クロナン辺境伯爵
途中作ってもらったお弁当(サンドイッチのような物)を途中で食べて順調に進んでいく。
城壁で囲まれた大きな都市が見えた。
馬車はクロナン伯爵家の馬車でタクトさんが御者をしているので皆が並んでいる大門をやり過ごして近くにある小ぶりな門へ誘導される。キャトリさん曰く『貴族専用門』らしい。
街の中へはいる。
馬車の窓をを開けて町の様子が見たかったけれど今はまだ顔を知られない方がいいと言われ諦めた。
クロナン伯爵家で保護してもらえると聞いているから今後の事が決まったらゆっくり見学しよう。
要塞のような伯爵邸に入り応接室に通される。ここでもタクトさんとサントロさんと母と私の4人だ。
扉が開き細身だが鍛えている体つきの男性と濃い紫色のドレスを着た妖艶な美女が入ってきた。
濃い紫のドレスを着た女性
母の言葉を思い出す。
「ようこそ聖女様、私はリュート・クロナン。クロナン辺境伯爵を賜っております。こちらは妻のハーナです」
「ハーナです」
2人は騎士、淑女の挨拶をする。
慌てて母が挨拶する。
「私はヨーコ、隣が娘のサーヤです。よろしくお願いします。私達は平民でしっかりした言葉使いも出来ないのでそのあたりを考慮してもらえたらと思います」
「サーヤです。よろしくお願いします」
頭を下げる。
「父上、話を進めましょう」
タクトさんがこれまでの事を伯爵様へ話す。時々サントロさんや母が話に入りながら。
私はハーナ様を見ていた。濃い紫のドレスから目が離せない。
「サーヤ様、どうされましたか」
あまりも私が凝視していたせいかハーナ様が問いかけられる。
「えっ、あの、すみません。お綺麗でしたのでつい」
しどろもどろと言い訳をして俯いてしまう。
「可愛らしいのですね。サーヤ様は」
「母上、サーヤさんをからかわないでください」
タクトさん。
「あらあら、タクトはしっかりサーヤ様の護衛をしているのね」
「母上、怒りますよ」
「はいはい」
ハーナ様は悪戯が成功したような顔をして微笑んだ。
つられて私も笑ってしまう。
「ごめんなさいね。こちらの都合でこの世界に呼び出してしまって。向こうに大切な物があったでしょう」
「申し訳ない」
いつの間にかこちらにきていた伯爵様にも頭をさげられる。
母と顔を見合わせる。
「大切な物がないとは言えません。家族や友人の事もありますし。でも、1番心配で大事な娘が一緒ですから」
「母と二人なので…」
なんだか照れ臭い。
それにノースリー国が悪く無いのはわかっているから。
「ヨーコ様、サーヤ様、聖女の力は現れましたか」
伯爵様に問われる。
『夢』
の話はした方がいいのかと考えていると
「何も変わりません。前回の聖女様はどのような力だったのでしょうか」
前回の聖女様も力が発現しなかったと聞いたと思うけれども。母は伯爵様に聞いた。
「力の発現は無かったとされています。そうですね。申し訳ない。聖女様を前に少し浮かれていたようです」
「いいえ、私達も何かありましたらすぐにお話しします」
母は知っていて聞いた。それは伯爵様に前の聖女も何も無かったのだから私達にも何も無くてもおかしくない。と暗に言ったという事。だから期待するなと。母のそんな強気な所は初めて見たので驚いた。父が亡くなって12年、母は逞しく生きてきたんだと改めて思う。
先程着いたばかりでもあり、もう晩餐の時間が近いのという事で応接室を後にして部屋へ行く。
ここでもキャトリさんが私達の世話をしてくれるようだ。こういった心遣いがとても嬉しい。
夕食もお風呂も部屋で済ませて就寝の準備をする。
キャトリさんが部屋を出たのを見て母に向き合う。
「濃い紫のドレスだったね」
「そうね。それに伯爵様や夫人の顔も夢で見た通りだったのよ。…はぁぁ」
「それって聖女の力なんじゃあないの?」
「私もそうかもしれないとは思うけれど、なんていうかぱっとしないっていうか」
「そうだけれど。確かに小説とかだと天変地異を予言とかだからね」
「そうなのよ。だからもう少し様子を見てみようかと思う」
母は夢がしょぼい事に本当に聖女の力なのか悩んでいる。もう少し様子見かな。
「わかった。私にはどんな小さな事でもいいから教えてね」
「もちろんよ。相談できるのは沙彩しかいないわ」
うん。またまた照れくさい。
「もう寝る」
私は就寝した。
###母 洋子
まさか私の方に力が現れるなんて。
それもこんなぱっとしない力だし。
こんなおばさんが聖女なんてがっかりされるわ。
もう少し様子をみましょう。