大奥様
食事が終わり身支度のために部屋に戻る。
ハナノイさんと連れ立って使用人の朝礼のようなものする食堂へ再び向かう。そこで母と私は紹介されるのだけれど…緊張してきた。
執事のローランさんに呼ばれて前にでる。
「伯爵家の親類のヨーコさんとサーヤさんです。上級侍女としてヨーコさんは大奥様の専任侍女、サーヤさんは学校へ通います。二人共こちらへ」
ローランさんに呼ばれて前にでる。ううう、緊張する。
「ヨーコです。よろしくお願いします」
えぇぇ
お母さん、それだけでいいの?
「サーヤです。お願いします」
もっと何か言わないといけないと思っていたから気が抜けた。
朝礼が終わりハナノイさんに母と二人大奥様の所へ挨拶に向かう。
母が大奥様付きになる事もだけれど大奥様は私達が聖女召喚者とご存知なので一度私とも顔合わせをしたいと仰っているそうだ。
「大奥様、ヨーコさんとサーヤさんをお連れしました」
ベットの上でクッションにもたれて座っている上品な夫人がこちらを見ている。
「聖女様、このような姿で申し訳ありません。体の自由が効かないので」
大奥様は深々と頭を下げる。
「やめてください」
母が慌てて止める。
「私も娘も聖女の力が出ていません。これからこちらで働くので、聖女では無く領都に出てきた親類の親子として扱ってください。働かせていただけてとても感謝しています」
「それでは私は聖女様をヨーコ、サーヤと呼ばなければならないのですか」
大奥様はハナノイさんを見てため息を吐く。
「大奥様、旦那様も奥様もそう呼ぶ事になっています。お二人を匿うためですよ」
「はぁ、わかりました。よろしくお願いしますね。ヨーコ」
「こちらこそお願いします」
「それでは」
ハナノイさんが声をかける。
「仕事の説明をしますね。あっ、サーヤさんは今日はどうされますか?」
「明日からの学校の準備をしたいです。何が必要ですか」
私は学校の成績は良い方だった。私の成績が悪いとお婆ちゃんが母に小言を言うから、少しでも母に負担をかけないようにしていたから。
「準備するものはありませんが、少し歴史の本を読んだ方がいいでしょう」
「図書室から本を持ってきて隣の部屋で読んでいたらどう」
ハナノイさんと大奥様が提案してくれたので今日の大奥様担当の侍女ナライさんと図書室へ行き本を選ぶ。
今まで大奥様の専任侍女はハナノイさん一人で他の侍女は毎日交代で大奥様につく。大奥様は気難しので侍女の中では大奥様担当の日は外れの日と言われている。
今日の大奥様はとても機嫌が良いので良かった。
と、図書室へ行く途中にナライさんから教えて貰った。
私にはそんなに気難しく思えなかったけれど。
###母 洋子
ハナノイさんから仕事の説明を受ける。
大奥様は足が弱っているので立ち上がる時、移動する時に手伝いが必要になる。
長い距離には車椅子のようなものを使うけれど振動が伝わるため使いにくく大奥様も敬遠しがちで、外に出る事が減ってしまった。
私は訪問介護をしていた時に歩かなければ歩けなくなると聞いた。
「杖を使って歩かれないのですか」
「握力が弱くなっているので杖では体を支えることが出来ないのです」
ハナノイさんがため息を吐く。
「思った通りに動けないので時々イライラして癇癪を起こしたりもするので侍女達が大奥様担当を嫌がります」
「そうなのですか。私は介護の勉強をしていますので何か役に立てる事があればいいのですが」
「介護…ですか」
「あ、すみません。介護というのは体の不自由な方、特に歳をとっていくに連れて体や行動や記憶が変化していくのでその方達の生活を手助けする仕事です」
「まあ、その介護を勉強する事が出来るのですか」
「はい。学校もありました」
「それは良いですね」
ハナノイさんと介護の話で盛り上がり、大奥様の話になる。
「大奥様も歩行器があればもっと自分で歩けると思います」
「歩行器ですか。どの様なものですか」
「大奥様の様に握力がなくて杖が使えず足が弱っている人が使うとゆっくりですが自分で歩いて移動出来ます。
形は机を細長くしてタイヤをつけたものです。
肘を上に乗せて自分の体を支えて進みます」
「何となく形はわかりますが…。旦那様に相談しても良いですか。それがあれば大奥様も部屋から出るようになられると思います」
「…私は構いませんが」
ハナノイさんの食いつきが余りにも強かったので驚いた。
大奥様の朝の身支度を整えて、食事の準備をする。
身支度の時、大奥様は椅子を支えにして立ち上がり、左右を侍女に持って貰い歩いていた。
椅子では不安定になるし、移動も両腕を掴まれば侍女一人でも十分出来る。
後でハナノイさんに説明してみよう。