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朝のドタバタ劇

朝7時、誠は目覚まし時計をセットした時刻よりも30分早く起床した。


樹里との待ち合わせは9時だから、まだ時間には余裕がある。


誠が予定より早起きしたのは、別にワクワクしているからでも緊張しているからでもない。


昨夜、突然現れた死んだ元カノの晴香の幽霊が7時ちょうどに「起きろ!」と誠の耳元で怒鳴ったからである。


「あぁ……やっぱりいるのか……」


晴香を見た誠の第一声がこれだった。誠は昨夜の出来事は全てが夢で、朝起きてみたら晴香の幽霊など影も形も無いのではないかと思ったのだが、それは自力で起きる前に打ち砕かれてしまった。


「せっかく死んだ元カノが幽霊になってまで会いに来てあげたのに、その言い方は何よ」


ムッとした表情で晴香が言った。


「いや、その、何と言うか……とりあえず、トイレ」


誠は返答に窮したのもあるが、寝起きで尿意をもよおしていたのでトイレへ逃げ込んだ


。誠が返答に窮したのは、幽霊の晴香に対し、居てもらっては迷惑だと言うのも気の毒だし、よく来てくれたと喜ぶ気にもならない、幽霊とはいえ晴香を傷つけたくないのである。


(まぁ、とりあえず小便してスッキリしよう)


誠はパジャマのズボンの前をずり下ろし、息子を出してから小便を放出しようとした。


「わぁ…男性がオシッコするとこなんて始めて見るわ」


突然、後ろから声を掛けられた誠は反射的に息子をズボンの中に保護した。


「おい!……え?」


大声を出しながら振り向いた誠は驚愕した。てっきり、晴香がトイレのドアを開けたのかと思ったのだが、振り向いて後ろを見ると閉まっているドアから晴香が上半身だけを除かせて誠の肩越しに覗き込んでいたのである。


「どうなってんだ?」


誠は晴香が幽霊だとは理論的には理解しているが、目の前の光景が物理的に理論出来なかった。幽霊とはいえドアを突き抜ける事など出来るのかは誠は知らない。


「とにかく出てくれ」


誠は晴香を押し出そうとした。


「あれ?」


晴香を押し出そうした誠の手は晴香の体を通り抜けてしまった。


「だーかーらー、私は幽霊だって言ってるでしょ。思念体であって物体ではないの。わかる?」


晴香が呆れたようにため息を吐きながら肩を竦めて言った。


「クソッ!幽霊じゃなくてストーカーじゃないか、いや、ストーカーよりタチが悪い」


誠がイラついた表情で晴香に言った。


しかし、尿意は我慢出来ない。


「晴香、せめて目を閉じてくれないか」


誠は両手を顔の前で合わせた。それを見た晴香はやれやれといった様子で目を閉じた。


晴香が目を閉じたのを確認した誠は便器に向かい放尿し始めた。


「おぉ、よく出るわねぇ」


目を閉じていたはずの晴香がいつの間にか目を開けて、誠の真上に浮かびながら放尿する様子を眺めていた。


「私が目を閉じろと言われて、素直に言いなりになるような女ではない事くらいわかってるでしょ」


晴香は誠の大事な部分を観賞出来てご満悦という様子である。


誠は一度出し始めた尿を止めるわけにもいかず、晴香に観賞されながら最後まで尿を出し切ってから息子をしまい込んだ。そして、荒々しくトイレのドアを開け閉めしてから、ドスドスと居間に戻った。


晴香は閉められたドアを通り抜けて、宙に浮かびながら居間にやって来た。


「あらあら、怒っちゃったかな?」


晴香は苦笑いしながら誠の周りを浮遊している。誠としては、周りをうろちょろされては落ち着かない。


「浮遊するな!落ち着かないだろ」


「はーい」


誠に怒鳴られた晴香は床に座る誠のすぐ隣にちょこんと腰掛けた。


「とりあえず、僕は朝ごはん食べるから。晴香は何か食べる?」


「幽霊はお腹空かないから」


誠は晴香から自分は思念体であると聞いてはいたので、食事は不要だとわかってはいたのだが、自分だけ食べるのは申し訳なくて食事が必要か声をかけておいたのである。


独身男子の朝ごはんだから大した物はない。食パン二枚を焼かずにジャムを塗ったのをインスタントコーヒーで流し込むだけである。


「何よ、そのショボい朝食。私が生きてた頃だったら、そんな朝食は絶対に許さなかったのに……それに、寝床を畳んでテーブルも出さずに床に皿を置いて食べるなんて」


誠は布団の上にあぐらをかいて、その脇に食器を置いて朝ごはんを食べていたのだが、誠の横に体育座りをして見ていた晴香が、言わずにはいられぬといった様子で詰問した。


確かに、晴香が生きていた時は、誠が住むこのアパートから徒歩数分の場所に晴香がアパートを借りて独り暮らしをしていたため、毎朝晴香が誠のアパートに来て朝ごはんを作り、二人で朝ごはんを食べてからそれぞれ出勤するという生活スタイルだった。


「独身男子の独り暮らしの朝ごはんってのは、こういうのが普通だから」


誠は自炊も出来るのだが、朝はご飯を炊いたり、おかずを調理するのがめんどくさいので、つい楽をしてしまう。


「誠の今カノは朝食を作りに来てくれないの?」


晴香が朝ごはんを食べ終わり、食器を台所に持って行った誠に尋ねた。


「今日が初デートなんだから、まだ朝ごはんを作りに来るとかいう段階じゃないし」


「ふうん、まぁ、私みたいな誠に甲斐甲斐しく尽くす彼女なんて、そんじょそこらにはいないわね。誠は惜しい人を亡くしたと思うわ」


「自分で言うな」


晴香は生きていた時の頃と性格は変わっていない、というか、更に気が強くなっているようにすら思える。


「初デートか……楽しみだわ」


先ほどまでは座っていたが、再びフワフワと室内を浮遊しながら晴香が意地悪な笑みを浮かべた。


「まさか、君も付いて来るつもりか?」


誠が驚いて尋ねた。


「だって、ずっと誠のそばに居たいもの。じっくり拝見させていただくわ」


「デートまで付いて来なくても……まぁ、来るなと言っても来るんだよな?」


誠は晴香の性格をよく知っているので、もうお手上げである。


「私はあなた以外からは見えないし、他人は私に気付く事はないから気にしないでいいわよ、フフフ……」


晴香は部屋の中を浮遊しながら満面の笑みを誠に見せた。


そんな晴香を見ながら、誠はため息を吐くしかなかった。

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