決意と決断と幸せ
「おはよう沙彩」
母に起こされたけれどまだ眠い。昨日いろいろ考えていて睡眠不足だ。
「おはよう、お母さん」
決めた事を話さなければ。
「お母さん、私ね昨日考えたんだけれど…タクトさんが他の人と家族になるのは嫌なの」
「タクトさんが好きなのね」
「うん。グレスク町へ一緒に行きたい」
「そう」
私は昨日考えた事を母に話した。自分の決意を聞いてもらいたかったから。
「お母さんも一緒にグレスク町に行こうよ」
母と離れるのは寂しいから提案したのだけれど
「私はここに残るわ」
母に断られてしまう。
「どうして?」
母と一緒に行きたい。
「沙彩と離れるのは寂しい。でも、嫁に出す娘についていく事は出来ないわ。沙彩は沙彩の家族の形を作っていくのよ」
「でも、でも…」
母の言う事はわかる。でも、離れたくない。
母が私の頭をぽんぽんと軽く叩いて
「馬車で1日の距離よ。会いたくなったらすぐに会えるわ」
と言う。
私は小さく頷いた。
「さあ、朝食を食べに行きましょう。タクトさんにはいつ返事をするの」
「うん。タクトさんに会ったらすぐに言うつもりだったんだけれど、お母さんと離れるなら…」
「そんな事で断ったら後悔するわよ。よく考えたんでしょう」
「うん。そうだね。お嫁に行くんだからお母さんと一緒だと可笑しいよね」
「そうそう」
二人で朝食を食べるために食堂へ向かった。
仕事の時間になった。タクトさんの執務室に向かう。ドキドキする。
トントントン、執務室の扉をノックすると中から
「どうぞ」
とタクトさんの声が聞こえた。緊張する。
「おはようございます」
執務室へ入るとタクトさんが机に向かっている。
「ローランさんはいないのですか」
「今は兄上のところだな」
今執務室はタクトさんと二人っきり。話すなら今だよね。頑張れ私。
「あ、あの。昨日の件ですが」
私が話し出すとタクトさんが顔を上げてこちらを見る。恥ずかしい。
「あぁ」
タクトさんがじっと見てくる。心臓がばくばくしてきた。
「あの…一緒にグレスク町へ連れて行ってください」
言った。きっと私の顔は真っ赤だ。
ガタン
音がしたのでタクトさんを見てみると立ち上がってこちらに来て肩を掴まれた。
「それは、私と婚姻してくれると思っていいのか」
「はい。よろしくお願いします」
私が答えると
「ありがとう」
と言って抱きしめられた。
ひぇぇ。心臓が凄いばくばくを超えてどくどくしている。
「父上に報告してくる」
急にタクトさんが言い出して部屋を出て行った。
はあぁ
大きく息を吐いてソファに座ったけれどなんだかまだ心臓が早い。
先程の事を思い出してちょっとにまにましてしまう。部屋に一人で良かった。
少ししてタクトさんが伯爵が私も来るようにと呼ばれたと戻ってきた。今度は二人で伯爵の執務室へ向かう。
執務室へ入ると伯爵家の皆さんが揃っている。
伯爵、大奥様、トーリさん、若奥様、坊ちゃんは寝ているので預けているそう。母もいて私を見てにこにこしてうんうん頷いていた。
誰一人反対は無く、クロナン邸から私がいなくなる事を残念がってくれた。皆に祝福してもらいとても嬉しい。
伯爵やトーリさんは忙しいはずなのに一緒に話をしていた。
奥様は10日ほど後に帰ると聞いていたのだけれど6日で帰られた。伯爵の出した手紙を読みタクトさんのことを知り早馬で帰ってきたそうだ。
帰ったそうそう私は奥様に抱きつかれた。
「タクトをよろしくね」
の言葉と共に。
グレスク町へ向かう前日、私は母のベッドに潜り込み話をしている。日本の事やこちらに来てからの事、話は尽きない。
「お母さんと離れてしまう事は受け入れた。私はタクトさんと家族になるけれどお母さんはここで一人になってしまうから心配」
私は一人になる母が心配になってきた。
「大丈夫よ」
母は明るく言う。
「本当に?」
やはり心配だ。
「内緒にしていたけれど、サントロさんからプロポーズされているのよ」
「…はぁぁぁ…なにそれ」
明日には別れると言うのに何を言っているんだ。この人。
私が怒った事に気がついたのか母が言い訳をし始めた。
「グレスクの砦でサントロさんの看病をしていたでしょう。その時にね」
何が ね よ。
「落ち着くまで保留にしてもらっているのよ」
「ほ、保留って何よ」
「お受けするのだけれど時期は待ってねって言う感じよ」
「何考えているのよ」
「沙彩が結婚するまでは沙彩と一緒にいたかったからよ」
「うっ…サントロさんはそれでいいの」
「良いって言ってくれたわよ」
サントロさんは母に押し切られているんだろうなぁ。
「私は明日グレスク町へ行っちゃうんだからお母さんはサントロさんにお受けしますってちゃんと言ってよ」
「わかっているわよ」
この後も夜が更けるまで母と話をした。お互い涙ぐんでしまったのは仕方がないと思う。
翌日、私達の出発にはたくさんの人が見送りに来てくれた。伯爵家の方々やハナノイさん達使用人の皆さん。騎士団の人もいる。
サントロさんに近づいて
「母をお願いします」
と言ったらとても嬉しそうに
「任せてください」
と言ってくれた。ついでにバーナルに
「お姉ちゃんと呼んでいいわよ」
と言ったら
「呼ばない。でもヨーコさんは母さんって呼ぶ」
と言って顔を晒されてしまった。
馬車に乗り込んで窓を開けて皆んなを見る。母がこちらに来た。
「沙彩、何処にいても自分の行動次第で幸せになれるのよ。幸せになってね」
「うん。お母さんもね」
馬車が走り出したので皆んなに向かって手を振った。
「幸せにするよ」
隣でタクトさんが言う。
「私もタクトさんを幸せにします」
二人で顔を見合わせ笑ってしまう。
「じゃあ、二人とも幸せになるね」
そんな話を出来ることが幸せなんだと思う。
完結しました。
拙い文章を最後まで呼んで頂きありがとうございました。




