流星群
###母 洋子
「今夜ですか」
「おそらく。はっきりとは言えませんが」
シューイさんから確認されるけれど絶対に大丈夫と言う確信はまだ持てない。
「わかりました。サントロ、すぐに準備を」
「はい。失礼します」
サントロさんが部屋から出て行く。
「ライン」
シューイさんが呼ぶとラインさんが現れた。どこにいたのだろう。
「今夜だ。兄上に伝令を。町中に今夜だと知らせる」
「承知致しました」
ラインさんも急いで出ていった。
「私達も準備をしましょう」
サリーナさんに言われ頷く。
「サリーナ、避難してくる町民がどれくらいいるかわからないが、全て引き受ける。頼んだ」
「畏まりました」
早めの夕飯を食べ避難してくる人達のための食事や休む場所を準備していると、ぽつぽつと人が集まってきた。皆んな不安なのだろう。
サリーナさんが流星群の話、魔物の話、その対策のために騎士団が備えている事を説明していく。
夜がふけてきたころ
「星が流れた」
その声を聞いて、サリーナさんと2階のバルコニーに出て空を見ると真っ黒な中に満天の星。その中から溢れたようにひとつの星が落ちる。
流星群が始まった。
「こちらへ」
キャトリさんがサリーナさんと私を屋上へ連れて行く。屋上にはシューイさんとラインさんがいた。
「あれを」
シューイさんが示したのは砦の近くのあの曲がった木の所だ。火が燃えている。近くにいればごうごうと音が聞こえてきそうなくらい燃え盛っている。
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「騎士団が魔物を討伐してくれます。私達も出来る事をしましょう」
皆で頷いた。
###クロナン伯爵邸 沙彩
「星が流れた」
その声を聞いて、私は広間にいる人達を見ると大奥様、若奥様、ハナノイさんや使用人の皆さんが強張った顔をしていた。
バルコニーへ出て空を見ると流れ星をひとつふたつと見つけた。
騒ぐ人はいないけれど目を瞑っている人、祈っている人、興味深そうに空を見ている人などいろいろな人がいる。
「サーヤ、本当に何も起こらないの?」
大奥様からもう何度も同じ事を聞かれる。
「はい、私のいたところでは見て楽しんでいました」
「そう、それならいいのだけれど」
グレスク町から連絡があり今夜になるとわかってから伯爵やトールさんは精力的に動き回り準備をした。何も起こらなければいいのだけれど。
少しずつ流れ星の数が増えて来た。
「綺麗」
若奥様が呟く。
空気が綺麗なのだろう。日本とは比べようもないくらいの流れ星。『星が降る』とはこのこと。
プラネタリウム以上の天体ショーになっている。
この世界の人達が不安や恐怖ではなくこの天体ショーを楽しんで見られればいいな。
###王都 辺境伯夫人ハーナ
「星が流れた」
その声を聞いて、緊張がはしった。
「始まったか」
「はい」
陛下とバルコニーへ出る。
陛下の執務室でマキト兄様や宰相、騎士団長と流星群の対策をしていた。
遅い時間になったので皆は帰り私は陛下と少し話をしていてそろそろお暇しようとしていた矢先に声が聞こえた。
今日の昼に話をしてからの陛下の動きは早かった。会ったこともないヨーコさんを、聖女を信じてもらえたのか。私でさえ信じてはいるけれど確信は持てないのに。
陛下は部屋にいた護衛や侍女に指示をだす。
流星群の話をしてまだ半日程しか経っていない。どれほどの人が信じてくれたのだろうか。暴動は起きないだろうか。他の町や村への伝令は到着しているだろうか。
夜空の流れ星は間隔を空けずに流れるようになって来た。
###グレスク町砦 サントロ騎士団長
「星が流れた」
その声を聞いてタクト様と顔を見合わせる。
「来る」
シューイ町長に砦の準備状況を報告した時にヨーコさんから今夜流星群が起こると言われた。
急いで砦に帰りタクト様に報告し対策する。この2日で出来るだけの準備をした。
次期町長になるタクト様はグレスク町の事をよく勉強しており魔物の知識も豊富だ。
タクト様の知識、私の経験を合わせて準備を進める。
陽が暮れ始めた頃に積み上げた薪に火を付ける。火を嫌う魔物は多い。砦に駐在中の騎士団が町に近づく魔物を定期的に退治しているので森の浅い所には強い魔物はいないけれど、流星群といういつもと違う空に触発され森の奥から強い魔物が出て来るかもしれない。
ヨーコさんの夢見でも人よりも大きい魔物が数体いたと言っていた。
辺りが真っ暗になった頃、森の中からこちらを見ている魔物の目を見つけるようになった。声も聞こえる。焚き火が効果を出していてまだこちらには来ないが。
深追いはしない。こちらに向かって来たものだけを相手にする。
全員に周知徹底した。
正面にタクト様、右に私、左に第2隊隊長のフラットが展開し迎え撃つ。
星が流れ始めた頃から今迄の魔物だけでなく明らかに目の位置が高い魔物が見えるようになった。
「来るぞ。グレスクを守る」
「「「「「おぉ」」」」」
タクト様の言葉に私の後ろにいた騎士達の気合の入った声がする。
「よし」
思わず呟いた。
様々な罠を仕掛けた。忍び返しから落とし穴まで。
陽が昇り始めうっすらと明るくなって来た頃には魔物は森に戻っていった。
怪我人多数。死者は無し。防衛線を突破した魔物無し。魔物の町への被害無し。
長い夜が終わった。




