使用人として
今回母は夢を見なかったらしい。見たのかもしれないけれど覚えていなかった。聖女の力は思い違いなのかもしれない。
昨日伯爵様と話をしたばかりなのに母は今日から仕事を始める。
キャトリさんは今朝早くグレスク町に帰って行った。本当にお世話になって、きっとキャトリさんが居なかったらこんなに早く異世界転移を受け入れていなかったと思う。本当に感謝している。
キャトリさんが居なくなって寂しい。
朝、キャトリさんが準備してくれた服を着て身支度をしていると侍女長のハナノイさんが部屋に来て挨拶してくれる。
「聖女のヨーコ様とサーヤ様、侍女長のハナノイと申します。よろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
挨拶を返す。
「旦那様から聖女様の事情をお聞きしました。これから一緒に働いてくださると。
聖女様の事は伯爵家の方や護衛の方の他は執事のローランと私しか知りません。
申し訳ありませんが他の侍女の手前伯爵家の遠縁の侍女の扱いをいたします。御了承願います」
「私達は大丈夫です。他の侍女の方々と同じようにしてください。これからここで生活していかなければらないのです」
母は覚悟を決めたように思う。
ハナノイさんに従って使用人用の部屋へ移る。
部屋は使用人部屋にしてはひろいと思う。お風呂、トイレ、小さなキッチンもある。
「こちらになります」
「使用人部屋にしては広くないでしょうか」
母もおかしいと思っているみたい。
「ヨーコ様、これからは侍女扱いなので失礼ですがヨーコさんと呼びます」
「はい」
「ヨーコさんは大奥様付きの専任侍女になりますので上級使用人となります。上級使用人は皆このような部屋なので安心してください。それから私の部屋は隣です。何かありましたら言ってくださいね」
「隣にしてくださったんですか」
「伯爵様からの指示です」
「あっ。ご迷惑をおかけします」
「謝らなくても良いんですよ。お二人の事を思えばこちらが謝らなければならないのですから」
母とハナノイさんは気が合うようでよかった。
朝食の時間になったので食堂へ案内される。
「使用人の食事は基本こちらでします。少し煩いですけれど」
大勢の人が行き来している。子供もいる。今から学校へ行くのだろう。
渡された食事の乗ったトレーを持ち席につく。いくつもあるテーブルの空いている所を探して座り食事を始める。
少し固い黒パンと野菜の具沢山スープとピンク色のリンゴのような果物がある。
黒パンを手に取ると少し固い。そういえば今日まで柔らかい白パンを食べていた。これもタクトさん達の気遣いなんだろう。
ハナノイさんがパンをちぎってスープにしたして食べているのを見て真似をする。
「美味しい」
スープは野菜の旨味が出ていて味が濃厚。
「ありがとう」
ハナノイさんがお礼を言いながら微笑むので
『なぜ』と思っていると
「料理長は旦那なんです」
少し赤くなって教えてくれた。
「おはようございます」
食事をしているとトレーを持った人がテーブルの所にいた。
「おはようございます。サントロさん」
母が挨拶した人を見るとサントロさんだった。
「おはようございます」
私も慌てて挨拶する。
「おはようございます。団長」
ハナノイさんが挨拶をして思い出した。
そうだ。サントロさんは騎士団団長だった。名前で呼んでしまった。
恐る恐るサントロさんを見るといつもの優しい微笑みだ。良かった。
「父は騎士団団長です」
サントロさんの後ろから声がした。
「息子さん?」
母がサントロさんに聞くと
「騎士団団長サントロの息子バーナルです。よろしくお願いします」
男の子が答えた。
「騎士団団長のお父様が誇りなのですね」
母がその子を見て言うと真っ赤になってしまった。
「こちらへどうぞ。サントロ団長」
ハナノイさんが二人に席をすすめる。
「ゆっくり休めましたか」
「ありがとうございます。はい。疲れがとれました」
母とサントロさんの会話が続く。
「サーヤさんは明日から学校へ通うのですよね」
「はい。そう聞いています」
サントロさんに急に聞かれて驚いた。
「バーナルは15歳なのでサーヤさんと同じ組になります。学校での護衛はバーナルに任せる事にしました」
バーナルさんを見る。期待に満ちた顔をしている。
「学校への行き来もなるべく一緒にしてください」
サントロさんに言われるが
「それではバーナルさんに迷惑をお掛けしませんか」
バーナルさんにそこまでしてもらうのはどうかと思う。
そう思って言ったのだけれど
「バーナルは団長の息子だからかその辺りの大人よりも強いから安心ね。それに卒業したら騎士団に入る予定になっているからサーヤさんを守る騎士になれて良かったんじゃないかしら」
ハナノイさんに言われたバーナルは横を向いてしまった。
「ハハハ、バーナルには良い経験になります。伯爵家の親類の護衛ですからね」
サントロさんはケラケラ笑いながらこちらを見るので、何となく言いたい事がわかった。
『バーナルには聖女の話はしていない』と。
私は明日から学校へ行く。とても楽しみにしているけれど平民の学校は午前中のみで午後は家の手伝いをする子供が多く私の午後の予定は決まっていない。どうしようか。




