文官
今日学校を卒業する。
ここでは卒業式などが無く、先生に挨拶をするだけ。
朝登校する時に年少の子達が寂しそうだったけれど(いつの間にか皆んなで一緒に登校するようになっていた)
「今度から学校へ行く子にいろいろ教えてあげてね」と言ったら
「任せて」
とライフ君が言った。ライフ君は今まで1番下ということもあり面倒見も良いから下の子が入るのが楽しみなんだろう(私も学校に通い始めた時にいろいろ教えてもらったな)
お爺ちゃん先生に挨拶をして学校を出る。短い間だったけれど楽しかった。友人も出来た。学校へ通えて良かったと思う。
伯爵家へ戻ると母が待っていた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう」
この世界で、もしかしたら貴族の学校ではあるのかもしれないけれど、平民の学校では働くための勉強という考えのため卒業おめでとうとは言われない。
厳しい世界だと思う。
日本の慣習が身についている私は母のおめでとうの言葉が甘いと言われるかもしれないけれどとても嬉しい。
母は午後から休みを取っており私と町に明日から必要な物の買い物に行く。
私は明日からクロナン伯爵家の文官になる。試験は難しかったけれど合格出来て良かった。
今回筆記試験を受けたのは八人。合格は二人。二人受かるのは5年ぶりらしい。昨年は合格者はいなかったそうだ。
1番だったのはミカトさん。商会の次男で3度目の受験で合格した。
私は2番だった。読み書き、計算は良かったのだけれど歴史がギリギリだった。
クロナン伯爵家文官試験
①人物調査 素行調査や他家の間諜調査など。
② ①に合格した者のみで行われる筆記試験。
読み書き。計算。歴史。
3点全て90%正解しなければならない。
さらにこの試験の驚いた所が合格者の試験用紙の開示。合格発表の日、問題と答え、そして合格者の回答が張り出される。
合格出来なかった人達が自分の答案用紙を受け取り答え合わせをしつつ、合格者の回答をみて採点ミスがないか、どんな回答をしたか確認する。縁故採用ではなく実力で合格したとわかるようになっている。
クロナン伯爵家は実力主義だ。
だからこその開示でありその為疑いも不公平さもない。
そしてこの開示は受験生だけでなく3日間誰もが見られるようになっている。
恥ずかしいけれどこの開示のおかげで文官の先輩に認められるのだから我慢だ。
開示されて
「サーヤさんはやはり歴史が難しかったようですね」
回答を見たタクトさんが話しかけてきた。
「流れはわかるのですが細かいことは間違えてしまいました」
「こちらに来てからの日数を考えるとよく勉強されていると思いますよ。それに読み書き計算は素晴らしいです」
「ありがとうございます。向こうでもありましたから。特に計算は自信があります」
そう、この世界の計算は算数だ。数学でなく算数。日本でも数学が好きだったのでこちらの計算は問題がない。そもそも日本であの数学は一般の生活に必要だったのだろうか。
こちらの世界では算数で充分なのだから。
「それでは私の所に来た時には力を発揮してもらいましょうかね」
「お任せください」
「「ハハハ」」
新人文官は初めは各部署を全て廻りその後配置される。
タクトさんとはこんな冗談も言えるようになっている。伯爵家の方々は皆、私達に気を遣い何かと声をかけてくれるため気安く話す間柄になっている。
お世話になりっぱなしなので文官になったら伯爵家のために一生懸命働こう。
母と町へ買い物に出かける。
いつものことながら護衛はサントロさん。最近はバーナルも一緒に出掛けている。
そしてこれもいつものことながら町の人達からの
「団長、いつ一緒になるんだい」
「奥さん、これを見てっておくれ」
サントロさんへの言葉。やじ?なのかな。
サントロさんは
「違います」
と言っているけれど
「ハハハ」「わかっているよ」
と笑いが起こる。揶揄っているだけなのだけれど真面目なサントロさんは必死に否定するから。
「お母さんを見習えば良いのに」
「たしかに、あれはすごい」
私の呟きにバーナルから返事があった。
母は町の人達に
「おまけしてね」
と言いながらサントロさんの事は固定も否定もせず、町の人達と談笑しながら歩いていく。
呆気にとられるというか立ち居振る舞いが上手だというだろうか。バーナルの言うように母はすごい。
伯爵邸へ戻る頃にはサントロさんはぐったりしていた。
私は母がサントロさんと再婚しても良いと思っている。たぶんサントロさんは母に好意を持っているだろう。
「サントロさんをどう思う?」
母に聞いた事があるのだけれど、
「良い人よ。沙彩が言っている事が恋愛の意味なら今は考えられないわ。今はこの世界で生きていくための事を考えないとね」
と言われた。そうなんだけれど。
お父さんが亡くなってから一人で頑張ってきたんだからサントロさんとの事を考えても良いのに。
日本にいたらお婆ちゃんや伯母さん達に横やりを入れられるけれどここにはそんな人はいない。
私が文官になって働き始めたら少しは考えてくれるかな。




