夢見
「沙彩、沙彩、起きて」
「もう時間?」
私は今日から学校に行く。昨日なかなか寝付けなかったから寝坊してしまった。と思って飛び起きたのに
「まだ1時間は大丈夫よ」
母が言うけれど
「じゃあ、なんで…あっ、もしかしたら夢を見た?」
以前にも夢を見てそれを私に話すために朝早く起こされた事を思い出す。
「そう。今回はちょっと危ないのよ」
「どんな夢?」
「馬車の車輪が外れちゃって中にいた伯爵が怪我をするんだけれど、命には別状はないんだけれど怪我をして腕の骨が折れるっていう夢だったわ」
「えぇぇぇ、それは内緒にしてては駄目だよ」
「そう思うけれど…」
確かにこの話をしたら聖女の力とか言われて、どうなるかわからない。伯爵家の人達がどうこうとはないと思うけれど、王都に報告されたらどうなるかわからない。
でも、言わなくてもし伯爵様が怪我をしたら絶対後悔すると思う。
「どうする。お母さん。言わないのは駄目だよね」
「そうよね。どうしましょう」
二人で無言になってしまう。
「沙彩も夢を見たことにするとか」
「なんで、私もなの?二人で同じ夢を見たってこと?それはおかしいよ」
「そうかぁ。私が夢を見たって言うよりも沙彩が見たほうが良いと思ったのよ」
「えぇ、なんで?」
「若い子の方が聖女って感じがするし、おばさんよりも皆んなが喜びそうかなと思って」
「そ、それは、そんな事はないと思う。たぶん」
ちょっとそうかなって思った。小説でも聖女って若くて美人で王子様の婚約者だったりする。
「いろんな聖女がいても良いと思うょ」
最後は声が小さくなってしまった。今更変えられないからね。
「まあ、今更だしね」
さすが親子。同じ考えだった。
「やっぱり、話した方がいいかなぁ。沙彩も本当は夢を見ていることにするとか?」
母が変な事を言い出した。
「見てない。たぶん聖女はお母さん。私は聖女かもしれないお母さんの娘」
母が大きなため息を吐く。
「普通に暮らしたい」
「そうだね」
ああだこうだと二人で話し合った結果、サントロさんに話すことにした。他の人に何とか母が聖女だとわからないようにして欲しいとサントロさんに相談する。本当は伯爵様とかにも内緒にしてもらいたいけれど難しいよね。
朝食のために食堂へ行きサントロさんを探すと、バーナル君と食事中だったけれどもう終わりそうなので会えて良かった。
「おはようございます。こちらよろしいですか」
母と二人でサントロさんのいるテーブルへ行き同席する。
「おはようございます。ヨーコさん、サーヤさん」
「お、おはようございます」
「おはようございます。サントロ団長、バーナル君」
バーナル君の前だからサントロ団長と挨拶をするとバーナル君が
「バーナルでいいし、団長を付けなくてもいい」
と小さな声で言うので
「じゃあ、私もサーヤって呼んでね」
と言うと
「あぁ」
とまたまた小さな声で話す。人見知りなのかな。
食事を始める。今日の朝食はスープとパンと果物。昨日とはスープの味付けが違うみたい。コンソメのような味でこちらも美味しい。
「バーナル君、今日からサーヤをよろしくね」
今日から私も学校へ行くのでバーナルに護衛をしてもらうから私も言わないと。
「よろしくお願いします」
頭を下げる。
「はい」
バーナルは小さな声で母へ返事をした。それでもサントロさんから「頼んだ」と言われた時ははっきりと
「わかった」
と言っていた。
「サントロさんは今日はどうするのですか」
母がサントロさんへ話しかける。
これは『夢見』の話をするために私達が考えた。サントロさんの行動を聞いてその後伯爵様の行動を聞く。馬車に乗る予定が無ければ今日は大丈夫だから時間のある時にゆっくり話を聞いてもらう。
今日、馬車に乗るならばなんとかサントロさんに『夢見』を信用してもらわないといけない。
『夢見』の話なんて信じられないから。
サントロさんは食事が終わっだけれど母の質問に答えてくれる。
「今日は伯爵が領地の見廻りに行くからその護衛です。あ、昨日のラスターの件でしたら試作品が出来たら連絡が来ますので心配ないです」
「はい。わかりました。それで、見廻りは騎馬で行かれるのですか」
『お母さん話の持っていきかたが強引』
「父さん、先に戻っているね」
食事が終わったナーバルは部屋に戻って行く。
「見廻りの時ですが、伯爵は馬車です。私は馬車の隣を護衛として騎馬で行きます」
「あ、あの、馬車の点検はされていますか」
『お母さん、頑張れ』
「御者がしているはずですが、どうしたのですか」
「……夢を」
「ゆめ?」
「夢を見ました。馬車の車輪が外れて伯爵様が怪我をします」
『お母さん、言った』
「それは夢の話ですよね」
サントロさんはなんとも言えない顔をしている。夢の話をされてもだから何?ってなりますよね。
「お母さん、他の夢の話もしないと」
「そ、そうね。あのサントロさん、聞いてください」
馬鹿にするでもなくサントロさんは話を聞いてくれる。調理場やドレスの話をする。
「今まではそれほど大した事ではなかったので話さなかったのですが今回はお知らせした方が良いかと思いました」
「すぐには信じられませんが、私が馬車を見てきます。車輪が外れるのでしたね」
「はい。信じて貰えるのですか」
「ヨーコさんが嘘をつくとは思えませんから。確認してきます」
この後、母と私は伯爵に呼ばれた。どうやら馬車の車軸に歪みが見られたらしい。
執務室に行くと伯爵とサントロさんがいた。
出来れば聖女の力は内密にしてほしいと思う。