと思った。


「夢や幻じゃないわよ。私は現実にここにいるもの。ただし、私が誠に触れる事も、誠が私に触れる事も出来ないし、私の声は誠以外の人間には聞こえず、誠以外の人間には私が見えないけどね」


晴香はブラウスにスラックスという仕事に行くかのような服装であり、まるで会社帰りに立ち寄ったかのような雰囲気である。しかし、晴香が既に死んでいるのは確かなのである。


「晴香、いったいどうなってるんだい?」


誠はなぜ晴香がそこにいるのか理解出来ない。


「私言ったわよね。化けて出てやるって……だから、幽霊になって来ちゃいました」


晴香が意地悪そうに笑いながら言った。


「マジで化けて出るやつがあるか!」


誠は嘆いたのだが、晴香が既に化けて出ていては今さら文句を言っても手遅れである。


「そういう事で、これから誠のそばに居させてもらうからよろしく」


晴香は幽霊になっても性格は変わっていないようである。誠は心の中で苦笑いしていた。


「しかし、とうとう新しい彼女が出来たんだね。まぁ、じっくりて誠の新しい彼女とのお付きあい、拝見させてもらいましょう」


晴香がニヤニヤしながら言った。


誠は頭を抱えた。幽霊とはいえ元カノに見張られながら別の女性と付き合わなければならない、いったいどうなってしまうのだろうか、誠はただ呆然とするしかなかった。

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